東京・町田にある「小さな村」をテーマにした、町田の認可保育園「しぜんの国保育園smallvillage」。
こどもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしています。園長である齋藤美和さんが、子どもとの暮らしにつながるものづくりをしているお母さんたちを訪ねます。第3回目は、電通のアートディレクターとして働く傍ら、アーティストとして国内外で作品を発表している、えぐちりかさんのお話です。
アートディレクターとしてのえぐちりかさんの作品は、なじみのあるものばかり
思わずかぶりつきたくなるような絵本「パンのおうさまシリーズ」シリーズ(小学館)や、「PEACH JOHN」CMやポスター、TBS「TBS6チェン!」キャンペーン広告、木村カエラさん「EGG」のジャケットなど、えぐちさんのお仕事は、いつも夢に溢れていて、ワクワクします。作品のアーカイブを見てみると、この作品もえぐちさんの作品だったんだ!と思うものばかり。心にそっと居続ける、子どものころ見た夢のような雰囲気もあって、懐かしいような気持ちになります。
電通で働きながら、絵本や自分の作品も行くっているえぐちさん。3人のお子さんの子育てをしながら、お仕事を続けて、どんなに忙しい毎日を送っているだろう。せっかくの土曜日に申し訳ないなという思いも持ちつつ、ご自宅にお邪魔するとおだやかな笑顔でえぐちさんが迎え入れてくださいました。
子どもと暮らすということは常に新しい自分に出会うこと
ーせっかくのお休みの日に、ありがとうございます。すごく素敵なおうちですね。お子さんが3人もいらっしゃると思えないくらい、すっきり美しいです……!
「いえいえ。本当に子どもと暮らすというのは、常に新しい自分に出会う感じですね。独身時代、家庭的なタイプだと思っていたんですけど(笑)部屋も、いつも綺麗にキープして。でも、結婚して子どもが生まれて生活が始まると、頭で思っているようにいかないなって思います」
ー子育てが始まると思ったことが予定通りに全然進まないですよね。私もそうです……。
えぐちさんは、保育園に預けるという選択はずっと考えていたのですか?
「長男は小学生で、下の二人は長男が卒園した保育園に通っています。なので3人とも同じ保育園に通う事が出来ました。私自身が、6ヶ月から保育園に通っているので、何の先入観もありませんでした。本当に保育園があるから3人の子育てができると思います。保育園がなかったら、産めなかったと思うほどです。働くお母さんにとって保育園は励みだと思いますよ。」
ーそれを聞いて、私もうれしいです。えぐちさんのお子さんが通っている保育園の先生方に聞かせてあげたい(笑)保育者って、なかなかそういう気持ちが届くことがないので。
「確かにそうですよね……なんだか恥ずかしくて、私も卒園の時にやっと伝えられました(笑)。でも本当に毎日感謝の気持ちでいっぱいです。きっと周りのお母さんたちもそうだと思います。
実は長男が2歳くらいの頃、英語に興味を持つようになったので、保育園で英語をやらないのかとたずねたことがあったんですよ。英語って楽しそうですよ、って。そうしたら、保育士さんが、「日々の遊びの中から、たくさんの学びがある」ということを説明してくださったんです。それがとても腑に落ちて。
保育園で日々生活しているから学べること、友達との関係性をじっくり見守ってくれること。すごく丁寧に見てくれています。それ以外にも、子育てて悩んだ時も、保育士さんにたくさん相談にのってもらっています。」
ー私も、保育園がご家庭にとって実家のような役割になるといいなと思って過ごしています。
「私たちも核家族なので、シルバー人材センターや、ファミリーサポートを頼っています。」
ーそうなんですね!
「ずっと同じ方が来てくださっていて。自分の母親みたいな感じです。大変な時には、お迎え、洗濯、料理もしてくれる。仕事と子育ての両立に悩んだ時には、話も聞いてくれて。
『大変なこともあるけれど、仕事があるということは、本当にありがたいことなのよ』って話してくれたんです。その日のことは7年経った今でも忘れられないですね。その方も、私も泣きながら話しました。今、思い出しても泣けちゃう。もう80歳を超えていますが、何かあれば飛んでいくからねと言ってくれて、その存在に何度も助けられました。私が心から尊敬している女性です。」
ーそうやって、頼れる方を探すというのは本当に大事だと思います。えぐちさんは、どうやってそのシルバー人材センターや、ファミリーサポートを知ったんですか?
「実は出産した時に、区から来た書類にフセンをつけて隅から隅まで熟読したんです。仕事ぐらい、とことん調べましたね。核家族で夫婦で仕事をしていくから、区も会社の制度もちゃんと使って準備したいと資料として、まとめました(笑)。保育園も、自分の目でちゃんと見て空気とかも感じて、たくさん見学に行って決めました。」
3人目が生まれた、家族のメンバーが全員揃ったという感覚になった
ーすごい、その資料みたいです(笑)。
「ふふふ。実は最近やっと捨てられたんですよ。3人目が生まれたことによって、メンバーが揃ったな!という感覚があって。もう必要ないと思って。」
ーメンバーが揃うっていい言葉ですね!お子さんが3人になって変わってことはありますか?
「3人産んで、仕事の量を考えましたね。『一つ手に入れたら、一つ手放す』というのを頭に入れておいて。大変な時は諦めて、またタイミングを見てできるようになってきたらやろう!と思うようになりました。」
ー会社でも、子育てしている方が多いのですか?
「はい、多いですし、今も増えてもいますね。職場の先輩に子育ての相談をすることもあります。『目をつぶって、駆け抜けていくしかないよ!』って言ってもらえたのをおぼえています。励みになりましたね。会社は、働き方の選択肢が沢山あるのでそれぞれのペースで復帰しています。」
ー頼れるところをしっかり探して、会社や区の制度を利用しているところ、是非読者の皆さんにもお伝えしたいです。こうして、ヘルプが言える事とても大事だと思います。
「結婚する前は、家事も育児も自分で全部やるつもりだったんです。でも、現実は思い通りに行かなくて。3年くらいは落ち込む事もありましたね。今は朝食作りと送りは夫がやってくれて、お迎えや残業も夫とうまくやりくりしています。夫は、男なんだから、女なんだからというのが一切ありませんね。一緒にやろう、と言ってくれます。それは、本当にすごいことだな、って思っています。」
取材を終えて
3人の子育てをしながら、電通でアートディレクターをされていると聞いた時、どんなスケジュールで生活をしているのだろう?と思いました。もちろん、お忙しいことは変わりないと思うのですが、えぐちさんはそれをしなやかに、周りの助けを借りながら、5人家族というチームで暮らしているという事が話の中でたくさん感じられました。終始、穏やかでじっくりとお話をして下さるえぐちさん。シルバー人材センターの方との話をした時、目にうっすらと涙が浮かんでいて、えぐちさんの深い優しさや、葛藤、子どもたちと共に歩んできた風景が浮かぶようでした。後編は、絵本作りのこと、子どもたちとの生活から生まれたプロダクトのことなど、制作、ものづくりについてお話を伺っていきたいと思います!
撮影:品田裕美
えぐちりか アーティスト/ アートディレクター
アートディレクターとして働く傍ら、アーティストとして国内外で作品を発表。著書絵本「パンのおうさまシリーズ」シリーズが小学館より発売。広告、アート、絵本、プロダクトなど様々な分野で活動中。主な仕事に、オルビス「オルビスディフェンセラ」、フジテレビ「コンフィデンスマンJP」、PEACH JOHN、ベネッセこどもチャレンジbaby教材デザイン、ソフトバンク「PANTONE6」、TBS「TBS6チェン!」キャンペーン、ストライプインターナショナル「KOE」、PARCO、Laforet原宿、日本とNYで開催したNTTdocomo「ドコモダケアート展」トータルディレクション、「優香グラビア&ボディー」装丁、CHARA、木村カエラ等のアートワークなど。イギリスD&AD金賞、スパイクスアジア金賞銀賞、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、アドフェストブロンズ、インターナショナルアンディーアワード銀賞、JAGDA賞、JAGDA新人賞、ひとつぼ展グランプリ、岡本太郎現代芸術大賞優秀賞、街の本屋が選んだ絵本大賞3位、LIBRO絵本大賞4位、他受賞多数。青山学院大学総合文化政策学部えぐちりかラボ非常勤教員。HP http://eguchirika.com
BLOG http://eguchirika-blog.com
斎藤美和 しぜんの国保育園smallvillage園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムを企画運営する。2017年当園の副園長となる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。町田市接続カリキュラム検討委員。齋藤美和 Instagram 「しぜんの国保育園」