「一張羅」とは?
「一張羅」という言葉を見聞きしたことはありますか? もしかしたら、ご年配の方が使っているのを聞いたことがあるかもしれませんね。最近ではあまり使われなくなってきた言葉なので、一張羅という言葉についてあらためて確認していきましょう!
読み方と意味
「一張羅」とは、「いっちょうら」と読みます。意味は2つあり、1つ目は「持っている服の中で、最も良い服」。ここぞという時に着る、とびきり良い服やとっておきの服と言ってもいいでしょう。
2つ目は、「他には服を持っておらず、たった1着きりの服」という意味。その人が持つ唯一の服をさします。この場合、たった1着しか持っていないことから、「かけがえのない貴重なもの」というニュアンスを含むこともあるようです。
ちなみに福井県など、一部地域の方言では、「いっちょらい」と言うこともあります。
由来・語源
「一張羅」の語源は諸説あります。まず、「一挺蝋(いっちょうろう)」という言葉がもとになっているという説。「一挺」とは「一つ」、「蝋」とは「蝋燭(ろうそく)」のことです。つまり、1本のろうそくのことで、「灯し替えのきかない、たった1本のろうそく」を表します。
ほかには、「一枚」を意味する「一張」と、「薄い絹」を意味する「羅」を語源とする説。「たった1枚の薄い絹」を表すため、それだけ貴重でかけがえのないものという意味合いにもとれますね。
使い方を例文でチェック!
「一張羅」には、「持っている服の中で、最も良い服」と「たった1着きりの服」という2つの意味があることがわかりましたね。なお、現代ではたった1枚しか服を持っていないことは稀なため、主に前者の意味で使う場合が多いようです。
それでは、「一張羅」の具体的な用例を一緒に見ていきましょう。
1:妹の結婚式には、一張羅の着物を着て行こう。
この例文でさしているのは、「持っている服の中で、最も良いもの」。例文の「着物」を「スーツ」や「ワンピース」などに置き換えても使えますよ。どんな服にせよ、「その人にとっての、とっておきの服」であることがポイントです。
2:一張羅の晴れ着で卒業式に参加した子どもたちは、いつもよりも堂々として見えた。
大人だけではなく、子どもも一張羅を着る機会がありますよね。例えば、例文のように卒業式や入学式、発表会、表彰式などでは、子どもも上等な服でめかしこんで参加します。
3:一張羅の服が汚れてしまい、着る服がなくなってしまった。
こちらは、「たった1着きりの服」をさしています。使う機会はあまりないかもしれませんが、参考程度に使い方を覚えておきましょう。
類語や言い換え表現は?
「一張羅」は、現代ではあまり使われなくなった表現のため、「日常生活で使うには、ややかたい」と感じる方もいるかもしれませんね。そこで、ここでは「一張羅」の類義語・同義語を、「持っている服の中で、最も良いもの」という意味に絞って紹介しましょう。
1:晴れ着
「晴れ着」とは、「はれぎ」と読みます。意味は、お正月やお盆、結婚式など、「晴れの日に着る服」のこと。礼服や正装ともいえますね。ちなみに、晴れの日(ハレの日)に着る服を「晴れ着」と言うのに対し、普段の日(ケの日)に着る服を「普段着」と言いますよ。
2:よそゆき
「よそゆき」には、いくつか意味がありますが、「外出時に着る服や持ち物」をさします。漢字で書くと「余所行き」です。晴れ着ほど飾りたてた服ではありませんが、他人の家を訪問する時に着る、きちんとした服のことをさします。
3:盛装
見た目が華やかになるよう美しく飾り立てた服装を指す「盛装」。同じ「せいそう」と読む語に「正装」もありますが、こちらは飾り立てるというより、かしこまった場にふさわしく正しい儀礼に則った装いをさしますので、「一張羅」の類語としては「盛装」がそれに当たるでしょう。
4:勝負服
「勝負服」とは「しょうぶふく」と読みます。意味は、「騎手がレースで着る上着」「ここぞという時に着る服」。日常の場面では、後者の意味で使われることが多いですね。「明日は勝負服でデートに臨む」など、主に恋愛において、好きな相手の気を引くために着る服のことをさします。
対義語は?
続いて対義語もご紹介します。類語「晴れ着」の項でも出てきた「普段着」や、「平服(へいふく)」などがあります。
1:「普段着」
「一張羅」の対極の意味になる言葉は「普段着」です。「普段着」とは「ふだんぎ」と読み、意味は「家など、日常で着ている服」。Tシャツやスウェット、ゆったりとしたワンピースなどが、普段着に当てはまるでしょうか。
2:「平服(へいふく)」
また「平服(へいふく)」という表現もふだんの外出着を指し、礼服や正装、盛装ではないカジュアルダウンした装いを意味します。「よそゆきではない服」という意味であれば「一張羅」の対義語に当たると考えてよいでしょう。
英語表現は?
「一張羅」を英語で言いたい時には、どのような表現があるのでしょうか? こちらも、「最も良い服」という意味に絞って、その英語表現を紹介しましょう。
1:best clothes
「一張羅」を英語で表現したい場合には、「best clothes」が適しています。「best」は「最上の」、「clothes」は「服」という意味です。「一張羅」の「最も良い服」という意味にぴったり当てはまります。
例文:She was wearing her best clothes at New Year.(彼女は新年に、最も良い服を着ていた)
2:Sunday best
「Sunday best」は、「晴れ着」「よそゆきの服」という意味です。キリスト教において、日曜日に正装して教会に行く習慣があることから、「Sunday best」という言葉ができたそうですよ。なお、「Sunday best」は、「Sunday clothes」とも言うそうです。
例文:My son was decked out in his Sunday best.(息子は晴れ着で着飾っていた)
最後に
今回は、「持っている服の中で、最も良い服」と「たった1着きりの服」という意味を持つ「一張羅」について、語源や使い方、類語、英語表現まで解説しました。「ろうそく」が語源になっていると説明しましたが、現在でも一部地方では、「とっておきの着物」「最も良いもの」「貴重なもの」という意味で、「一丁蠟燭(いっちょうろうそく)」という言葉が使われているそうですよ。
意味だけではなく語源も調べてみると、より言葉の勉強が面白くなるはずです。ぜひ、当記事を参考にして、知識や語彙を増やしてみてくださいね。
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構成・文/結野雅美(京都メディアライン)