『裸の王様』ってどんなお話?
まずは、『裸の王様』が書かれた背景や作者について押さえておきましょう。
アンデルセン童話『裸の王様』
『裸の王様(原題:Kejserens nye klæder)』は、1837年に、デンマークのハンス・クリスチャン・アンデルセンによって発表された作品です。
本作は、1335年にスペインの王族フアン・マヌエルによって発表された寓話集『ルカノール伯爵』収録の『ある王といかさま機織り師たちに起こったこと』を原案としています。細かな部分では設定が異なる箇所もありますが、大筋は原案を踏襲しています。
作者のハンス・クリスチャン・アンデルセンってどんな人?
ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805~1875年)は、デンマークを代表する作家です。
『裸の王様』のほかにも、『人魚姫』や『雪の女王』、『おやゆびひめ』など、現代まで長く親しまれ続けている作品を多数発表しました。
数々の挫折や父親の死など、辛い経験も多かったため、貧しさや苦労が童話の中に表現されたと考えられています。
グリム童話のような民俗説話からの影響はあまりなく、創作童話が多いことがアンデルセンの特徴とされているため、翻案を持つ本作は異色の作品のひとつといえます。
揶揄する言葉「裸の王様」の由来に
童話を由来に「真実が見えていないこと・ひと」を揶揄する際に「裸の王様」という言葉が使われることもあります。真実が見えていないことを、周りのひとに嘲笑されているニュアンスが込められる場合が多いです。
『裸の王様』のあらすじと教訓
ここでは『裸の王様』のあらすじと、本作から読み取れる教訓を見ていきましょう。あらすじは「詳しいバージョン」と「簡単なバージョン」の2種類にまとめました。
詳しいあらすじ
むかしむかしある国に、洋服が大好きな王様がいました。ある日、城の周りの町に、ふたりの詐欺師が仕立て屋のふりをしてやってきました。ふたりは「自分にふさわしくない仕事をしている人や、愚かな人には見えない布」を作ることができるといいます。
王様は愚か者を見つけて賢い者だけで周りを固めようと目論み、その布で自分の服を作るように命じました。
ふたりの詐欺師は織機を設置し、さっそく仕事をしているふりをしました。実際には「自分にふさわしくない仕事をしている人や、愚かな人には見えない布」なんて存在しないため、からの織機で布を織っているふりをしているだけでした。
いよいよ衣装が完成しますが、王様の家来たちには、当然のことながらその服が見えません。けれども、どの家来も愚か者と思われたくないため、本当は何も見えていないのに見えているふりをして、次々にその服を褒めました。
もちろんその服は王様自身にも見えません。王様もまた、愚か者と思われたくないがために、周りの人に調子を合わせてその服を褒めます。
新しい服をお披露目するパレードでもまた、観衆の人たちも周りに合わせて王様の服が見えるふりをします。
しかし、みんなが見えない服を褒めそやす中、あるひとりの子どもが「王様は裸だ!」と叫びます。すると、それを聞いた人伝いに、王様が本当に何も着ていないということがどんどんと広まっていきました。
しかしながら、今さらパレードをやめることもできない王様は、そのまま服を着ているような素振りで歩きつづけました。
あらすじを簡単にまとめると…
ある国の洋服が大好きな王様のもとに、二人の詐欺師が仕立て屋のふりをしてやってきました。「愚か者には見えない布を織ることができる」と言うふたりに、王様は喜んで服を作ってもらうことにします。しかし、実際にはそんな布はなく、詐欺師は空の織り機で布を織っているふりをしているだけでした。
出来上がった服ももちろん見えませんでしたが、みんな自分が愚か者と思われたくないので、見えるふりをして褒め称えます。
しかし、お披露目のパレードの最中、ひとりの子どもが「王様は裸だ!」と言ったことから、みんなの目が覚めました。今さら王様はパレードをやめることができず、何も着ていないままお披露目を続けました。
教訓
お話の中では、王様も家来の人たちも愚か者と思われたくないことから、周りの人に合わせて存在しない洋服を「見える」と言ってしまいます。その結果、王様は観衆の前で恥をかくことになってしまいましたね。
そんな本作から得られる教訓のひとつは「周りに流されず、自分の頭で考えて真実を見極めることの大切さ」ではないでしょうか。
主な登場人物
ここでは、主な登場人物を押さえておきましょう。
王様
洋服が大好きな王様。新しい服をみんなに見せることも好き。
詐欺師
仕立て屋のふりをした詐欺師。「自分にふさわしくない仕事をしている人や、愚かな人には見えない布」で洋服を作れると嘘をつく。
家来たち
本来は誠実で正直者な家来。周りに愚か者と思われたくないがために、見えない服を「見える」と言ってしまう。
子ども
王様のパレードを見ていた子ども。服を着ていない王様を見て「王様は裸じゃないか」と声を上げる。
本当に王様は裸だったの?
日本の絵本や挿絵では上半身裸の王様が描かれることが多いですが、19世紀にヨーロッパで出版された挿絵では下着姿で描かれています。裸といっても完全なヌードではなく、王族が公の場に出るときに着る立派な服を着ていない状態=下着姿ということだったのかもしれません。
いずれにしても、本来のフォーマルな服装ではない王様がパレードで民衆の前に出ることは、当時としてもありえないことで違和感たっぷりだったに違いありません。正直な子どもが思わず「王様は服を着ていないじゃないか!」と叫ぶまで、民衆たちも王様の異様な姿に度肝を抜かれたことでしょう。
「裸の王様」を読むなら
最後に、『裸の王様』を読むのにおすすめな書籍をご紹介します。
アンデルセンの絵本 はだかの王さま(小学館)
淡い色合いでクラシックな雰囲気のイラストが特徴的な『はだかの王さま』の絵本。わかりやすい言葉で書かれているので、お子さんの読み聞かせにもぴったりです。
はだかの王さま (世界名作おはなし絵本)
『はだかの王さま』のお話をユーモラスなイラストとともに楽しく描いた絵本。コミカルで憎めない王様が、お子さんたちから人気です。
アンデルセン童話集 1(完訳) 岩波文庫
オリジナル版に忠実な完訳版のシリーズ。『裸の王様』は『皇帝の新しい着物』として収録されています。
第一巻には、『人魚姫』や『親指姫』を含む全16編が収録されています。絵本ではもう物足りなくなった、小学校高学年以上のお子さんにおすすめです。
ユーモラスなお話ながら、深い教訓が込められた一作
今回は、『裸の王様』が書かれた背景や、あらすじ、おすすめ書籍をご紹介してきました。
ユーモラスなお話でありながら、深い教訓が込められたお話です。お話を通じてどんなことを感じたか、お子さんと一緒に考えてみましょう。
あなたにはこちらもおすすめ
文・構成/羽吹理美