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子どもの可能性に蓋をしていたのは、自分だったのかも…!
___上田さんが日本で「レッジョ・アプローチ」(以降、レッジョ)のスクールを立ち上げようと思ったきっかけは、なんだったのでしょうか?
(「Kodomo Edu International School」では、2才〜6才までが通えるプリスクールと、年少〜小学3年生までが通えるアフタースクールを同じ校舎で開校しています)
ディズニー本社の社内幼稚園の立ち上げに関わった先生がいるという話を聞いて、思いきってLAに行って、実際にその園で自分の子どもを1週間体験させてみたんです。初日のクラス終了後、「うちの子、ちゃんと参加できていましたか?」と先生に聞くと、「あなたの娘はこんなに綺麗な縫い物をやったのよ」と素敵な作品を見せてくれたんですね。でもその時うちの娘は3歳になったばかりだったので、つい「3歳で針を使うのって危なくないんですか?」と聞いてしまったんです。そしたら先生は、「なに言ってるの、子どもは大人が信じたら何だってできるんだから!うちでは2歳から縫い物をやってるわよ!」と言われたんです。そこで私自身ハッとして、「もしかして自分の子どもの可能性に蓋をしていたのは、自分だったのかも」と。こんな子どもを信じる教育法が日本にあったら、絶対に日本は変わる!と思って、その場でその先生に「日本に来て一緒に日本の子ども達のためにサマースクールをやって欲しい」とオファーをしました。そして翌年の2017年にはサマースクールをやっていました(笑)。意外にも様々な業界の第一線で働いている保護者の方達の参加が多くて、そこでみなさんと話していると「今までの教育では、絶対に子どもが将来立ちいかない」と実感されていて。だから新しい教育を探していた中でKodomo eduを見つけてくれたんです。
___「Kodomo Edu 」では、具体的にはどのようなアプローチを実践しているのでしょうか?
レッジョ・アプローチのプログラムを一言でいうと、「非認知能力」も育む子どものための“STEAM x プロジェクト学習”。当園でもグループでのプロジェクト学習に力を入れています。プロジェクト学習というのは、例えば「ブランコを作る」という過程の中で、ブランコのサイズを測ることで計算をしたり、対話を通して自分の意見を表現していくことで語彙を増やしたりと、国語算数理科社会など複数の教科を横断して学びます。以前、保護者の方から「算数の暗算ができるようになっているんですけど、何かやっているんですか?」と質問されたことがあります。計算する授業をやっているわけではないですが、例えば、先ほどのブランコの授業の中で、先生が「どのくらいのサイズで作りたい?」と聞いて、みんなが実際に作りたいサイズと実際の材料との差を測り、「12センチ多いな…」と計算していく。体験を通して計算することで、式を見るのではなく頭の中の暗算で2桁の足し算引き算とかができたりしていくんです。こうしたプロジェクト活動の一環で、数学的思考を育むために、あえて先生がそういった質問をしたりもする。一人一人の成長のステージに合わせて、異なる質問をしていくのも、レッジョが個性や違いを大事にしているからこそです。
___単に計算の仕方を覚えるのとは、まったく違うアプローチですね!
意外と言われますが、自制心の育成も大事にしています。例えば別のプロジェクトで、みんなで大きな紙に絵の具で絵を描いていたとします。そこで一人の子が、楽しくなってしまって、床や床にも絵を描こうとしたとします。Kodomo eduでは、そこでみんなで一度立ち止まってみます。「すべての壁にその絵を描いてしまったら、それは自分のことだけを考えた行為。お友達と先生たちもいる、みんなで共有する場所をどう使ったらいい?」と話し合う。つまり、子どもに権利を与えるけど、あくまで子どもが王様ではないというのが一番の大きなポイントです。先生も大事なコミュニティを作る一員だから対等であって、決して子どもが上ではないし先生が上でもない。そんな関係の中で、建設的な話し合いをするんです。だから子どもの自由な発想が行き過ぎるということにはならない。コミュニティの一員だからこそ、みんなが相手をリスペクトすることを、まずみんなに知ってもらうコミュニティとしての意識なんです。
これからは認知能力だけではなく、非認知能力が大切な時代に
___レッジョでは、いま教育業界でもよく聞く「非認知能力」も育まれると言われています。
非認知能力というのは、学校のテストでは測られない能力のこと。好奇心や、他者とどう共同できるかというチームワーク力、自制心(セルフレギュレーション)、自尊心、共感する力、根気(一つのことを続ける力)、レジリエンス(失敗しても繰り返しチャレンジする力)、などがありますね。「Kodomo Edu」では、クリティカルシンキングをプラスした8個の力を、「Kodomo Edu」で身につく大事な力として掲げています。
____ハーバード大学の子ども発達センターも、「実行機能」と「自制心」は6歳までに急激に伸びると発表しています。
「非認知能力」がつくと、実は、勉強もできるようになるんです。いま自分は遊びたい、だけどテストがいつまでにある。じゃあ、遊ぶ時間を何分にして、勉強する時間を1日何分ぐらいできるようスケジュールしよう、と計画を立てられるからです。自分で遊びたい気持ちをコントロールして計画を立てる力があるから、親に言われなくてもちゃんとテストの準備をするので、勉強ができるようになる。こういう自分をコントロールする力が備わって、プラス計画をしていけば勉強ができるようになる。テストで悪い点を取った、もう勉強したくない、勉強が嫌いだというのは、根気もレジデンスもないわけです。失敗したけど、何を間違えたんだろう、あっケアレスミスだ、ケアレスミスをしないようにちゃんと練習しよう、ここのところを勉強していなかったからちゃんとやろうとか、自分のこういうところが弱いからここをやろうというふうに自分で考えて、対策をとってテストに挑む。こういった力があれば、ちゃんと学校の勉強もできるようになるし、好奇心とやる気も維持されて、吸収力も早いので学ぶ力や覚える量も増える。そういう意味でも、非認知能力と学校の勉強は相関性があるんです。
非認知能力の一つに「メタ認知能力」がありますが、これは俯瞰する力です。例えば、すぐに泣いちゃうというのも「これ私なんで泣いているんだろう。ママがいないから、ママに会えなくて寂しいから泣いてるんだ」などとまず自分の感情を認識した上で、その感情の原因を見つけて解決する対策をとるというのが、Kodomo eduで身につけるメタ認知能力の一つ。これを身につける前段階に、自分と他人の感情、考えを客観的に見て理解する力があります。例えば、「この子が泣いているのは、私がずっと使っているおもちゃを使いたいから欲しいんだろうな」というように、他者の気持ちを理解する力です。メタ認知や他者の気持ちを理解する力があれば、喧嘩やトラブルにも対応でき、チームでの活動をスムーズにし、一人ではできない大きな力を作れる。これも仕事で必要とされる力ですよね。
___人生において、いい循環作りの基盤にもなりますね。
大学受験ではいま推薦入試が増えていて、今後も増えると言われています。その推薦入試で何を見られるかというと、まず勉強がどの程度できるかが大前提でありつつ、学校外の活動で自分の好きなことを自主的に自発的に取り組んで、結果を出しているところが評価されます。
なので、好きなことにものめり込んで、好奇心を持って好きなことをずっと続ける力、他者とのコミュニケーション、チームワークを育みながら、ぶれない軸を持って失敗しても立ち上がる。そんな力が大事です。レッジョ・アプローチの教育を受けると、自分の好奇心をどう学びに展開していくかを学べます。なので、将来的に大学の推薦受験にも強くなるのでは、と感じていますね。小さいうちから、「自分の好き」に対してちゃんとアンテナを張って、探求してみる。こうした「非認知能力」は幼児期に身につければ確実に力として身につくので、そういった部分も幼児期にレッジョの教育をするべき理由のひとつなんです。
レッジョで“脱・指示待ち人間”に…!
____この「Kodomo Edu」をインターナショナルスクールにしたのは、何か理由があるのでしょうか?
レッジョのアプローチは声掛けがすごく重要なのですが、欧米の文化・文脈での声がけの方が実践しやすいと個人的に感じていたのが大きな理由です。日本は「子どもを守る保育」ですが、レッジョは「子どもを信じる保育」。そこが大きな違いで、子どもに「あなたはできると信じてる」という前提で話すのと、「危ないよ、教えてあげるよ」というスタンスで話すのでは、子どもが吸収するものは全然違う。「あなたはできる」というスタンスで、子どもの能力を信じて伸ばしてあげたい。なぜかというと、周りにいる大人のマインドセット次第で本当に子どものできることって大きく変わるんです。このマインドセットをスムーズに取り入れられるのは、人材的に外国人の先生だなと感じて決めました。それに、違いを受け入れることってすごく大事だから、ダイバーシティのある環境にしたかった。同じ価値観の人たちだけで集まると同調圧力も生まれてしまうし。こんなに人って違うんだ、だけど「みんなそれぞれ違っていいんだよ」って、子どもたちに知ってもらいたいという気持ちもありました。
____スクールスタッフの金山さんは、日本の認可保育園で15年以上保育士として勤務された後に「Kodomo Edu」に移られましたが、感じる違いなどはありますか?
金山:日本はそもそも保育者の人数がキツキツという状況があるんですけど、「Kodomo Edu」は少人数制なので、子どもに的確なアドバイスを先生たちがしてあげられる。そういった活動ができるのが、このスクールの素敵なポイントの一つだと思います。日本の保育の設定基準が変わらないと変わりませんが、やっぱり少人数なのは大事。以前働いていた保育園でも、目につく子はすごく目につくんですけど、逆に特に問題がなかったり、おとなしい子というのは、その子自身が持っているものがすごくあるはずなのに、なかなかそれに気づいてあげられない。年長さんなど大きくても手厚く見てあげるのが、非常に大切なことだと思います。
上田:少人数だからこそ、1人1人の能力が伸びていくというのはあります。
金山:「これをしたら危ない」という守りではなくて、「失敗しても大丈夫」と思える、どんな自分でも受け入れてもらえているという安心感。そう子ども達が思えるのは、やっぱり少ない人数で全員に目が行き届いているから。今日のトライは失敗しちゃったけど、また明日やってみようというような、そういういい意味での受け止めがある。そこが日本の保育との大きな違いかもしれません。
____他にも感じる違いはありますか?
金山:レッジョの子どもたちはとても自立していて、人は人、自分は自分。自分がそう思ったらそれでいいというスタンスです。だから友達が何か言っても、そこは自分と分離できているというか、自分と人の意見は違うというのをちゃんと分かっているから、同調することがない。そこはすごいなと思います。
上田:同調しない、自立しているというのはレッジョの大きなポイントです。2歳くらいの子も、自分のことは何でも自分でできちゃう。
金山:「自分のことだから、できることは自分でやろう」とすべて自分でやるのがスクールでは基本です。みんな手伝う境目もちゃんとわかっていて、逆に大人が靴とかを履かせようとすると、「自分のことだから自分でやらないとダメだよ」みたいに友達とかがちゃんとその子に言うんです。いつもできてるじゃんみたいな(笑)。
上田:もちろん、難しいことを無理にやりなさいと言うのではなく、その子を観察していく中で、「この子はできるな」と思ったらやらせてみる。その子ができるのに甘えて「先生やって」と言う時は、うまくはぐらかして自分でやってもらいます(笑)。
金山:結構小さい子には、可愛いいからなんでもやってあげたいと思って年長さん達も手伝いたくなるのですが、みんな「できることは自分でやるんだよ 」と教えています (笑)。そこも多分、大人がいつもそういう働きかけをしているのを見ているから。とても自立しています。
上田:あと「これは私の体だから、私が決める」と、みんな名台詞のように言うんです。例えば、他の子のことを可愛いから触るとか、そういう必要以上のボディタッチは、それはその子が触られて本当に嬉しいかは分からないし、彼、彼女が決めることだから勝手にやらないでというのは先生たちも共有していて。小さいうちにそれが分かったら、女の子とかは思春期になって恋愛した時とかに流されることもないと思うんです。いろんな意味で流されないし、同調させない。
金山:またそれに加えて、日本は指示待ちの子がとても多いと感じるんですけど、レッジョの子たちは違います。工作の道具などが用意されていても、普通の幼稚園の子は「何すればいいの?」となる中で、「これで何を作ろう!」とすぐ自分たちでイメージして組み立てられる。その差は大きいと感じます。
親のマインドセットを変えれば、子どもの可能性がぐんぐん広がる!
___そんなレッジョの、家でもできる実践法はありますか…?
まずできるのは、親のマインドセットを変えること。本当に子どもは大人が思っている以上にいろんなことを理解しているし、できるんです。だから子どもの反応をちょっと3歩下がって、待っててあげてほしい。そしたら、自分でやらせてあげる。手を出したくなるけど、そこをぐっとこらえてやらせてあげる。その回数を増やせば増やすほど、子どもはいろんなことができるようになり自立する。子育てもずっと楽になります(笑)。大人の意識で絶対に変わりますよ。
____それは確かにすぐに実践できる方法ですね。
マインドセットを変えるだけで、本当にいろんなことができるようになります。やっぱり一番は、そういう子どもを見れば親も安心するし、自分の子育てにも自信を持てるようになる。かつ自分の子どもに自信を持って、子育てが楽になってハッピー子育てになる。怒らなくてよくなる。
___他にも実践法はありますか?
子どもをエンターテインするオモチャは買わない(笑)。子どもがピッとボタンを押すといろんなものが出てきて、見てるだけで楽しいみたいな。子どもがつまり受身になる。自分で手を動かして考えていろんなことをやってみるのではなく、子どもが受身になるようなおもちゃは買わない。鉛筆や色鉛筆、紙だけというのが一番です。
___それではすぐに飽きちゃうという人には?
その子の大好きな絵本の大好きなページを開いて、その前に白い紙と鉛筆が転がっているだけでも、子どもは描きたくなるはず。レッジョでは、“プロボケーション”と言うのですが、直訳すると“誘惑”という言葉で、子どもがやってみたいと思わせるようなテーブルセット、セットアップをすると、ただの紙切れでも子どもはやりたくなる。
___子育てにおいて、大切にしてほしいポイントはなんでしょうか?
自分の子を信じるということ。好奇心のない子、勉強ができるようになりたくない子なんてゼロなんです。そして一番は、子どもたちに「自分ならできる」ということを知ってほしい。自分ならできる=自分を信じる力。でもその思いを持つには、たくさんの失敗経験と、大人たちの適切な声がけというのがたくさん必要。もっとわかりやすく言うと、「ぶれない自分軸」。自分ならできるという自分を信じる力、そしてぶれない自分軸があったら、もうなににでもなれます!その二つは、私たち親も身につけたいこと。親がそうだったら絶対に子どももそうなる。だからこのレッジョで子どもが変わって、一緒にママとパパも変われば、本当に幸せな世界が作れると思います。
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取材・文/富塚沙羅