舌小帯短縮症とは?
舌小帯は舌の裏側にあるひだで、これが生まれつき短かったり、ひだが舌の先端に近い所についたりしている状態を舌小帯短縮症といいます。また、舌が強ばって動きにくくなることから舌強直症と呼ぶこともあります。
乳児の5%程度(診断基準の統一がなく幅がある)の割合で認められ、男児に多いのが特徴です。また、舌を前に出すと舌の先端にくびれができ、ハート形になるのも分かりやすい特徴です。
舌小帯の短縮度は年齢とともにある程度は変化し、ほとんどの場合は問題ないのですが、小帯が異常に短かったり、舌の先端に極端に近かったりする場合は、以下に示すような様々な障害を引き起こします。
舌小帯短縮症により生じる障害・症状
哺乳障害
・浅飲み
赤ちゃんの乳房への吸い付きが弱く、外れやすい。哺乳に時間がかかり、哺乳回数も多くなりがちです。
・眠り飲み
吸い付きが弱いため、哺乳が不十分のまま疲れて眠ってしまう。
・体重が思うように増えない。
哺乳量が不十分な可能性があります。
摂食障害
・食べこぼし・飲みこぼしがある。
舌を上手く動かせないため、咀嚼や嚥下(飲み込み)に影響が出ることがあります。
・アイスクリームを上手くなめれない。
舌を長く出せないだけでなく、舌先を持ち上げることができないためです。
その他、うどんやラーメンが上手くすすれない、ストローが吸いにくいなど、スムーズな食事ができなくなります。
構音・発音障害
・口をあまり開けずに小さな声で話しがち。
周りの人とのコミュニケーションに支障が出ます。
・いわゆる舌足らずの発音になる。
舌小帯短縮症では、舌の先端部(舌尖部)が硬口蓋(上顎)および歯肉に対して接触が不十分になってしまうため、日本語ではサ行、タ行、ナ行、ラ行など、そして英語ではl、r、thなどの発音が曖昧になり、構音障害(いわゆる舌足らず)をきたします。また、リコーダーなどの口で吹いて音を出す楽器で上手く音を出せないこともあります。
一つの目安として、構音能力の発達完了期である5歳の時点で構音障害が残っているような場合は、手術の必要性があるかを検討します。
また、母親側にもいくつか生じる症状があります。
・乳首が痛い。
舌で上手く吸えないため、歯ぐきで乳首を噛んでしまう。
・乳腺炎の原因になる。
乳房にしこりができて痛い。赤ちゃんの吸う力が弱く、乳管が詰まりやすいために起こります。炎症を繰り返し起こしやすいのも特徴です。
・産後うつ、マタニティー・ブルーの要因になることも。
哺乳時の問題などが精神的にストレスになり、不眠などの不安定な状態につながることもあります。
舌小帯短縮症の治療法
大きく分けて機能訓練と手術があります。
症状が軽度の場合は舌を上手に動かすトレーニング(機能訓練)を行うだけで、症状が軽減される場合があります。
特に幼児期は構音能力が発達する時期ですので、言葉の発達年齢に合わせて経過観察しながら見守ることも大切です。
しかし、トレーニングだけでは舌の動きを改善するのが難しいと判断された場合には舌小帯切除術(舌小帯伸展術)を行うことがあります。
舌小帯切除術の流れ
通常は外来で処置を行い、舌に局所麻酔後、施術します。しかし、低年齢や怖がりで動いてしまって局所麻酔での処置が困難な場合は、入院して全身麻酔による手術の検討が必要になることもあります。
麻酔をして小帯を切り離し、糸で縫合するのが一般的な術式です。ただし、新生児では麻酔をせずに舌小帯を切る処置のみで糸で縫わない場合もあり、子どもの状態に応じて適切に対応します。
麻酔が切れれば食事をするのは可能ですが、軟らかいものを食べる方が傷口に刺激を与えにくいので、より安全です。
術後の処置
基本的な術後の処置の流れとしては、翌日に傷口の消毒をし、1週間後を目途に抜糸、そして傷の治り具合をみながら訓練通院となります。
術後は瘢痕収縮(傷跡が縮んで硬くなること)の防止や、動きやすくなった舌を上手に使いこなせるようにするために、早期に機能訓練を始めます。
手術をすることで舌を動かせる範囲は大きくなりますが、それまで舌小帯の短縮で舌が動きにくい状態が続いていたため、舌の筋力が低下していたり、正しく機能する動きをできなかったりして、すぐに摂食や構音・発音の症状が改善するわけではないのです。
機能訓練は医師や言語聴覚士(ST)などが担当します。
手術費用は健康保険と乳幼児医療券が適応されますが、手術前後の舌の機能訓練は自費診療となる場合もあるので、事前に医療機関に問い合わせておく方がいいでしょう。
舌小帯短縮症の外科手術に関する研究報告
2020年に元杏林大学小児外科教授の伊藤泰雄氏が報告した研究内容によると、舌小帯短縮症のある子ども343人のうち、男児は女児の1.5倍多く、遺伝性は48%に認められることが明らかになりました。
受診理由としては、図1のように哺乳不良が最も多く、次いで乳頭痛、乳腺トラブルとなりました。
また、術後1ヶ月の症状改善率は哺乳不良で92.5%、乳頭痛で80.9%になるなど、高い割合で良好な結果が認められ、小帯の切開術が効果的な治療法であることが示されました(図2)。
手術の是非について
2001年に日本小児科学会が出した報告書では、母乳育児の推進のために小帯を切ることは学問的根拠のない習慣である、と明言しました。
その一方で、2009年にWHO(世界保健機関)は「舌小帯短縮症が哺乳障害の原因になっている場合、小帯切開を行う医療機関に患児を紹介する必要性がある」という見解を示し、2018年に日本歯科医学会が打ち出した舌小帯短縮症に対する治療指針では「哺乳障害、摂食障害、発音障害がある場合は、切除術を行う」ことを推奨しています。
このようにわが国でも異なる治療方針があるのが実情です。症状の程度にもよりますが、担当医から十分な説明を受けた上で、手術をするか否かを判断した方がいいでしょう。