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「鉛筆のもちかたと運筆の仕方」正しくできていますか?
以前「子ども文具お悩み相談室」で北星鉛筆の商品を取り上げましたが、その時に杉谷社長に伺ったお話の中で、印象深いことがありました。鉛筆自体良いものを選ぶことも大切ですが、書きやすさのためには「もちかたも大切、そして運筆も大切」ということです。
北星鉛筆が正しい鉛筆のもちかたの根拠にしているのは、「たけうちもちかた文字教室」を主宰されている竹内みや子先生の指導法です。「持ち方を変えれば字は1日でうまくなる」「子どもの字がどんどんきれいになる方法」など多くの著作のほか、文字と書くときのもちかた、鉛筆の動かし方などを30年以上研究されています。
実際に北星鉛筆へお伺いして、「たけうちもちかた文字教室」が推奨する鉛筆のもちかたを杉谷社長に伺ってきました。実際、筆者の鉛筆のもちかたは負担が大きいことが分かりました。そして正しいもちかたと運筆ができていると、お子さんも親御さんもストレスを大きく解消できることがわかりました。
実際に筆記をしながら教えていただきました
今回、もちかたと運筆の大切さを教えていただいたのは、北星鉛筆の代表取締役である杉谷 龍一さんです。
北星鉛筆株式会社 代表取締役 杉谷龍一さん
大学卒業後2000年に同社へ入社。製造過程で発生するおがくずのリサイクルを任され、鉛筆の製造しつつもおがくず粘土「もくねんさん」の生産ノウハウを確立しました。
北星鉛筆では鉛筆の価値向上を考え、工場見学や鉛筆供養、鉛筆画コンテスト等の新しい試みを実施。おがくずのリサイクルをはじめとした、エコロジーな商品開発も多く行い、葛飾区のSDGs宣言企業第1号も取得しています。
杉谷社長は、同社の代表的な商品である大人の鉛筆や大人の色鉛筆、鉛筆屋のボールペン、シャープペンシル等販売するすべての商品に携わってきました。北星鉛筆はアイディアあふれる商品を創造し続ける企業です。
あなたの鉛筆のもちかたはどうですか?
このもちかたをすると力を抜いて軽く支えることができます。
子ども、特に鉛筆を使い始めて数年は指先に力がないため、このもちかたでは、なかなかうまく書くことができません。
子どもは独自に、鉛筆をぎゅっと固定するようなもちかたを編み出していきます。
竹内先生のホームページには、さまざまなもちかたをしている子どもたちの手元の写真が掲載されています。
例えば上の写真は、杉谷社長が見せてくださった見かけることの多い鉛筆のもちかたの例です。3本の指が1点に集中するので力を入れやすく、その力がかかっていることが子どもたちの安心にも繋がるようなのですが、決定的な短所があります。1点でしか鉛筆を支えていないのでぐらついたり、引っ張ると鉛筆がすぐに抜けてしまうほど不安定なのです。また、このもちかたをしていると中指に力が過剰にかかりペンだこができやすくなります。
小筆のもちかたから
昔の人は筆で文字を書き、それが現在の文字を生み出してきました。竹内先生はひらがなやカタカナが創られた平安時代に使われていた小筆のもちかたに注目します。”はらい”があったり線に強弱をつけたりとしているのは小筆で作られた文字であるから。鉛筆も同じもちかたをすることで書きやすくなるのではないか? それをきっかけにもちかたを確立されました。
いつ頃からもちかたの練習をするのが理想なのか?
ある程度鉛筆を使い慣れてからもちかたを直そうとすると、手に違和感があって元に戻ってしまったり、自分オリジナルのもちかたを作り上げてしまうかもしれません。
そのため、杉谷社長はこのようにおっしゃっていました。「もちかたの練習はスプーンやフォークを持ち始める頃から始めるのが良いのではないでしょうか? まずスプーンやフォークを正しくもつことが出来るようになることが大切です。少しずつ3本の指先の力が鍛えられてきます。その後、食事では箸を使うようになり、追って鉛筆デビューの時期を迎えると良いと思います。」
では竹内先生の推奨するもちかたにトライしてみましょう
まず鉛筆を人差し指に沿わせます(つける)。そして親指は人差し指よりも上に構えます(あげる)、中指は鉛筆を下から支えるように構えます。最後に手のひらの中に空間をつくります(ふっくら)。難しい場合は、鉛筆を2本使って箸のように持ち、手前の鉛筆を外してみてください。そうすると先ほどのような構え方になるはずです。
初めのうちはすぐに今までのもちかたに戻ってしまうことが多いと思いますので、根気強く続けてみてください。
竹内先生のもちかたでの運筆練習
正しいもちかたはできましたが、箸の持ち方のままでは手が横を向いていて、そのままでは文字が書けませんね。そこで運筆(筆はこび・鉛筆の動かし方)の練習もしていきましょう。
鉛筆を持った時に机に接するのは、小指側の手首の少し上、ちょうど骨のあるあたりになります。よく「小指側の側面が鉛筆の粉で真っ黒!」になることがありますが。竹内先生のもちかたではその部分が黒くなることはありません。
それでは線を書く練習から始めましょう。
縦の線
縦の線を書くときは箸でものを掴んだ時と同じ動かし方です。人差し指〜小指を開いたり閉じたりします。「おいでおいで」の形に近いで感覚で動かすと、縦の線を書くことができます。
横の線
横の線を書く時は鉛筆を持ったまま手首を軽く擦るだけです。
回しの線
小指を中心にして4本指を一緒にクルクル回転させましょう。
組み合わせるとどのような形も
縦・横・回し、この3つを組み合わせて、指を曲げながら手首を振れば斜めの線を、指を開閉しながら回転すれば回しの線がかけます。すべての字は、この3つの手指運動の組み合わせです。
文字を大きく書く・小さく書く・筆圧調整
字の大小は鉛筆の軸の傾け方で決まります。大きな字は手前へ鉛筆の傾きが大きくなり、小さな時は鉛筆が立ち気味になります。もちろん、持ち方はゆる持ち(つける・あげる・ふっくら)です。筆圧が強くなりすぎる時は親指に力を入れすぎのことが多いです。
運筆の練習法
ここでは、竹内先生が監修した、北星鉛筆「大人の持ち方先生。」に同梱されている練習帳からご紹介します。
1.縦の線(パーグーパーグーの線)
親指以外の4本指を中心に緩めたり閉めたりすると縦方向の線が書けます。
2.横の線(シュッ、シュッの線)
手首を楽にして擦ると、横方向の線が書けます。
3.回しの線(くるくるの線)
小指を中心として円運動をします。パーグー(縦方向)、シュッシュッ(横方向)の合わせ技です。
鉛筆を頭でイメージしている通りに動かす能力は運動と同じで練習が必要です。何度も繰り返し、頭で思った通りの線が引けるようになると手先の器用さにもつながっていきます。
詳しくは動画でもチェック!
このもちかたにするといいことがいっぱい!
杉谷社長が、もちかたを変えてから感じたことを教えていただきました!
姿勢がよくなる
鉛筆を竹内先生の持ちかた通りに構えると脇が締まります。
ピアノなどもそうですが、脇が閉まっていると姿勢が良くなります。
姿勢が良くなると胸が広がり、呼吸がしやすくなるため、勉強に集中することができるのです。
肩こりしにくい
鉛筆を正しく構えると力を使わずに持ったり書いたりすることができます。
可動域も広げられ、腕を大きく動かさずにかけるので、肩周りの負担が軽減されます。
そして、文字が書きやすくなるのできれいな字が書けるようになるきっかけになります。
納得ができるので、このもちかたをマスターしてほしい
初めのうちは気がつけば元の構え方・もちかたで持ってもすぐに戻ってしまうと思います。でも意識をしていけばいつかは自然とこのもちかたに慣れるはずなのでぜひトライしてください!
「たくさん漢字を書くのが辛い!」書くことにストレスを感じているお子さんはきっと鉛筆のもちかたで、体に負担がかかっているのかもしれません。
北星鉛筆のヒット商品 大人のもちかた先生。とは?
かつて、竹内先生は子どもに正しいもちかたをするよう促すような教具を研究していました。一方、アイディア商品をたくさん生み出している鉛筆メーカーである北星鉛筆では、もちかたを覚えるための道具を研究しているところでした。そこで竹内先生が監修し、北星鉛筆が作り上げた「大人のもちかた先生。」が生まれました。
親指・人差し指・中指それぞれの位置が示されている鉛筆ホルダーがついていて、人差し指に引っ掛けるフックの位置により正しく持てているかを確認することができます。
もちかたの基本を身につけたり復習したりするためには「大人のもちかた先生。」を使うことがおすすめですが、実は鉛筆は偏減り(芯の一部だけが減っていく)をするので、芯が減る心配のないボールペンを入れています。また先に保護者の方々に持ち方を習得して欲しいと言う意味を込めて「大人のもちかた先生。」には「大人の」と名前をつけました。大人が使うことを前提に、偏減りの心配のないボールペンを入れています。もちろん、ボールペンの代わりに鉛筆を入れることも可能です。
ぜひ保護者の方々が先に「竹内式鉛筆のもちかた」である「ゆる持ち」をマスターし、ボールペンを鉛筆に入れ替えてお子さんに伝えてあげてください。
終わりに
30年前にこのもちかたを知っていれば、肩こりに悩まされた学生時代が無くなっていたのかもしれないと思うと、もっともっと早く知っていればよかったと心から思いました。慣れるまで時間はかかるかもしれませんが、一度もちかたを会得したら一生もの!ぜひトライしてみてください。
第三回 子ども文具お悩み相談室
文・構成/ふじいなおみ