最近あちこちで「論理力」「論理的思考力」ということばを聞きます。では、「論理的に考える力」とはどういうものでしょうか。
「論理を学ぶ」というと、「逆」「裏」「対偶」とか、「因果関係」と「相関関係」の違いとか、「具体と抽象」とか、大人でも頭を悩ます堅苦しいものと思われがちです。ですが具体例を使って教えれば、小学校の高学年なら十分理解できますし、そのくらいの時期にこうした「論理的」なものの考え方を身に着けておくと、どの教科の勉強にも非常に役立ちます。
逆に、「論理的思考」が身に着いていないと、理科や社会といった科目も「どうしてそうなるのか」がわからないため、一つひとつの項目がバラバラで繋がらず、ただ暗記するだけのつまらないものになってしまいます。
今回は、「論理的思考」を身に着けるための基礎の基礎編として、ご家庭でできることをご紹介したいと思います。小学校低学年から取り組めます。
「論理力」と「プログラミング」
実際に学校でも授業で「論理力」を意識的に伸ばそうとするようになりました。
「論理的思考」とは、ごくかんたんに言えば、物事を順序だてて考える力です。
少し前に、小学校に「プログラミング」が導入されたことがニュースになりましたが、機器の扱いなどの技術的なことを別にすれば、実際にやっているのは一種の「論理力」養成です。
たとえば、迷路状のマス目の中を動くロボットがあったとします。このロボットを指定のマス目まで移動させるために命令を与えなければなりませんが、そのときに「前に〇マス」「右に〇マス」「左に〇マス」という三つの種類の指示しか出せません。
かんたんに思えるかもしれませんが、90°曲がるたびにロボットは向きを変えるので、その都度「右」「左」も変わります。ロボットが一度右に曲がれば、自分から見て前がロボットにとっての左になります。頭の中でロボットの視点に立って、次はどちらに何マス進むのか、を順序だてて考えるには論理的な思考が必要です。
プログラミングのドリルも販売されていて、ここには「前に2マス」「右に3マス」…などの選択肢が並んでいて、どの順番でこの指示を出していくのかを答えさせるようなものもあります。
これもたしかに「論理力」を鍛える一つの方法だと思います。ただ、「物事を順序だてて考える」ことの大事さは、プログラミングのような特別な場合に限らず、日常にもあふれています。
論理力の伸ばし方① 4コマ漫画の並べ替え
もしご自宅で新聞を購読しておられるなら、大抵は4コマ漫画がついていると思います。それを挟みでコマごとに切りぬいて、意味の通じるように並べ替えさせてみてください。
新聞をとっていなかったり、とっていても4コマ漫画がなかったりというような場合には、お子さんでも読めるようなものを選び、あるいは書店に行ってお子さんにおもしろそうなものを選んでもらい、それをお子さんには渡さず、コピーをしてコマごとに切りぬきます。
なかには時事的な問題だったり、内容的に難しかったりというような場合もあるかもしれませんが、そこは社会や国語の勉強にも繋がります。
なにより漫画であれば、「勉強させられている」という意識をもたずに楽しんで取り組めます。
論理力の伸ばし方② 物語の一部の並べ替え
こちらのほうが少し手間がかかるかもしれませんが、保護者の方が、物語のふさわしい箇所を選び、4コマ漫画の場合と同様に、コピーしていくつかに切り分けて並べ替えさせるというものです。
具体例をあげましょう。
新美南吉の「手ぶくろを買いに」の一節です。お母さんきつねが、子どものきつねをおつかいに出して手ぶくろを買わせようとしますが、そのとき、手だけを人間の手に変えた部分です。ここまでは普通に読んだとします。では次のA~Dを、意味が通るように並べ替えてみてください。
「それは人間の手よ。いいかい、町へ行ったらね、たくさん人間の家があるからね、
A それが見つかったらね、トントンと戸をたたいて、こんばんはって言うんだよ、
B その戸のすき間から、こっちの手、ほらこの人間の手をさしいれてね、
C そうするとね、中から人間が、すこうし戸をあけるからね、
D まずおもてに円いシャッポのかんばんのかかっている家をさがすんだよ、
この手にちょうどいい手ぶくろちょうだいって言うんだよ」
いかがでしょうか。答はD→A→C→Bとなります。
場面を頭で思い浮かべながら物事の順序を辿ることで、「論理的思考力」が鍛えられます。
青空文庫にあるような作品なら、テキストをコピーして、wordで簡単に作ることができます。
もし問題を自作されるなら、接続詞や指示語があるところを使うといいと思います。上の例でも、お子さんは「それ」「その戸」「そうすると」などを、順序を決める際の判断材料にするでしょう。
学年に応じて、物語だけでなく説明文を使うこともできます。その場合、段落ごとに切り分けて並べるといいと思います。
▼こちらの記事をチェック
論理力の鍛え方③ レシピの並べ替え
物語の並べ替えよりはこちらの「レシピの並べ替え」のほうが楽かもしれません。
たとえば「パンケーキ」なら次のようになります。
A 生地を裏返して弱火で2分焼く
B 生クリームやフルーツで飾りつけをする
C 卵を割り、牛乳と混ぜる
D ホットケーキミックスを入れて混ぜる
E フライパンに生地を流し込んで弱火で3分焼く
これはもちろん、C→D→E→A→Bという順になりますが、お子さんはCとDがどちらが先か迷うかもしれません。ここには何の接続詞も指示語もありませんので、もしかするとAとEもどちらが先かわかりづらいかもしれません。「裏返して」ということばを実際にイメージできるかどうかが鍵になります。
もしお子さんが間違えた場合は、すぐにそれを指摘するのではなくて、実際にお子さんにその手順通りにやってうまくパンケーキが作れるかやらせてみましょう。
おそらく材料や道具を目にすれば、間違えることはないでしょうが、頭の中だけで想像して手順を見定めるのは大変です。このように、文章で書かれたものを具体的にイメージしながら順序を想像することも「論理的思考」と言えます。
論理力と想像力
「論理」はときとして、「2×2=4」というような、抽象的な数式のようなものとして捉えられてしまいますが、現実に生活する中では具体的な物事と結びついています。ただ、実際にそれをやってみる前に、シミュレーションしてどういう順序で組み立てていけばいいかを頭の中で考えることが、生きた「論理的思考力」です。それは「想像力」と密接に結びついています。どちらかだけでは十分にお子さんの力を伸ばすことはできません。
「論理的思考力」があれば、「これがこうなったから、次はこうなるだろう」という予想を立てることができ、物事がうまくいかなかったときには、「こことここの関係がおかしかったのか」とふりかえることができます。
入ってくる情報量が格段に増えた現在、そこにどのような関係があるのかを考えることなくただ情報を取り入れていくのでは、フェイクニュースに踊らされることになるだけです。日頃から物事を順序だてて考える習慣をつけられるよう、お子さんと一緒に少し時間をとってみてはいかがでしょうか。
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