「読む」「書く」と同じくらい「聞く」「話す」チカラは大事!
英語で言うところの「4技能」、すなわち「読む」「書く」「聞く」「話す」をバランスよく伸ばすということが国語教育の中でも言われるようになってきました。
ただ、この中で「聞く」「話す」はなかなか授業で時間をとって教えることの難しいものです。昔からよく「読み、書き、そろばん」と言われるように、わざわざ学ぶべきことはまず「読み」「書き」からであり、「聞く」「話す」はそれ以前に当然身に付いているものと考えられてきました。
ですが裏を返せば、「聞く」「話す」は、それほどまでに日常的であるがゆえに、この力が低いと、すべてのことに支障をきたすことになります。
「読解力の低下」が問題になっていますが、以前の記事でお話したとおり、最近は大学の初年次教育で「日本語リスニング」の講座を開いている大学さえあります。つまり、そのままでは大学の授業を聞いて理解する「聴解力」がないのです。大学までこの状態で来たというのは、それまでの12年間の学校の授業でどれほどもったいないことをしてきたのでしょうか。
ですから小学校に入る前後には、各ご家庭で少し自覚的に、お子さんの「聞く力」「話す力」ということに関して考えてみてもよいと思います。
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「説明力」—— 一度で相手が理解できるように説明する力
学校でまず第一に求められるのは、先生の話を「聞く力」ですが、今回は「聞く」ことそのものでなく、むしろ「話す力」をつけることで「聞く力」も伸ばす方法について考えたいと思います。
学校での「話す力」の鍛え方と言えば、スピーチやディベートがあります。ただ、いきなりこれを家でやるというのではなく、もっと毎日の生活の中でできることがあります。それは「一度で説明しきる」ようにさせるということです。この力を「説明力」としておきましょう。
お子さんがなにかを伝えようとしてくるとき、ついつい先回りして納得してしまうことはないでしょうか。もちろん普段からお子さんのことをよく見ている親御さんであれば、その推測が間違うことはないかもしれません。毎日同じところで生活していれば、考え方のパターンは当然似てきます。
ですが、世間の人はそうではありません。お子さんが外に出れば、先生や友人たちは、あうんの呼吸でなにかを理解してくれるわけではないでしょう。きちんと説明してもらわなければわかりません。
もちろんわからないところは質問しながら会話を進めていけばいいのですが、あまりわからないところが多くて質問ばかりしていると話が先に進みませんし、あまり親しくない人にたくさん質問するのもはばかられるものです。
あえてものわかりの悪い親になる
ですから、家でも、お子さんがなにかを話しているときに、「これは親以外の人が聞いても理解できるだろうか」とちょっと考えてみるとよいかもしれません。そして時には、言いたいことが予測できても、あえて返事をしないことも一つの方法です。
つまり、あえてものわかりの悪い親になる、ということです。
お子さんが外から帰ってくるなり、「あ~、暑かった~」と言うと、すぐにお茶の一杯も持っていってあげたくなるのが親心というものでしょうが、そこはぐっと我慢して、「そうなの」とだけ返してみてください。
そこで「喉が渇いた」と言われても、返事は「そうなの、大変ね」で止めます。
あるいは、「ママ、牛乳」とでも言われたら、例の「ママは牛乳じゃありません」です。これは普通しつけのための問答法でしょうが、ここではたんに人にものを頼むときのマナーの問題にとどまらず、「誰が聞いても言いたいことが理解できるように話す」ための訓練です。
あまりやりすぎると嫌味な親になってしまうかもしれませんし、こちらが忙しいときはそんな悠長に会話していられないということもあるかもしれませんが、余裕があるときに、「ちゃんと一度で説明して」と言ってみることはできるでしょう。
最初から最後まで一人で説明できるようになると、かなり「説明力」がついてきます。
体験を説明してもらう
さらにもう少し込み入った内容を説明させることもできます。
今日、外であったことを尋ねてみるのはどうでしょうか。特別なイベントなどがあった日であれば特にそうですが、そうでなくとも、一日のうちで楽しかったことがあれば、お子さんの方から自然に話してくれるかもしれません。
ただ、自分の体験を他人にわかりやすく伝えるというのは、実はおとなになってもなかなか難しいものです。楽しいというのは一種の体感であって、それを同じ経験をしてない人に伝えるには丁寧なことば選びが必要になります。
はじめは聞いていて、主語も場所も時間もよくわからないかもしれません。その際は、「誰が?」とか「どこで?」とか「どのタイミングで?」などと時折こちらから質問をして情報を補ってもらう必要があるでしょう。
ですが、一とおり聞いたあとで、「ママ/パパよくわからなかったから、悪いけれどもう一回教えてくれない?」と頼んでみてください。大事なのは、一度で必要なことを説明しきる力をつけることです。
ここでいわゆる5W1H(いつ、どこで、誰が、なにを、どのように)などを過不足なく説明できるかどうかが問われます。相手に理解してもらうためには、どの情報が重要なのかということを考えながら話せるようになると、相手の話を聞く際にも、どの情報に注意すればいいのかが自然にわかるようになってきます。
読んだ本について説明してもらう
さて、特別なイベントなどなく、家にこもっている日であっても、見たテレビ番組や、(個人的にはあまり見せない方がよいと思いつつ)配信動画や、(個人的にはあまりやらせない方がよいと思いつつ)ゲームなどを説明してもらうことができます。見ていない、あるいはやったことのない人にわかってもらえるように説明するのは、かなりの「説明力」が必要になります。
ですが、やはり国語力を伸ばすということで言えば、お薦めなのは、「読んだ本について説明してもらう」という方法です。
物語の説明には5W1Hがどうしても必要になります。物語の長さや難易度にもよりますが、どんなに短く簡単な話であっても、「誰がいつどこでなにをどうしてどうなる話」かを簡潔に説明できるには、大変な能力が必要です。
はじめ、ハードルが高すぎるようであれば、漫画やアニメでもかまいません。ただ、テレビのバラエティ番組などとは違い、きちんとストーリー展開があり、話のはじめと終わりがはっきりわかるものがよいと思います。
ストーリーを説明できる、というのは論理的思考の第一歩です。
さらには、読んだり見たりするときに「あとで説明できるように」という意識を持つことで読解力も自然に高まります。この、読んだ本について他人に説明する、という習慣がついていれば、読書感想文の宿題など朝飯前になります。いいことずくめです。
ただ、あくまでお子さんが自分から好んで読んだり見たりするものにしてあげてください。自分から喜んでそれについて話すのでないと、長続きしないものです。
親としては、お子さんが話すときに、それに興味をもって耳を傾ける姿勢が大事です。そうすれば、日々の生活の中でお子さんの国語の力を自然に伸ばすだけでなく、お子さんが普段頭の中で考えていることを知ることもできるでしょう。