徴兵制を採用している国は60カ国以上
日本国内で普通に生活をしていると、戦争や徴兵制などについて考えることは少なく、そういったものは対岸の火事のようにもみられます。日本には徴兵制はなく、自衛隊に入隊するのも志願制。興味がなければ軍などとは無縁の生活を送ることができます。
しかし、世界では徴兵制を導入している国は意外に多いです。今日、世界193カ国中、徴兵制を採用している国は60カ国以上に上り、たとえば隣国の韓国では男性に約2年の兵役義務があります。韓国の若い世代の多くは大学在任中に2年間軍に入り、兵役義務が終わったら大学に戻ることが多いようです。よって大学を卒業するのは24歳と日本より2年遅れることが普通にあります。中国でも男性に2年、北朝鮮では男性が10年近く、女性も7年となっています。
東南アジア、北欧でも徴兵制を採用
東南アジアでも徴兵制を導入している国々があります。あまり危険なイメージがないシンガポールでも2年、ベトナムが2年から3年、タイが2年などどなっています。タイでは毎年4月に徴兵検査が行われ、募集定員に達しない場合にくじ引きで赤い紙のくじを引いた男性に最長2年の兵役義務が課せられます。
また、治安が良いイメージがある北欧でも、スウェーデンが1年、ノルウェーが1年、デンマークが4〜12カ月、フィンランドが半年から1年などと兵役制度が導入されています。2年前にロシアがウクライナに侵攻したことで、ロシアと国境を接するフィンランドを中心にロシアへの警戒感が強まっており、徴兵制を支持する声が国民の間でも広がっているようです。ウクライナ侵攻により、フィンランドとスウェーデンはNATOへの加盟を急ピッチで進め、フィンランドが2023年4月、スウェーデンが今年3月にそれぞれ加盟しました。
台湾では、有事を懸念して兵役期間を延長
こういった動きは台湾でも広がっています。近年は日本でも台湾有事を懸念する声が広がっていますが、中国による軍事的威嚇に直面する台湾ではこれまで18歳以上の男性に4カ月の兵役義務がありましたが、今年1月から台湾政府は4ヶ月から1年に延長しました。台湾市民の多くはこの期間延長を肯定的に捉えていて、近年では市民が軍事訓練や避難訓練に率先して参加するなど、台湾有事を意識した市民の動きが広がっています。
ウクライナ侵攻以降、徴兵制を導入する国が増加の見込み
ロシアによるウクライナ侵攻により、国際政治は大国間対立の時代へと回帰しています。これまではグローバル経済、市場主義、国際協調などの重要性が先行していましたが、今後世界では国家間の競争や対立がさらに先鋭化する恐れがあります。それによって徴兵制を導入する国の数が増えることが考えられます。日本では現時点でそれは考えにくいですが、今後は徴兵制を導入するべきだという意見が増えてくるかも知れません。
この記事のPOINT
- ①世界中で徴兵制を導入している国は60カ国以上
②近隣の韓国、中国や東南アジア、北欧でも徴兵制を採用
③ウクライナ侵攻により、今後導入する国が増える見込み -
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。