目次
「立つ鳥、跡を濁さず」とは?
まずは、この言葉の読み方や意味、語源をおさえておきましょう。
読み方と意味
この言葉は、『立つ鳥、跡を濁さず』と書いて「たつとり、あとをにごさず」と読みます。「去っていく者は、その跡が見苦しくないようにきれいに始末してから去るべきである」という戒めの意味を持つことわざです。
由来・語源
『立つ鳥、跡を濁さず』は、水鳥が後にした池や湖の水面が濁っておらず、美しかったことが由来とされます。
安土桃山時代のことわざ集『北条氏直時分諺留』には、「鷺(さぎ)はたちての跡濁さぬ」と書かれており、水鳥の中でも鷺を指しているのではないかと考えられています。
「飛ぶ鳥?」「後?」「汚さず?」微妙な間違いに要注意!
なかには、『飛ぶ鳥、跡を濁さず』と覚えている方や、『跡』を『後』としている方、『濁さず』を『汚さず』と勘違いしている方も少なくないようです。これらが間違っているのかどうか、それぞれチェックしていきましょう。
『飛ぶ鳥、跡を濁さず』は間違い?
『飛ぶ鳥、跡を濁さず』は辞書によっては項目が設けられており、正しい使い方とされている場合もあるようです。その場合は、たいてい「立つ鳥、跡を濁さずと同じ意味」と書かれています。ただし、辞書によっては、『飛ぶ鳥、跡を濁さず』は誤用とされることも。
『飛ぶ』からは『立つ』に含まれる「鳥がその場を後にする」ニュアンスが薄まってしまうので、『立つ鳥、跡を濁さず』としたほうが無難かもしれませんね。
跡? 後?
『立つ鳥、“後”を濁さず』と覚えていたら、それは間違い。ここでいう「あと」とは、鳥がいた痕跡を指し、後ろのことではないので、『立つ鳥、“跡”を濁さず』が正解です。
濁さず? 汚さず?
『立つ鳥、跡を“汚さず”』も誤りとされます。水鳥が立ったあとの水面が「澄んでいた=濁っていなかった」情景を想像してみると、『汚さず』よりも『濁さず』のほうが自然に思えるのではないでしょうか。
使い方を例文でチェック!
ここからは、『立つ鳥、跡を濁さず』の具体的な使い方を例文を通して見ていきましょう。
1:もうすぐ卒業だ。【立つ鳥、跡を濁さず】というように、後輩たちが使いやすいよう、部室を整理しておかなければ。
この例文のように、『立つ鳥、跡を濁さず』は自分を主語にして使うことができることわざです。お世話になった場所などにおいて、残された人たちのために跡をきれいにしておこう、と自戒のニュアンスを込めて用いられます。
2:【立つ鳥、跡を濁さず】と言うが、先輩は引き継ぎもせずに急に仕事をやめてしまった。残されたスタッフたちはてんやわんやだ。
この例文のように、『立つ鳥、跡を濁さず』は他者に対しても使えるほか、相手を批判する意味でも使うことができます。また、整理整頓のような物理的なことに限らず、後に混乱や問題を残さない、といった意味合いで用いることもできます。
3:旅先で宿泊したホテルは、【立つ鳥、跡を濁さず】の精神で、必ずきれいにして帰るようにしている。
『立つ鳥、跡を濁さず』は、長期的にお世話になった場所に限らず、旅先などの短期的に滞在した場所に対しても使うことができます。ホテルやキャンプ場などにゴミを残さずに帰ることも大切なことですよね。
類語や言い換え表現は?
ここからは、『立つ鳥、跡を濁さず』の類語や言い換え表現を見ていきましょう。
1:原状回復(げんじょうかいふく)
『原状回復』とは、「場所や物を、変化がもたらされる前の状態に戻すこと」を意味する言葉です。
『立つ鳥、跡を濁さず』に含まれることがある「残された人への思いやり」のニュアンスや戒めの意味はなくなりますが、単純に「使った場所をきれいにする」ことを言い表したい場合はこの表現を使うことができます。
2:後始末(あとしまつ)
『後始末』とは、「物事が済んだのちに、後片付けをすること」や「事後処理すること」を意味する言葉です。あとに問題を残さないために片付けをする、という意味では『立つ鳥、跡を濁さず』に似た意味を持つ言葉です。
ただし、こちらからも戒めのようなニュアンスはなくなるので注意しましょう。
3:鷺は立ちての跡を濁さず(さぎはたちてのあとをにごさず)
『鷺は立ちての跡を濁さず』は、『立つ鳥跡を濁さず』の元になったと言われることわざです。どちらも同様の意味で使うことができますが、『立つ鳥跡を濁さず』のほうが広く浸透しています。
対義語は?
『立つ鳥、跡を濁さず』の対義語にあたる言いまわしはあるのでしょうか。ここでは、『立つ鳥、跡を濁さず』の反対に近い意味を持つ言葉をご紹介します。
1:後足で砂をかける(あとあしですなをかける)
『後足で砂をかける』とは、「お世話になった人や残された人を裏切るばかりか、去りぎわにさらに迷惑をかけること」を、犬や馬が駆け去るときに後足で砂をけ散らすことに喩えた言葉です。お世話になった人や後の人のことを考えて跡をきれいに始末する『立つ鳥、跡を濁さず』とはまったく反対の意味を持つ言葉と言えます。
2:後は野となれ山となれ
『後は野となれ山となれ』とは、「後はどうなろうと、自分の知ったことではないという無責任な態度」を喩えたことわざです。お世話になった人や残された人への恩義や配慮が足りない様を言い表すため、『立つ鳥、後を濁さず』とは反対の意味を持つ言葉として挙げられます。
英語表現は?
最後に、『立つ鳥、跡を濁さず』に近い意味を持つ英語表現を押さえておきましょう。
1:It is a foolish bird that fouls its own nest.
“It is a foolish bird that fouls its own nest”は、「自分の巣を汚すのはおろかな鳥だ」と直訳できることわざです。「自分の巣はきれいにしておくべきだ」という意味で使われ、「去る場所の後始末」というニュアンスは薄まりますが、『立つ鳥跡を濁さず』と似た意味の英語表現と言えます。
自分自身や自社にとって損な行動をする人に対して、批判的な意味合いで使われることがあります。
2:Cast no dirt into the well that gives you water.
“Cast no dirt into the well that gives you water.”は、「水を与えてくれる井戸にゴミを投げ入れてはいけない」と直訳できる英語のことわざです。「他の人も使うものは、使った後にきれいにしておくべき」という戒めのニュアンスがあり、「元通りにする」といった意味合いでも使われます。『立つ鳥跡を濁さず』に似た英語表現のひとつとして覚えておきましょう。
退去や転職の際は「立つ鳥、跡を濁さず」を戒めに、後始末をしっかりしよう
今回は、『立つ鳥、跡を濁さず』の意味や語源、使い方の例文、関連語までを一挙にご紹介してきました。お世話になった人や場所への恩は、決してないがしろにしたくないものですね。転居・退去や卒業・転職の際は、『立つ鳥、跡を濁さず』を戒めに、後始末はしっかりしてから去るようにしましょう。
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文・構成/羽吹理美