机上の空論とは非現実的な理論のこと
机上の空論とは、「実際には役に立たないであろう理論」のことです。まずは、机上の空論の「語源」と「誤用表現」について確認しましょう。
語源は?
「机上」とは読んで字のごとく机の上のことであり、「空論」とは中身のない無駄な理論のことです。つまり「狭い机の上でシミュレーションされた非現実的理論」を意味します。たとえば、何かを実行したいとき、まず頭の中でプランを練るでしょう。本来、計画とは、これまでの経験や起こりうるハプニングを考慮した実現性の高いものであるべきです。ところが、机に向かって打ち出した企画は、筋道が立っているように見えて、実現する可能性が低いものになるケースも少なくありません。このように、「都合よく想像して組み立てたにすぎない計画や議論」を指して机上の空論といいます。
混同しやすい誤用表現
よく間違って使われるのが、「卓上の空論」や「砂上の空論」といった言い回しです。卓上も机の上であるに違いありませんが、卓上の空論という表現はありません。
砂上の空論は、おそらく「砂上の楼閣(さじょうのろうかく)」から連想されたものでしょう。「机上の楼閣」と誤用されることもあります。机上の空論と砂上の楼閣に同じような意味があるために、余計に間違いやすいのかもしれません。
ことわざや慣用表現は、何となく語呂で覚えてしまうとこうした勘違いが起こりやすいものです。語源からきちんと把握して、今後の誤用を防ぎましょう。
使い方や英語表現
ここでは、机上の空論の使い方について、具体的な例文を交えて見ていきましょう。あわせて、英語ではどのように表現されるのか解説します。
日本での使い方と例文
机上の空論は、相手をたしなめたいときや思いとどまらせたいときに使われます。少しきつめの表現で、目上の人に使うことはあまりないかもしれません。
▼例文
「そんなものは机上の空論にすぎない。現実ではそううまくいくとは限らないよ」
「机上の空論と突っぱねられないためにも、検証してみよう」
なお、ネガティブな評価を下すときの表現であることから、相手をほめる場面では使いません。もし「それは素晴らしい机上の空論ですね」などと言えば、嫌みになってしまうため注意しましょう。
英語では「Pie in the sky」
机上の空論は、英語では次のように表現されます。
・pie in the sky(空に描いたパイ)
・looks good on paper(紙の上では素晴らしい)
・armchair analysis(肘掛け椅子の分析)
「pie in the sky」は直訳すれば「空に浮かんだパイは食べられない」という意味です。意味は同じですが、「絵に描いた餅」の訳語と言ったほうがピンとくるかもしれませんね。
「looks good on paper」は、「書類上で見る分にはよい案だね」と言っています。表現上でも、最も机上の空論に近いニュアンスといえるでしょう。
「armchair analysis」は、「肘掛け椅子に座ってひねり出した分析結果」です。確証のない主張を皮肉るような場面で使われます。
机上の空論の類語表現
ここで紹介する四つの表現は、机上の空論と同じような意味を持ち、似たような場面で使われることのある言葉です。それぞれの語源や、机上の空論とのニュアンスの違いをわかりやすく解説します。
紙上に兵を談ず
「紙上に兵を談ず」とは、武将が畳の上で紙を広げ、兵の動きをシミュレーションしながら作戦会議しているイメージです。紙の上でどれだけ見事な勝利を収めようとも、実際の戦場で兵士たちが想像通りの動きを見せることはまずないでしょう。「現実味がない」という意味で、机上の空論ととてもよく似た言葉です。机上の空論が「机上論」と省略されるように、「紙上談兵(しじょうだんぺい)」などともいわれます。
絵に描いた餅
「絵に描いた餅」とは、「食事の場で餅の絵を目の前に出された」といったニュアンスです。どれだけおいしそうでも、どれだけおなかが空いていても、絵に描かれた餅を食べることはできません。「価値がなく、役に立たない」ことを指します。なお、「絵に描いた餅のようなものだ」とは言いますが、「絵に描いたような餅だ」とは使わない点に注意が必要です。
砂上の楼閣
楼閣とは、高さのある見事な造りの建物のことです。砂でできた地盤はさらさらともろく、そのような場所に高い塔を建てても、いつ崩れてしまうともしれません。ただし、「砂上の楼閣」は「理想論」として使われる一方で、「立派に思えるが、足元が危ういため長続きしない」という意味もあります。
つまり、いったんその計画を完遂した際にも当てはまる表現です。「すでにできあがったもの」に対しても使われるという点において、机上の空論と異なります。
捕らぬ狸の皮算用
「捕らぬ狸の皮算用」とは、猟師が狸を捕る前から「狸の毛皮を売れば、しばらく楽に飲み食いできるだけの金が手に入るぞ」と先走って金勘定している様子からできた言葉です。まだ狸は1匹も捕まえていない状態で、実際に捕まえられるとも限りません。このことから、「まだ手に入れていない不確実な利益をあてにすること」をからかう意味で使われます。
捕らぬ狸の皮算用が「成果を得るまでの実行計画」が皆無であるのに対して、机上の空論は「想像通りにいけば立派な計画」ですから、やや意味合いは異なるといえるでしょう。
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意味を覚えて正しく使おう
普段何気なく使っている言葉でも、いざその意味を聞かれると曖昧な答えになってしまうことも少なくありません。机上の空論のように、ときとしてほかのことわざや慣用表現とごちゃ混ぜになることもあるでしょう。
特に、反抗期前の子どもは、親の教えを「正しいこと」として素直に吸収します。誤った意味や誤用表現を教えてしまわないよう、正しい日本語の知識を再確認しておくとよいですね。
文・構成/HugKum編集部