今回は、心理学とコーチングをベースとしたコミュニケーションの事業を行う、エール株式会社代表取締役 櫻井将さんに、親が身に付けておきたい「聴く力」についてお話を伺いました。頭では聴いた方がいいと思いながら、ついお子さんとの会話に感情的になってしまう…バトルをするたびに後悔してしまう…という心当たりがある方、必読です!
目次
親子の会話における“聴く”のコツとは?
Q:同僚や上司、友達の話はちゃんと“聴く”ができているような気がするのですが、我が子との会話になるとバトルしがちです。どうすれば良いでしょうか?
A:その子なりの考えがある、という前提で話を聴く。親の意見はいったん置けると、聴きやすくなる。
自分の子どもの話を聴けずにケンカになってしまう時ってありますよね。私は聴くということを研修や講演などでお伝えする立場です。でも、聴くことはとても大切とはいえ、時間や気持ちの余裕がなくて聴けない時はあるし、むしろ聴かなくていい時もあると思っています。子どもの成長や社会性を考えると、「伝える」方が大切な時もあります。そんな前提はありますが、ここでは、お子さんの話を「聴く」ことについて、ヒントをいくつかご紹介します。
親子であっても、その子なりの考えや思いがあるという前提でやりとりをすることが“聴く”の出発点です。親子という関係上、「我が子にはこうあって欲しい」という理想や「こっちの方が正しい」という親の論理を子どもに投げかけてしまいがちです。それは子どもの成長を願う親の愛から来ていると思うのですが、「それは間違っている」「それはおかしい」と思った時に、まずは親の意見は言葉にせず、いったん脇において子どもの話を聴くことから会話を進めると、うまくやりとりできることがあります。
小学生くらいのお子さんの場合、なぜそう考えたのか、どうしてそうしたいのかなど、考えや気持ちを言葉で表現できないことがあります。親御さんは会話の中で、「そっか、そうしたいんだね。どうしてそうしたいと思ったの?」と、親の考えはいったん脇に置いて、子ども自身が自分の考えや気持ちを整理できるようにサポートできると、お互いに冷静に会話を進めることができるようになってきます。
【Point】
・親の意見や理想はまずいったん脇に置く
・「どうしてそう思ったの?」「いまどんな気持ちなの?」など子どもが考えや気持ちを整理できるようフォローを
注意しすぎは逆効果!トラブルがあった時こそ言い分をちゃんと“聴く”
Q:子どもに何度注意しても同じことを繰り返します。伝え方が悪いのでしょうか?
A:いけないことをした時でも、子どもが見ている景色を聴いてみて!
子どもを育てる上で、時には厳しく注意しなければならないシーンもあると思います。日頃から“聴く”ことができている親子関係であれば、お父さん・お母さんが一番の理解者であるという前提があるので、「お母さん(お父さん)が言うなら」と、伝えたいことも響くと思います。しかし、注意ばかりしていると、言っても効かない状況になり、同じことを繰り返すということが起きかねません。
注意をしたいときこそ、子どもには子どもなりの考えや気持ちがあるという前提に立って、どういう思いがあったのか、その時どんな気持ちなのか、その子が見ている景色を一緒に見てみようとします。すると、どういう思いや景色からその行動をしているのか、理解が深まります。叱ったり、意見を伝えるのではなく、その子に共感的に理解を示した上で、次に同じ状況になった時はどうすれば良いか、一緒に考えていけるかもしれません。
【Point】
・時間と心に余裕がある時に子どもの話を聴くことで、子どものよき理解者となる
・トラブルがあった時こそ、子どもの言い分をまずちゃんと聴いてみる
反抗期のお子さんでも対応は同じです!
Q:子どもが反抗期で、こちらの話を一切聞こうとしません。
A:親の感情や意見をいったん手放し、子どもの話の解像度を上げていきましょう。
反抗期のお子さんとの会話でも、関わり方は同じです。どうしても親の意見を伝えたくなってしまいがちですが、まずは親側の意見や感情を手放して、子どもの気持ちや見ている景色、話に出てくる言葉や場面の解像度を上げていきましょう。
その時に便利なのが「っていうと?」という質問です。
子どもと同じ言葉を使いながら、「へぇー、そうなんだね。その○○っていうと?もう少し教えて」と返していくと、子どもは自分と同じ景色を親が見ようとしてくれていると感じ、安心して自分が見えているもの、感じていること、その時の気持ちなどを具体的に話しやすくなります。親のお子さんへの理解が深まると同時に、何よりお子さん自身が、自分の気持ちや見えている景色を言葉にするうち、それまで気づいていなかった自分の想いや感情が自分で分かるようになっていきます。そこからもコミュニケーションが少しずつ変わっていくかもしれません。
【Point】
・親側の感情や意見はいったん手放す
・「っていうと?」という質問で、子どもの話の解像度を上げていく
思うようにいかなくても、ダメな親ではありません!
Q:子どもに寄り添うこと(共感すること)が一番なのは理解しています。でも、自分に余裕がなくて感情的になって落ち込んでしまいます。
A:ずっと聴いて共感できる親なんていません。よき理解者でありたいという自分の気持ちは嘘じゃない。
毎日忙しくしていると、時間的な余裕のなさや、その時の体調や気分で子どもをきつく叱ってしまったり、子どもとの会話を適当に流してしまう…そんなことは誰にでもあることです。その度に後悔して落ち込んでしまうということは、裏を返せば、親であるあなたが、お子さんの気持ちを「受け止めたい」「理解したい」という想いがあるからこそ。
話を聴くという行為は、あり方とやり方があります。子どもに寄り添いたいという気持ちが「あり方」です。時間や気持ちの問題で、聴く余裕がない時もあります。それは「やり方」の話です。でも受け止めたい、理解したい、寄り添いたい、という「あり方」で普段から過ごしていれば、必ずそれは子どもに伝わります。
もし感情的に叱ってしまったり、子どもの意見を否定して喧嘩になってしまった日があっても、あまり自分を責めすぎないでください。子どもが大切な話をしたい時に、お母さん・お父さんに話をしてみようと思えるかどうかは、あなたのあり方の影響の方が大きいのです。もし、子どもの話を聴きたいのに聴けてないなと思ったら、自分の心の声を聴いてあげてほしい。あの時は叱ってしまったけど、自分が本当に大切にしたかったことは何なのか、何を大切にしたいから叱ったのか、自分のことを責める前に、自分で自分のことを聴けるといいのかな、と思います。
【Point】
・感情的になってしまっても、子どもに寄り添いたいという気持ちが消えたわけではない
・ダメだなと思った自分は、何を大切にしたかったのか、自分の声を聴く
親子の会話が子どもの心を健やかに育む。お子さんにどんな気持ちで声をかけていますか?
日頃の会話で、「どんな言葉」をかけるのかはとても重要ですが、「どんな気持ち」で話をするのかはもっと大切です。毎日の生活の中でつい目につくのは、お子さんの苦手なことやできていないところが多くなりがちです。これも子どもを思えばこそ、なのですが。すると、つい「この子は○○ができていない子だ」「いつも○○がダメな子だ」という前提で声をかけてしまう。このどんな前提で子どもを見ているのか、は想像以上に子どもに大きな影響を与えます。
人は「みなした」ようになっていきます。お手伝いをするのが仮に週に1回だったとしても、週1回お手伝いをする度に「あなたはお手伝いができる優しい子だね」と言われるのと、お手伝いをしない日に毎日「少しくらいお手伝いしなさいよ」と言われるのと、どちらが将来お手伝いをする子になっていくでしょうか。親であるあなたが、子どもがどんな人間と思って接するのか。お手伝いをしないダメな子だと思って接するのか。ウチの子はダメで、あの家の子はできる、というのは、もしかしたら思い込みかもしれません。あなたの捉え方が違うだけかもしれません。
「聴く」ことは手段であって目的ではありません。だからこそ、親子でのコミュニケーションでも、まず最初にどんな気持ちでお子さんの目の前にいるかを大切にできるといいなと思っています。
櫻井さんのお話を伺って
親子間で相手の言いたいことを正しく理解しようとする“聴く力”を育むことで、子どもにも“聴く力”が備えられるのではないかと感じました。育った環境や文化が異なる人たちと共に生きていく時代だからこそ、その力が多様性の時代を生き抜く、最強のコミュニケーション能力になるのではないでしょうか。
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お話を伺ったのは
2017年2月よりエール株式会社に入社、同年10月、代表取締役に就任し、オンライン1on1サービスの開発・販売に携わる。
2023年時点で、エール社が提供するオンラインセッションは年間約30,000件。「聴く」にまつわる講演や研修は年間50回以上、自社メンバーとの1on1は年間300回ほど行うなど、自身も日々「聴く」に向き合い続けている。近著に『まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』(日本能率協会マネジメントセンター)
文・構成/鬼石有紀