世界の主要課題は米中対立やウクライナ戦争
今日でも世界では紛争が続いています。ウクライナではロシアによる侵攻が続いていて、ウクライナは米国などからの軍事支援により、ロシアの実行支配地域の拡大を防止しようとしています。中東ではイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実行支配するスラム組織ハマスとの交戦が続いていますが、イスラエル軍による容赦のない攻撃により、パレスチナ側の犠牲者数は4万人に迫る勢いです。
それでもイスラエルのネタニヤフ首相は攻撃を停止する姿勢を見せず、国際社会からイスラエルへの批判の声が広がっています。さらに、台湾を巡っては米中の対立が深まっていますが、台湾で5月に新たな総統に就任した頼清徳氏は中国の圧力に屈しない姿勢を堅持していて、今後は台湾を巡って紛争がエスカレートする恐れもあります。
しかし、よく見るとこういった紛争では米国や中国、ロシアといった大国が絡んでいます。ウクライナではロシアと欧米が、中東では米国が依然としてイスラエル支持の立場を貫き、台湾では米中が紛争の当事者の立場にあります。日本もウクライナ戦争では欧米と同じくウクライナ支持の立場を明確にし、台湾問題では日本も大きな影響を受けることから、日本も大国間対立の中にあると言えるでしょう。一方、東南アジアや南アジア、アフリカや中南米などの途上国、いわゆるグローバルサウスはこういった紛争とは別の世界にありますが、実際どう思っているのでしょうか。
途上国は現在の紛争をどう見ているか?
先に結論となりますが、途上国の多くは現在の紛争に強い不満を抱いており、紛争を繰り返す大国に幻滅しています。そういった声は途上国から聞かれます。たとえば、インドネシアの次期大統領であるプラボウォ国防相は5月、シンガポールで開催された安全保障会議で、「グローバルサウスは米中対立など大国間の争いに強い不満を覚えている。大国は人類共通の利益のため(地球温暖化などを解決する)に責任を持って行動するべきだ」との認識を示しました。
また、インドのモディ首相も一昨年9月、ウズベキスタンで開催された国際会議でプーチン大統領と会談し、「今は戦争をする時代ではない」とロシアのウクライナ侵攻に強い不快感を示しました。同じような声はアフリカや中南米からも聞こえ、「アフリカを米中の競争の場とするべきではない」、「米中対立は新冷戦だ」、「大国は地球規模課題でリーダーシップを発揮するべきだが、結局戦争しているのは大国だ」、「大国が途上国の経済発展を阻害している」など途上国の不満は膨れ上がっています。
皆さんは日常生活でこういった声を聞いたことがあるでしょうか。テレビや新聞、ネットメディアなどでは米中対立や台湾情勢、ウクライナ戦争などが毎日報じられ、多くの人の興味や関心はそれらにあるでしょう。しかし、今後の世界で影響力を高めるのはグローバルサウスです。日本としてはこういったグローバルサウスの不満をもっと真剣に受け止め、日本企業としては米中貿易摩擦などを懸念する一方、独自にグローバルサウスに接近することが重要になるでしょう。グローバルサウスの不満は高まるばかりです。
この記事のポイント
①世界では、米中対立やウクライナ戦争に主眼が置かれ、東南アジアや南アジア、アフリカや中南米などの途上国、いわゆるグローバルサウスに関しては関心が薄い
②インドネシアやインドははグローバルサウスの主要国として、大国間の争いに強い懸念と不満を持っている
③今後世界で影響力を持つのはグローバルサウスの国々。日本や、日本企業の立ち位置が問われる。
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う