ロシアと北朝鮮が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結
最近、ロシアと北朝鮮が急速に関係を強化しています。ロシアと北朝鮮は6月19日に開催した首脳会談で「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結しました。条約には相互の軍事支援が明記され、「両国のいずれか一方が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、他方が遅滞なく、保有するすべての手段を用いて軍事的およびその他の援助を実施する」とされています。これについて、日本国内では日本の安全保障にとって深刻な脅威になる恐れがあるとの見方が多く聞かれます。確かに、仮に今後両国が軍事的関係を強化すればその通りでしょう。しかし、ここでは両国の狙いに着目したいと思います。
互いになくてはならない存在
まず、ウクライナ戦争を続けるロシアは今日、弾薬などをさらに外国から調達する必要があります。米国がウクライナへの軍事支援を再開したため、ロシアとしては長期戦を視野に軍備品を安定的に確保する必要があり、北朝鮮はそれを補う意味で重要な調達先になっています。
一方、北朝鮮にとってもロシアは重要なパートナーとなっており、ロシアへ軍事支援を強化すると同時に、ロシアから食糧支援や宇宙開発支援を得ることが可能になっています。北朝鮮は常に食糧支援を必要としていますし、近年は宇宙開発を重視しているので、北朝鮮にとってもロシアはなくてはならない存在になっています。要は、お互いが互いを必要としており、それが条約の締結の背景にあります。しかし、今後どこまで踏み込んだ軍事協力になるかは未知数な点が多いのが現状です。
中国は歓迎する想いと警戒する想いが交錯
一方、中国はこれに対して2つの想いがあるでしょう。欧米主導の国際秩序とは一線を画す新たな秩序の構築を目指す中国としては、ロシアと北朝鮮が関係を強化することは、欧米陣営を牽制する意味で効果的と捉えているはずです。新たな秩序を構築するにしても、中国には多くのパートナーが必要であり、同じく米国と対立するロシアと北朝鮮が中国の仲裁なしに独自に関係を強化することは都合のいい話です。
しかし、それと同時に両国のパートナーシップに過度に接近することへの警戒感もあるはずです。対欧米で3カ国の利害や目的は一致するものの、それぞれの国益が全て一致するわけではありません。ロシアと北朝鮮のパートナーシップに過度に入り込めば、中国がウクライナ戦争や北朝鮮の核・ミサイル開発でこれまで以上に深入りする必要性に迫られる可能性もあり、中国としてはそれを避けたいはずです。中国自身は決して、ウクライナ戦争が拡大すること、北朝鮮が核・ミサイル開発を強化することを望んでいるわけではありません。仮に、中国が両国のパートナーシップに深入りすれば、欧米からの批判がいっそう強まるだけでなく、インドなどグローバルサウスからも中国警戒論が広がる可能性もあり、中国としてはその辺りでバランスを取る必要があるのです。
この記事のPOINT
①2024年6月、ロシアと北朝鮮が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結
②軍事支援を必要とするロシアと、食糧支援や宇宙開発のサポートを必要とする北朝鮮は互いに必要とし合う関係性
③中国は、対欧米という意味では歓迎するも、深入りすることは避けたいと考えている
あなたにはこちらもおすすめ
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。