小6児童の15人に1人が該当? 支援が急がれる「ヤングケアラー」とは。現状・課題・支援策を解説

「ヤングケアラー」とは、負担の大きい家族のケアを日常的に引き受けている子ども・若者です。単なる「お手伝い」とは異なり、学業や人間関係にマイナスの影響をもたらす場合があります。
日本におけるヤングケアラーの実態や支援の現状を知りましょう。

ヤングケアラーとは誰を指すのか?

「ヤングケアラー(young carer)」は、具体的にどのようなケアを行う子ども・若者を指すのでしょうか? ヤングケアラーの定義と現状について解説します。

家族の世話が日常化している子どもや若者

子ども・若者育成支援推進法によると、ヤングケアラーは「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義されています。

「過度」に明確な基準はありませんが、以下に挙げるような行為を日常的に行っている子ども・若者は、ヤングケアラーに該当すると考えてよいでしょう。

●障害や病気のある家族に代わって、料理や洗濯などの家事をする
●家族に代わって、幼いまたは障害や病気のあるきょうだいの面倒を見る
●障害や病気のある家族を世話する
●日本語が話せない家族のために通訳する
●障害や病気のある家族に代わり、労働して家計を支えている

年齢や成長の度合いに比べて肉体的・精神的な負担が重すぎるケアや、長時間継続的に行うケアは、子ども・若者の心身の発達に深刻な影響を与えると考えられています。

出典:ヤングケアラーについて|こども家庭庁

日本におけるヤングケアラーの現状

こども家庭庁では、2022年1月に「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」を実施しています(株式会社日本総合研究所調べ)。

小学6年生を対象に「世話をしている家族の有無」を尋ねたところ、回答者の6.5%が「いる」と答えています。小学6年生の約15人に1人がヤングケアラーである計算です。

世話を必要としている家族は、きょうだい(71.0%)・母親(19.8%)・父親(13.2%)です。世話をしている頻度は、「ほぼ毎日」が52.9%で、平日1日当たりに世話に費やす時間は「1~2時間未満」が27.4%でした。

これらの結果から、小学校には「家族の世話が日常的になっている児童」が一定数いることがうかがえます。

出典:ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書|株式会社 日本総合研究所

ヤングケアラーが抱える悩み

本人は「当たり前のこと」と思っているかもしれませんが、日常的な家族の世話は、子どもや若者にとって大きな負担です。ヤングケアラーが直面しやすい問題を見ていきましょう。

勉強時間の不足で成績・進学に影響が出る

ヤングケアラーの約半数は、ほぼ毎日のように家族の世話をしています。重い障害や病気のある家族がいれば、食事の準備や洗濯、場合によっては排泄の世話までしなければならず、勉強時間も大きく削られます。

人によっては、早退・遅刻・欠席が多くなり、授業についていけなくなる可能性があるでしょう。勉強時間が満足に取れなければ成績が下がり、進学や就職にも悪影響が出ると考えられます。将来の不安が増し、精神的に不安定になる子ども・若者も少なくありません。

大きなストレスや孤立感を抱える

成長期においては、友だちと遊んだり、習い事に挑戦したりして、自分の世界を広げていくことが重要です。しかしヤングケアラーの多くは、家族の世話をしなければならないため、家の中にこもりがちになります。

悩みを相談できる人が周囲にいなければ、大きなストレスや孤立感を抱えるでしょう。実際、ヤングケアラーの中には、ストレスによる心身の不調を訴える子もいます。

家族以外の他者とコミュニケーションをする機会が減ることで、社会生活を営む上で必要な「社会性」が育ちにくい恐れもあります。

ケアを優先し夢や目標を諦めてしまう

幼い頃から家族の世話をしているヤングケアラーは、「家族のケアがあるから」と自分の夢や目標を諦めてしまう傾向が見られます。

諦めるつもりがなくても、学業との両立が難しく、進路選択やキャリア形成の場面で思い悩むこともあるでしょう。相談相手が少ないため、進路の決定時に適切な選択肢を選べないケースもあります。

就職活動のときに、勉強や部活動が十分にできなかったことを引け目に感じたり、企業側から「ケア経験は働く上で評価されない」と言われて傷ついたりする人もいます。

ヤングケアラーの存在が表面化しにくい理由

国の調査によると、小学6年生の約15人に1人がヤングケアラーです。ヤングケアラーは私たちにとって身近な存在にもかかわらず、表面化しにくいのはなぜでしょうか?

本人にヤングケアラーの自覚がない

一つ目の理由として、本人にヤングケアラーの自覚がないことが挙げられます。幼い頃から家族の世話をしてきた子ども・若者の多くは、「自分が家族の世話をするのは当たり前」という認識を持っています。

ヤングケアラーの実態に関する調査研究によると、ヤングケアラーのうち「世話について相談した経験がある」と答えた人は17.3%に留まりました。世話について相談しない理由としては、「相談するほどの悩みではないから」が72.7%を占めています。

世話の大変さについては、57.4%の人が「特にきつさは感じていない」と回答しており、助けを求めるまでもないと思っている人が多いことがうかがえます。

出典:ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書|株式会社 日本総合研究所

家族の問題を他人に相談しにくい

二つ目の理由は、家庭内の問題を赤の他人に相談しにくいことです。自治体や民間団体が設ける相談窓口はあるものの、個人的かつデリケートな問題は、他人に気軽に相談できないのが実情です。「家族のことは家族で解決」という社会の風潮があるのも、表面化しない要因の一つでしょう。

また子どもには、自分が置かれている状況や気持ちをうまく言語化できないケースがあります。被支援者に一方的に支援内容を決められたり、相談した相手に「あなたがケアをする必要はない」と、自分がやってきたケアを否定されたりすると、なおさら相談できなくなってしまいます。

実態の把握が難しい

国が全国の市町村要保護児童対策地域協議会を対象にヤングケアラーの調査をしたところ、2020年度は28.7%の自治体が「ヤングケアラーと思われる子どもはいるが、その実態は把握していない」と答え、40.0%の自治体が「該当する子どもはいない」と答えています

ヤングケアラーを支援するには、支援する側が実態を正確に把握する必要があります。しかし、家庭の事情に必要以上に介入できず、実態の把握が難しいのが現実です。

虐待であれば近所の通報によって発覚しますが、ヤングケアラーは単なる「家事手伝い」との見極めが難しく、周囲の大人も情報提供がしにくいといえるでしょう。親が家庭の事情を隠すケースも珍しくありません。

出典:ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

ヤングケアラーへの支援は始まったばかり

日本におけるヤングケアラーの支援はまだ十分とはいえません。ただし「子ども・若者育成支援推進法の改正案」の成立により、今後はヤングケアラーへの支援体制の強化が期待できます。改正案のポイントと、支援の実態を紹介します。

子ども・若者育成支援推進法の改正案が成立

2024年6月、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律において、「子ども・若者育成支援推進法の改正案」が可決・成立しました。

これまで、ヤングケアラー支援に関する法制上の規定は設けられていませんでしたが、今回の改正案では、ヤングケアラーが定義され、国や自治体の支援対象となることが初めて明記されています。

子どもから18歳以上の若者に至るまで、切れ目のない支援をする狙いから、年齢はあえて記載されていません。ヤングケアラーへの支援が法的根拠を持ったことで、全国では支援体制の構築が急ピッチで進むと考えられます。

出典:子ども・若者育成支援推進法|e-Gov 法令検索

地方自治体における支援の実態

今回、法改正がなされた理由には、自治体の支援体制が十分でなかったことが挙げられます。

国の「ヤングケアラー支援の効果的取組に関する調査研究報告書(有限責任監査法人トーマツ調べ)」によると、2023年度の調査では「ヤングケアラー関連の取り組みを行っていない」と答えた自治体が30.8%にも上りました。

支援に取り組んでいる自治体でも、「ヤングケアラー・コーディネーターの配置」は9.6%、相談窓口の整備は7.8%に留まります。

今後は、以下のような支援や取り組みを強化していく必要があるでしょう。

●ヤングケアラーの実態の把握
●ヤングケアラー・コーディネーターの育成や配置
●相談窓口の設置やオンラインサロンの運営
●外国語通訳の派遣支援
●生活改善のフォローアップ

出典:ヤングケアラー支援の効果的取組に関する調査研究報告書|有限責任監査法人トーマツ

ヤングケアラーを社会全体で支えよう

ヤングケアラーは他の子どもに比べて勉強や遊びが十分にできず、孤立感を深めたり、進学先や就職先が限定されたりといった問題に直面しやすい環境にあります。しかし学校や行政による実態の把握は難しく、支援体制も十分とはいえません。

幼い頃から家族の世話などを担ってきた子どもにとっては、その生活が当たり前になっており、周囲が気付きにくいケースも多いようです。本人がSOSを出したくてもどうしていいのか分からず、ひとりで悩みを抱えてしまうこともあります。

法改正によって支援体制の強化が期待できるとはいえ、十分に行き渡るにはまだ時間がかかります。ヤングケアラーを社会全体で支えていくには、私たち一人ずつが実態を知り、その存在に気付く必要があるでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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