子どもにとって病院は大嫌いで怖い場所? 嫌がる子どもに効果的な方法が! チャイルド・ライフ・スペシャリストに聞く、子どもと病院に行くコツ

子どもは受診や注射を怖がるもの。病院の前で尻込みしたり大泣きされたり……、パパママも憂鬱です。でも、子どもの気持ちになってみたら、そりゃ怖くてイヤなのはあたりまえ。じゃあどうしたらいい……? 
そこで、子どもが主体的に医療体験に臨めるよう支援する専門職、チャイルド・ライフ・スペシャリストの井上絵未さんにアドバイスしてもらいました! えっ、そんな方法が!?

「病院怖い」の気持ちをまずしっかり受け止めて肯定しよう

――子どもはなぜ受診を怖いと感じるのでしょうか。体験したことがないことをするのが怖いのでしょうか。

「初めて体験することは、先が見えないから怖い」のは大人も子どもも同じです。一方で、子どもは大人以上に毎日さまざまな初めての体験をしています。積み重ねる体験が子どもを作り上げていく中で、一度体験していやだった経験があれば当然記憶は残り、再度体験することが恐怖になります。

以前にクリニックでいやな思いをした、痛かったなどの体験があると、ほかの病院も「怖い」となりますね。また、初体験でも、その場の空気に違和感を覚えると不安や怖さにつながります。

でも、怖いという感情はすごく大事。大人がその気持ちを受け止めて肯定することで、子どもが怖さは消さなければいけない気持ちではなく、その怖さを持ったままでどう向き合うかと考え始めるきっかけになります。怖さを「そうだよね、怖いよね」と受け止めてもらえるだけで落ち着くお子さんもいます。

 病院の入り口であとずさりしている子に「何してるの、行くよ!」と言うのではなくて、「ちょっと怖いよね、わかるよ」と肯定してあげましょう。きっと子どもはホッとしますよ。

大人が病院にネガティブな感情を持つと子どもに伝わる

――大人が病院に対してネガティブに思っていることが、子どもに影響することはありますか?

ありますね。大人が「病院はいやなところだ」「行くと待たされるし医師に厳しいことを言われる」「できれば行きたくない」なんて思っていると、口に出さなくても不安がお子さんに伝播します。子どもは親の感情に敏感です。まず大人が受診前に心の準備をしておくことが大前提です。

 できるだけネガティブに考えずに、「子どもを病院に連れて行くのは子どもの健康の不安を解消してもらうためだ」、そういう前向きな気持ちで病院に行くようにしましょう。

また、大人が不安を感じているなら、むしろそれを隠さずに、「ママもちょっとドキドキしてるんだよね」と子どもに言ってしまうのも一考です。子どもは「ママもなんだ、じゃ、僕もドキドキしていいんだな」と安堵しますし、ご自身も自分の緊張感を口に出すことで逆にリラックスできるのではないでしょうか。 

 そして、お子さんと病院のHPを見たりしながら、「ここの病院、地下に大きいコンビニがあるみたいだよ。終わったら行ってみようか」とか「行ったことのある〇〇の近くにある病院だね」というように、あらかじめ調べておくと楽しい提案ができます。そして笑顔で話しかけることで、子どもの緊張感はほぐれていくでしょう。 

安心できるかかりつけ医を選んでおくことが重要

井上さんが勤務する済生会横浜市東部病院、入院病棟の待合室。壁の飾りややさしい色合いが心なごむ。インテリアも子どもの恐怖感をやわらげる要因に
井上さんが勤務する済生会横浜市東部病院、入院病棟の待合室。壁の飾りややさしい色合いが心なごむ。インテリアも子どもの恐怖感をやわらげる要因に

――下調べは大事ですね。

そのとおりです。大前提としてできるだけ安心できる受診先をみつけておくことが重要です。日本の医療はフリーアクセス、患者が医療機関を自由に選べます。小児科医師はおおむね温厚な人が多いと個人的には感じていますが、看護師さんや事務の方、病院全体の雰囲気でパパママも安心できる小児科医師をかかりつけ医にするといいですよね。

信頼できるクリニックなら、少し不安なことを言われても、「あの先生が言うのだから」とパパママも納得できるでしょう。お子さんも名前や顔を知ってもらっている先生なら安心できます。

パパママがお子さんの深刻な病気を疑うような場合も、いきなり大きな病院に行く前にいつものかかりつけ医の先生にご相談されて、紹介状をもらって大きな病院で検査をしてもらう方がスムーズな場合が多いです。かかりつけ医に相談できることでパパママも自分たちで悩みを抱え込まず安心できるのではないでしょうか。

落ち着いているときに受診の過程をシミュレーション

――ただ、どうあれ病院は子どもにとって緊張する場です。なんとか少しでもその場に慣れてもらうには?

人は何度も経験していて見通しがついたり、習慣となったりすることで恐怖心が軽減され、安心するものです。特に子どもはそうですね。保育園や幼稚園では毎日朝の会があり帰りの会があり、大人からみると何年も同じことをやってよく飽きないものだと思いますが(笑)、あの繰り返しがあるから、安心して通えるのかなと思います。

予防接種にしても風邪の受診にしても一連の流れがありますよね。受付に行く、体温計をもらって熱を計る、待合室のイスに座って待つ、名前を呼ばれる、中待合室に入る、診察室に入って医師に挨拶や病状説明をする、聴診するその流れを繰り返し練習して想像できるようにしておけば、緊張感がだいぶほぐれます。「思い出してみようね」と言いながら、受診の前日などにおさらいしておくと、当日かなり安心できます。

これまで受けたことのないような検査や医療体験をする場合は、YouTubeなどにある検査の説明動画などを観てお子さんと一緒にシミュレーションしておくのもいいですね。

お医者さんごっこのおもちゃで遊びながら緊張をやわらげる

そして、「受診の練習」に最適なのがお医者さんごっこなんです。

――お医者さんごっこですか!?

保護者とお子さんが役割を決めて演じます。おもちゃの聴診器や注射器、体温計などがあると、ますますリアルに受診を再現することができます。お医者さんごっこのおもちゃは通販サイトなどにもたくさんありますし、100円ショップでも売っていることがあります。

かかりつけの先生のところに受診に行くことを想定して、まずはお子さんに受け付けに行くお芝居をしてもらいます。「ええと、風邪をひいたので来ました」など。すると、受付係のママが「わかりました、ではこの問診票に内容を書いて、お熱を計ってくださいね」と体温計のおもちゃを渡すなど。問診票も、お子さんと手作りすると楽しいと思いますよ。大人も先生の口癖を真似してみるなどリアルに再現しながらお子さんと一緒に楽しんでください。

また、逆に大人が患者さん、子どもが医療機関のスタッフや先生役になって病院に入るところから一連の流れをごっこ遊びで再現するのもいいでしょう。

「診察券を入れてください」などと声をかけて本番をシミュレーション
「診察券を入れてください」などと声をかけて本番をシミュレーション 

――なるほど、事前の練習も楽しく和やかなものにするといいんですね。

お医者さんごっこは、自分が病院にいない、痛い思いをしていない安心、安全な状態で遊びながらシミュレーションできるのがいいですよね。また、医師の立場をわかって体験できるので、「あばれると注射のときに先生が困っちゃうんだね」と体験を通して気付くことができます。

大人が「お医者さんなんて怖くないよ」と言っても、子どもの恐怖心は消えません。一緒に練習して、笑い合って楽しむことで、恐怖心がやわらいでいきますし、当日もだいぶ落ち着いて受診できるのではないでしょうか。一家にひとつ、お医者さんごっこのおもちゃがあるといいですよ!

――井上さんには後編で、「予防接種前の対応」についてお話いただきます。

暴れる、泣きわめく…子どもにとって苦痛な予防接種の怖さをやわらげる方法は?「嘘をついて連れていく」は言語道断!
予防接種で泣くのはあたりまえ、と思っておこう  ――予防接種をするときは子どもの緊張と恐怖がマックスになります。どうしたら少しはうまくいく...

お話を伺ったのは

井上絵未|チャイルド・ライフ・スペシャリスト

済生会横浜東部病院勤務、子どもが主体的に医療体験に臨めるよう支援する専門職、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の資格を持つ。主に小児病棟で入院している子どもなどを支援。社会福祉士資格も持つ。10歳の女の子の母親でもある

 取材・文/三輪 泉

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