暴れる、泣きわめく…子どもにとって苦痛な予防接種の怖さをやわらげる方法は?「嘘をついて連れていく」は言語道断!

子どもを予防接種に連れて行くのを「憂鬱」と思うパパママは多いでしょう。子どもは注射に対しては恐怖のかたまり。なんとか接種させるため、いやがるのを押さえつけて無理矢理……なんていうことも? トラウマにならないようにしたいですよね。
そこで、子どもが主体的に医療体験に臨めるよう支援する専門職、チャイルド・ライフ・スペシャリストの井上絵未さんに、「予防接種を怖がらせないコツ」を聞いてみました! さっそく次の接種から参考にしたいですね。

予防接種で泣くのはあたりまえ、と思っておこう

 ――予防接種をするときは子どもの緊張と恐怖がマックスになります。どうしたら少しはうまくいくでしょうか。 

お子さんが注射を怖がるのはあたりまえです。大人だって「注射が好き」という人は滅多にいませんよね。「注射は大人も子どももいやがるもの」「泣いてもいいよ」という前提で、できるだけ恐怖を少なくすると考えましょう。

――予防接種のことを事前に子どもに知らせると、当日までずっと怖がってしまうので、何も伝えずに当日に連れて行くケースもあるようですが。

公園に行くのかな、と思ったら、連れて行かれた場が予防接種会場だったらパニックになります。それを押さえつけて逃げられないようにして針を刺されたら、本当に怖い。次の予防接種は恐怖でしかありません。

子どもが受ける接種なのですから、子どもが少しでも納得できることが理想です。事前に「こうやってちっくんしようか」などと相談しておくことが大事。日程はあらかじめ共有しておきましょう。

絵本などを読んでいるうちに接種するのもひとつの方法。

なぜ予防接種をするのか、子どもに説明しておく

 

――予防接種の目的などを子どもに伝えておいたほうがいいですか?

予防接種は怖いし痛いけれど、やる意味があるわけです。そこを大人も自分の中でしっかりと反芻し、子どもに折に触れて伝えるのもいいでしょう。 

・病気の中には、人にうつるものがあるんだよ。そしてうつると高いお熱が出たり、ぐったりしたり、大変なことになることもあるんだよ。でも、そうならないように守ってくれるお薬もあるの。

・それが、予防接種だよ。元気なときにお薬を身体の中にいれておいて、ウイルスやバイキンをやっつけられる準備をしておくんだ。

・注射器の中には、「病気に負けないぞ!」っていうお薬が入っているの。それを●●ちゃんの体の中に入れると、ウイルスやバイキンが入ってきてもひどくならないんだよ。

・だからね、注射はいやかもしれないけど、一緒にがんばろう!

こんな感じで子どもに話してみましょう。予防接種の前にいきなり言うのではなく、日々の生活の中で繰り返し伝えていくと理解が進みます。

また、実際に予防接種をしたからインフルエンザなどでひどくならなかった経験があるときは、「ほら、予防接種のおかげで元気でいられたのかもね」などと話すと、さらに納得できるでしょう。

事前におもちゃの注射器で「予防接種ごっこ」

――当日のために準備しておくことはほかにありますか?

前編で「事前におうちでお医者さんごっこをしておくと、お子さんが小児科で受診するときの緊張感がやわらぐ」話をしました。受診の流れが理解できていると、「次にどんな怖いことが起こるんだろう」の恐怖を減らすことができます。(前編はこちら≪

予防接種も同じです。医院での接種の流れを「予防接種ごっこ」で練習しておくと、かなり違うんですよ。何もせずに接種を受けさせると、「いやだ」「こわい」のマックスを受診当日に味わうことになります。事前に練習しておくことで、「おうちで似たようなことをやった」と、だいぶ落ち着けます。 

おもちゃの注射器は100円ショップなどでも購入できますから、利用して、実際の注射のときのように「ちょっとちくっとしますよ~」などと遊びの中で練習をしてください。水鉄砲にもなるので、お風呂などで遊ぶと、より身近に感じられると思います。

井上さんが仕事場で使っているお医者さんごっこのセットにはホンモノの注射器も。これを見せながら予防接種のことも楽しく伝える
井上さんが仕事場で使っているお医者さんごっこのセットにはホンモノの注射器も。これを見せながら予防接種のことも楽しく伝える

ごっこ遊びでお子さんにあった予防接種の受け方を探しましょう!

予防接種をするときに、あえて患者の子ども役を大人が、医師の役を子どもがするのもおすすめです。ママが「いやだいやだ、怖いよう!」と泣き真似をしたりあばれたりすると、医師に扮した子どもが「静かにしましょうね、すぐ終わりますよ」と言うかもしれません。その体験が、「あばれると危ないんだな」という認識になったり、なぜ自分がそう言われたのかという理解につながります。

逆に何ともないように泣いたりせず落ち着いて注射を受けている場面を見せると、自分とは違う受け止め方や向き合い方を知る機会になります。

子どもは自分が接種を受けているときは必死で、医師や周囲の人がどんなふうに思っているか、自分がどのような様子なのかに気づかないこともあります。ママが泣いているのを見て、自分の姿をはじめて客観的に見られたり、今までの自分とは違う向き合い方があるのだと知ることができます。

また、遊びの中では、お子さんが「本当はこうしたかった」「〇〇が嫌だった」という気持ちを言いやすくなります。抱っこすると落ち着く子、抱っこされる窮屈さが嫌な子、泣いてしまうけれど動かないで受けられる子、終わってから泣いてしまう子、泣かずに受ける子。十人十色の向き合い方があります。お子さんと一緒にその子なりの予防接種の受け方を探していけるといいですね。ごっこ遊びの練習を繰り返すうちに、予防接種が近くなると自分から「練習しておく」と言ってくれるようになる子もいますよ。

予防接種の前に問診票を記入しますが、大人が子どもに見せずに記入してしまっていませんか?  子どもにも見せて、「最近、●●ちゃんは病気にかかったかな?  かかってないから○だね」など一緒に答えていくのも、予防接種を前向きにとらえるきっかけになりそうです。

家に届いた問診票を子どもと一緒に見ながら記入しよう(厚生労働省HPより)
家に届いた問診票を子どもと一緒に見ながら記入してみよう(厚生労働省HPより)

どういうふうに予防接種を受けるか、子どもが選択する

――当日の接種の受け方で何か工夫はありますか?

子どもにとって予防接種は、「やりたくないのに大人に押さえつけられてやらされる、なんの選択肢もない」というイメージです。少しでも選択肢があるといいですね。

診察室に抱っこで入るか歩いて入るか、腕はどうやって出すのか。自分で選べるように子どもに見せるシート、接種のときの参考に
診察室に抱っこで入るか歩いて入るか、腕はどうやって出すのか。自分で選べるように子どもに見せるシート。写真は採血の場合ですが、予防接種のときの参考に

診察室に入るときは抱っこがいいのか、自分で歩くのか。ママにはどう抱っこしてほしいのか。医療機関によっては「このように腕を出してこっちを向いてください」とある程度決まっているところもありますが、座り方などが選択できるのであれば、事前に自分でどうするか決めておくと、「自分で選択したのだから」と主体的に接種に向かうことができます

終わったあとは上手にできていたことをほめる

――予防接種が終わったあとはどのように声をかければいいでしょうか。

何がよかったかを、具体的に言ってほめてあげましょう。泣いたり暴れたりしたとしても、「自分でお部屋に入ろうって決めて入っていったのがえらかったね」「泣いても動かないでできてすごいね」など、どこかほめるところがあります。具体的に言語化してあげることで自信につながり、その子の次の行動が変わっていきます。

がんばって接種を受ける、がんばったことをたたえる、という繰り返しが、お子さんが前向きに接種に向かっていく原動力になります。

私たちのようなチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)がいる医療機関では、子どもが主体的に医療に関わっていけるような声掛けをお手伝いします。お子さんを支援するほか、お子さんが重い病気で疲弊している親御さんや、きょうだいが病気なためさまざまなガマンを強いられているきょうだいにもアプローチします。

――CLSは日本中の医療機関にいるのですか?

残念ながら35施設程度にしか存在しません。でも小児の看護を勉強している看護師さんはCLSの支援と同様のことを知識としてお持ちの方もおられます。そんな看護師さんやお医者さんに出会い、お子さんの怖い気持ちを周りの大人が理解しながら予防接種を乗り越えていけるといいですね。

 日本でCLSが勤務している医療機関

こちらの記事では病院に受診する前におすすめのやりとりをご紹介しています。

https://hugkum.sho.jp/642992e

井上絵未|チャイルド・ライフ・スペシャリスト

済生会横浜東部病院勤務、子どもが主体的に医療体験に臨めるよう支援する専門職、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の資格を持つ。主に小児病棟で入院患者の子どもなどを支援。社会福祉士資格も持つ。10歳の女の子の母親でもある

 取材・文/三輪 泉

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