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3.11の体験がきっかけで、防災士・災害食専門員に
管理栄養士・防災士・災害食専門員の今泉マユ子です。私は現在、テレビやラジオ、雑誌、Web、全国各地の講演など、さまざまな場所で「防災」や「災害時の備え」についてお話をしています。
長年、管理栄養士として、企業や病院、保育所での栄養管理業務や食育を行ってきた私が、災害時の食事や防災について学ぶようになったきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。
当時、長男は幼稚園の年長。卒園式の前で「お留守番してみたい」と、生まれて初めてお留守番をした日に地震が発生しました。幸いなことに私は20分ほどでなんとか帰宅することができましたが、パパも中1だった娘も帰宅できたのは次の日のお昼過ぎ。もし、あのとき私が帰宅出来なければ、息子は家で一人で過ごすことになったかもしれません。
その時、私の家は、子どもにもわかる場所に、小さな子どもがひとりで食べられるものや飲み水は置いてありませんでした。それで、このときから、誰もが一人でも生き延びられるようにするための備えについて考えるようになりました。
地震、台風…情報が発表されてからでは必要なものは手に入りません
ところで、今年の夏、日向灘で最大震度6弱の地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報が発表されると、スーパーやドラッグストアでは水やお米が品切れになり、棚には「入荷未定」の張り紙がされているというニュースをテレビで繰り返し見ました。
災害が起きてからでは遅いのです。災害はいつやってくるかわかりません。そして、ひとたび災害が起きれば生活は一変してしまいます。道路が寸断されて物流はストップ。食品工場が被災することもあるでしょう。お店からは一気に商品がなくなります。災害が起きてから慌てて買いに走っても、必要なものは手に入らないかもしれません。日ごろからの備えが大切です。今すぐ、できることから備えを始めましょう。
【飲料水】は「見える場所」に、家のあちこちに「分散して」備蓄
命を守るために一番先にやらなくてはいけないのは、家を安全な場所にするということ。家の耐震、家具などの転倒・落下・移動防災対策をしっかり行ってください。それから自分にとって必要なものを備えます。
災害時に備えて用意しておきたいものはいろいろありますが、まずは最初に備えるべきは水です。大きな災害時には断水が起きると考えられます。水は私たちの生命維持に欠かせません。とくに子どもや高齢者は脱水症になりやすく、水分不足で熱中症になるなどの危険もあります。
一人につき、少なくとも3L×3日分=9L(2Lのペットボトル4本半)、できれば3L×7日分=21L(2Lのペットボトル10本半)を用意しておきたいです。というのも、大きな災害が起きた場合、給水車が来て水が配られるようになるまでに、1週間くらいかかるかもしれないからです。
一般的に販売されている水の賞味期限は約2年
そこで、飲料水を備蓄する必要がありますが、このとき、気を付けたいのが賞味期限切れにならないようにすること。災害時用に5年、7年など長期保存できる水もありますが、一般的にスーパーやドラッグストアなどで売られている水の賞味期限は約2年。賞味期限切れにならないよう、ローリングストック(備蓄しているものを日常生活で消費して新しいものと入れ替える)を意識して行いましょう。
たとえば、2Lのペットボトルを30本備蓄しているご家庭であれば、1か月に1~2本ずつ、普段の生活の中で消費し、消費した分を買い足すというようにすると、賞味期限が2年でも期限を切らさずに、うまく回転させることができます。
家のさまざまな場所に分散して置いておく「分散備蓄」を「見える化」で!
また備蓄しておく場所は、家の作りや家族の人数などにもよるので、それぞれのご家庭で最適な場所は異なるかと思いますが、「家のさまざまな場所に、分散して置いておく」ということを意識するとよいでしょう。
というのも、どの部屋にいるときに被災するかわからないからです。そして、もしかするとその部屋に閉じ込められてしまったり、家具が倒れたり入口が塞がれたりして、水を置いてある部屋に取りに行かれなくなったりするかもしれません。2階の部屋から出られなくなってしまったとき、1階のキッチンにしか水が置いていなかったら、せっかく備蓄していた水も飲むことができませんよね。また、家屋に水が浸水してしまうような大雨災害のことを考えれば、2階にも水を準備しておくほうがよいでしょう。
ちなみにわが家では、キッチンやリビング、書斎、寝室、子ども部屋、玄関などに分散して置いています。水はかさばるので家族分のペットボトルを保管できるスペースを確保するのは難しいかと思います。そういう意味でも、分散備蓄は良い方法です。ちょっとした空きスペースに2–3本ずつ置いておくことができます。
本棚や机の下にいつも「見えるように」置いてあれば、いざというときに子ども一人でも水を飲むことができます。本棚の一番下に水を入れると重しにもなるのでおすすめです。
ローリングストックにも有効な「見える化」ストック
こうした「見える化」はローリングストックにも有効です。見える場所に置くこととあわせて、賞味期限も油性のマジックで大きく書いておくことをおすすめします。購入した月日の古いモノから消費していかれるように、通し番号を付けて順番に消費するようにするとさらによいですね。
災害時に困るのが【生活用水】が足りないこと。水道水をペットボトルに入れて備蓄しておきましょう
飲料水とは別に、必要になるのが「生活用水」です。生活用水というのは、手や顔を洗ったり、洗濯をしたり、トイレを流したりといった、飲用以外に用いる水のことを言います。普段、私たちは当たり前のようにこうした水を無自覚に使用していますが、実はこうした生活用水を使用する場面は、日常生活の中にたくさんあります。
生活用水を貯めておく方法のひとつが、お風呂の湯船に常に水がある状態にしておくということ。一般的なサイズの湯船に180-200L程度溜めておくことができます。「残り湯は汚いのでは」と心配の声もありますが、生活用水を確保することは大事です。
空気が入らないよう、ペットボトルの口のギリギリまで水を入れるのが〇
私は空のペットボトルに水道水をつめたものを、災害時の生活用水として備蓄しています。このとき、水の保存性をよくするには、空気が入らないよう口のギリギリまで水を入れておくのがコツです。
私はこれを、写真のように1階と2階のトイレの空いているスペースに、ストッキングの台紙や厚紙を間に挟んで置いています。これらは生活用水として置いているので、水の入れ替えは7年間一度もしていません。
携帯浄水器があれば「生活用水」が「飲料水」になります
これらの水は基本的には生活用水としての備蓄であり、飲用水は衛生面を考えると、やはり飲用水として売られているペットボトル入りの水を用意しておくのがよいと思います。ですが、万一、飲用水が不足してこうしたお風呂の水や、水道水をくんでおいた水を飲まなくてはならない状況になることもあるかもしれません。
そんなときのために携帯用の浄水器を用意しておくことをおすすめします。浄水器を使い自分のお風呂の残り湯を飲んでみたところ、無味無臭透明で飲めました。ただし入浴剤の入った残り湯はNGなど条件があるので、注意書きを確認してから使ってください。
給水所や給水ステーションの場所は日ごろから確認!
道路が寸断されると給水車が来れないかもしれません。災害時に飲料水が得られる「災害時給水拠点」は地域によって呼び方も標識も違うので、自分の地域の給水所の場所を確認しておきましょう。もし、遠い場所でしたら、どのように運ぶのかも考えておきましょう。
水を入れて持ち帰るための容器の用意も必須です
給水所に行くときや、給水車で水が配られるようになったときのために、水を入れて持ち帰るための容器を用意しておきましょう。水道局や自治体から給水車が派遣されてくる場合は、水を入れる袋が配られることもありますが、数に限りがあるので各自で用意して持参するようにしましょう。
給水容器がなければ、空いたペットボトルやきれいなゴミ袋(ポリ袋)に水を入れてリュックで運ぶという方法もありますが、あまりおすすめしません。ペットボトルの口は蛇口と同じ大きさで水が入れにくく時間がかかり、ゴミ袋(ポリ袋)は水を使う時に使いにくいからです。
使いやすい給水容器の条件
①水が入れやすい(口が大きい)
②運びやすい(密栓できるかも重要)~背負うタイプ、リュックに入れる、カートで運ぶ、キャスター付き
③水を使いやすい〜コック・蛇口付き、自立式
④衛生的〜清潔、洗える、水が空気にふれない
給水容器にはハードタイプとソフトタイプがあります
給水容器は、プラスチック製のハードタイプや、折り畳んで保管しておけるソフトタイプがあります。それぞれの特徴を知り、置き場所や自分の好みを考えて備えましょう。
ソフトタイプ
・〇場所をとらない。運びやすい。空気が入りにくい。
・×劣化して穴が空く場合も。安定しない。洗いにくい。乾かしにくい。
ハードタイプ
・〇口が大きいのは洗いやすい。コックがあると使いやすい。自立する~キャスター付きは運びやすい。ポリカーボネートは紫外線に強い。
・×保管場所が必要。運びにくい。材質によっては臭いが気になる。
1日にどれくらいの水を飲んでいますか?使っていますか?
「水を1日3リットルも飲んでないのになぜ必要なの?」と聞かれることがありますが、普段私たちは口から飲む飲料水の他に、ごはん、味噌汁、肉、魚、野菜など食べ物に含まれる水を多く摂取しています。被災して普段通りの食事を摂ることが出来なければ、その分の水を補わないと体は水分不足になってしまいます。
備蓄しているペットボトルの水だけで料理を作ってみてください。1回の料理でどれくらい必要かがわかると思います。料理に使う水、口をゆすぐ水なども含めて、飲料水は1日3リットル必要です。
一日の水が必要な場面を書き出してみましょう
また、生活用水はどれくらい必要でしょうか? 朝起きてから、寝るまで水が必要な場面を書き出してみると(顔や手を洗う、歯を磨く、トイレの水を流す、汚れたものを洗濯する…)、いかに生活用水がたくさん必要なのかが実感でき、水のおかげで快適に暮らしていることがわかるでしょう。
日本に住む私たちはありがたいことに、いつでも蛇口をひねれば水が出てくるという暮らしに慣れています。そのありがたさは断水を経験したことがある方は実感したかと思いますが、そうでないと「水が大事」ということは頭ではわかっていても、なかなか実感がわかないと思います。
水の災害への備えの大切さを「自分ごと」として捉えるきっかけにしてほしいと思います。
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教えてくれたのは
株式会社オフィスRM 代表取締役。管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食、SDGsに力を注ぎ、2014年に管理栄養士の会社を起業。レシピ開発を行い、防災食アドバイザーとして全国で400以上講演を行う。2024年「日本災害食学会2024年学術大会ポスター発表」1位受賞。著書は「SDGsクッキング」「もしもごはん」「防災教室」シリーズなど22冊。レトルトの女王、缶詰の達人とも呼ばれ、テレビ出演200以上、ラジオ出演280以上になる。新聞、雑誌、WEBサイトなどでも活躍中。
取材・構成/瀬戸由美子