「スタディクーポン」とは? 利用方法は? 子どもの学ぶチャンスを平等にする取り組み【最新教育事情を知る】

スタディクーポンについて、初めて聞いたという人もいるでしょう。子どもが学校に通う年齢なら、自分の家庭でも利用できるか気になるかもしれません。スタディクーポン制度の成り立ちや目的、実施している民間団体・自治体、具体的な利用条件を解説します。

スタディクーポンの仕組みと目的

スタディクーポンという言葉を耳にしたことはありますか?  まだあまり知られていないこの制度について、具体的なサービス内容やサポート制度、そしてその目的を詳しく紹介します。

学校外活動への経済援助

スタディクーポンは、学習塾や習い事専用の利用券のことです。「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン」が有志からの募金をもとに発行し、小中高生を対象に、無料で提供しています。

塾や習い事を含めた学校外活動は、主に親の経済事情によって行けるかどうかが決まり、進学や将来の進路にも大きな影響を与えます。

スタディクーポンの目的は、経済的に困難な家庭の子どもたちの学習機会を増やし、貧富による教育格差をなくすことです。

スタディクーポンのしくみ(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンのHPを参考にHugKumで作図)

出典:スタディクーポン利用希望の方へ – 子どもの貧困・教育格差の解決を支援する|CFC

アドバイザー制度でサポートを強化

チャンス・フォー・チルドレンは、子どもが自分の意志で自由に進路選択できるように、クーポン利用者へのサポートにも力を入れています。

ブラザー・シスターと呼ばれる大学生ボランティアが、子どもと定期的に面談し、クーポンの使い方や進路の悩みなどの相談に乗ります。面談は月に1回、30分~1時間程度で、オンラインあるいは電話によって行われます。

また必要に応じて、クーポンの登録団体や福祉機関などと連携した、コーディネーターのサポートも受けられます。

背景となっている子どもの教育格差

スタディクーポンの背景には、貧困による子どもの教育格差があります。日本の経済的困窮家庭はどの程度の収入レベルなのか、経済状態と教育環境の関係性も説明します。

日本の子どもは約9人に1人が貧困状態

ある国や地域において、一定の生活水準を満たせず、多くの人が当たり前のように利用しているサービスや生活物資にも困る経済状況を相対的貧困と呼びます。

日本の相対的貧困率は、世帯の手取り収入を世帯人数の平方根で割った所得で決まります。全体の中央に当たる所得の半分を貧困線といい、「所得が貧困線に満たない人の割合」が貧困率です。

厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、2021年の貧困線は127万円です。貧困状態にある17歳以下の子どもの割合は11.5%、つまり約9人に1人の子どもが相対的貧困状態にあります。

出典:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 p6|厚生労働省
国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問(問1)|厚生労働省

貧困の世代間連鎖という問題

内閣府の「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」によれば、親の経済状況は、子どもの教育環境に大きな影響を与えます。

調査では、経済的に困窮している家庭の子どもほど、学校以外の勉強をしない割合が高く、クラスの成績も低いことが分かっています。また、費用や家庭の事情を理由に部活動に参加せず、塾に行かない割合も高い結果となりました。

親の経済状況は学歴とも関係があり、親世代の貧困が子ども世代に連鎖している状況がうかがえます。

出典:令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書 p4、8|内閣府政策統括官

スタディクーポンの成り立ち

スタディクーポンはどのようにして始まったのでしょうか?  きっかけとなった出来事や、スタディクーポンに賛同し実施している自治体などを紹介します。

本格スタートは東北大震災の被災児童支援

「公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン」はリーマンショックと東日本大震災がきっかけで設立されました。

スタディクーポン事業は、2010年から兵庫県・大阪府・京都府などの関西地域で始まっていますが、「チャンス・フォー・チルドレン」が法人化したのは、2011年の東北大震災における被災児童支援からです。

それ以来、東北の被災地域の子どもたちを中心に、スタディクーポンを通じた学習援助を続けています。

「スタディクーポン・イニシアティブ」で制度化へ

2017年に、チャンス・フォー・チルドレンは、企業・NPO・行政の共同事業として「スタディクーポン・イニシアティブ」を立ち上げました。2023年6月時点でスタディクーポンを実施した自治体は以下の通りです。

●宮城県女川町
●茨城県つくば市
●千葉県:南房総市、千葉市
●東京都:渋谷区、文京区、国立市など
●新潟県長岡市
●三重県伊勢市
●大阪府:箕面市、大阪市
●福岡県福岡市
●佐賀県上峰町
●大分県大分市
●沖縄県:中城村、那覇市、豊見城市

一法人の援助規模は限られているため、スタディクーポンを制度化して社会全体の支援事業に広げようという取り組みです。

出典:政策提言・調査研究 – 子どもの貧困・教育格差の解決を支援する|CFC

低所得世帯への学習支援として一定の成果

渋谷区と提携した「渋谷スタディクーポン事業」(2018年度)では、支援効果の詳しい調査も行いました。調査の結果、スタディクーポン事業は、低所得者層の子どもや保護者への適切な支援につながったことが分かっています。

成功した原因の一つは、学校や福祉課と連携して情報を広め、事業への信頼度を高めたことです。さまざまな教育機関から自由に選択できる制度や、利用者への柔軟なサポートも高い評価を受けました。

約1年の実施期間中でも、利用した子どもの学習意欲や生活面が向上しています。

出典:渋谷スタディクーポン事業 最終評価報告書ダイジェスト版|スタディクーポン・イニシアティブ

スタディクーポンの利用方法・条件

スタディクーポンの目的は、経済的に特に困窮している子どもへの援助です。従って募集条件もかなり限定的になります。自分の家庭がクーポンを利用できるか、チェックしてみましょう。

「チャンス・フォー・チルドレン」の場合

チャンス・フォー・チルドレンによるスタディクーポン事業は、基本的に毎年1回の募集です。新しい募集は例年2月に公式ホームページで発表し、締め切りは3月ごろになります。2024年の募集は終了していますが、参考までに募集条件を紹介します。

【対象者】以下の全ての条件を満たす人

●申込時に以下の都府県の在住者である
岩手県・宮城県・福島県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・京都府・大阪府・兵庫県
●2024年4月1日時点で20歳未満の新中学3年生または新高校3年生である
●応募する子どもの保護者や世帯が1~3のどれかに当てはまっている
1.申請日時点で保護者が生活保護を受けている
2.保護者が2023年11月以降に児童扶養手当を受けている
3.世帯の2023年度住民税(所得割・均等割)が非課税である
●他の塾代助成・習い事助成制度と併用しない

 

【定員】75名

 

【金額】1人当たり30万円分の電子クーポン

詳しくは、チャンス・フォー・チルドレンの公式サイトを確認しましょう。

出典:2024年度 スタディクーポン利用者募集ページ|チャンス・フォー・チルドレン 

神奈川県綾瀬市の場合

神奈川県綾瀬市では、2024年8月~2025年3月末の期間中、スタディクーポンを配布します。事業委託先は、スタディクーポン事業の政策導入に力を入れてきた、チャンス・フォー・チルドレンです。利用条件は以下になります。

【対象者】
綾瀬市が行う「学習支援事業」の受講生以外の、就学援助を受けているまたは生活保護受給世帯の中学3年生

【金額】
利用が決まった月の翌月から年度末までの月数に、1万円を掛けた金額の電子ポイント

各自治体が導入するスタディクーポン事業については、自治体のホームページを参照しましょう。

出典:綾瀬市スタディクーポン事業|綾瀬市

スタディクーポンの課題

設立時に比べて、スタディクーポンに取り組む自治体は増え、社会全体でも子どもの学習機会を保障しようという動きは強くなっています。今後の課題である、福祉・教育機関との連携や、サービスの質について見ていきましょう。

福祉・教育機関との連携が必要

スタディクーポンを利用する子どもには、経済的な困窮だけでなく、親の病気・障害やDV問題など、さまざまな家庭背景があります。

このことから、子どもの学習環境を守るためには、経済援助以外にも、家庭の事情に合わせた家族全体への支援が必要です。現在、チャンス・フォー・チルドレンでは、利用者の家庭と教育団体、福祉機関をつなぐコーディネーターのサポートを受けられます。

チャンス・フォー・チルドレン以外のスタディクーポン制度でも、自治体の教育・福祉部門との連携や、そのためのコーディネート機能、バックアップ体制の確立が課題です。

実施規模の拡大だけでなく満足度を上げる仕組みづくり

スタディクーポンの課題には、サービスの拡大だけでなく、質の向上もあります。ヒントの一つは、チャンス・フォー・チルドレンのブラザー・シスター制度です。大学生のサポーターが1年を通して相談役になることで、子どもと信頼関係を築き、年齢の近いロールモデルを提供します。

今後は、ブラザー・シスター制度を含め、全ての子どもが主体的に進路選択できるように、仕組みを強化していく必要があります。

スタディクーポンで教育格差の解消へ

スタディクーポンは、あまり社会で重要視されてこなかった、子どもの体験機会を支援するサービスです。貧困問題は教育格差と深い関係があります。特に塾や習い事などの学校外学習は、親の経済状況に左右され、将来は子どもの職業選択や経済状況にも影響します。

スタディクーポンの取り組みを通して、このような教育格差と貧困の世代間連鎖を理解し、親子で話し合うきっかけにするのもよいかもしれません。

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構成・文/HugKum編集部

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