※ここからは『こども目標達成教室〜夢をかなえるために何が必要なのかがわかる本』(カンゼン)の一部から引用・再構成しています。
目次
「やる気」を引き出す、効果的なよい目標を立てる
心理学によると、「よい」目標を持つことにはとても素敵な効果があることがたくさんの実証研究によって明らかにされています。
よい成果が得られやすくなるというだけではありません。毎日を充実して、わくわく過ごすことができるようになったり、失敗や挫折のダメージから心を守りやすくなったり、尊敬しあえる仲間と出会えるようになったりするかもしれません。
ただし、ただ目標を立てればよいのではありません。目標には「効果的なよいもの」と「あまり効果的とはいえないもの」があることが心理学の研究によって明らかにされています。
あなた自身の経験でも、きっとそうではないでしょうか。すごくやる気になった目標もあれば、ぜんぜん気が進まなくて、辛い目標もあったのではないでしょうか。
なぜ、そうだったのかを深掘りできれば、あなたはやる気の上がる目標を立てて、それをうまく追い求め、よい成果や成長、充実感を得ることができるようになると考えられます。
モチベーションを上げるには具体的な目標を立てる
しかしいきなり「目標を立ててみよう」と言われても、どんな目標を立てればいいのか悩んでしまう人もいるでしょう。そんなときはモチベーションを高める目標を設定することを意識してみましょう。
アメリカの心理学者エドウィン・ロック先生とゲイリー・レイサム先生が提唱したモチベーションに関する「目標設定理論」というものがあります。その理論では「明確で困難な目標であるほど、パフォーマンスが高くなる」とされています。
つまり「ベストを尽くせ」のようなあいまいな目標よりも「1日2時間勉強をする」「1日1万歩ウォーキングする」のような具体的な目標のほうが、パフォーマンスが高くなると考えられています。さらに目標が困難であるほど、乗り越えるべきハードルが高くなり、それを乗り越えるための努力を引き出しやすくなります。
効果をアップさせるためには「自分にとって重要で、できると思えるものにする」ことが有効です。目標を達成した状態が自分にとって重要なものであれば本気で取り組みやすくなりますし、目標が自分ならできると思えるものであれば、モチベーションは上がり、粘り強く努力できます。
またフィードバックがあると、目標に向かう途中で改善点を見つけて修正できるので取り組みがもっと効果的になります。
ゴールが見えないあいまいな目標はNG
「成績を上げたい」や、「やせたい」「速く走れるようになりたい」といった目標。じつはこれらは達成が難しい目標です。なぜなら、どうなったら目標を達成したことになるのかがわかりづらいからです。
たとえば「成績を上げたい」という目標を立てた場合、今までテストで60点しか取れなかったのを70点取れるようになったら目標達成なのか、それとも100点取れるようになったら目標達成なのかはっきりしません。ゴールが見えない状態で勉強を続けていくことになるのです。
具体的な目標なら達成できたかどうかがはっきりします。テストで90点取ることが目標なら、90点取るためにはどんな勉強をすればいいのか、テスト中どんなことに気をつければいいのかなど、目標に向かって何をすればいいのかという計画が立てやすくなります。
具体的な目標づくりに役立つSMART(スマート)の法則とは?
具体的な目標を立てようとしてもどんな目標なら具体的な目標になるのか迷ってしまう人もいるでしょう。そんなときに役立つのは「SMARTの法則」です。
・Spwcific(スペシフィック・具体的に)……明確で具体的な表現や言葉で目標にする
・Measurable(メジャラブル・測定可能な)……測定しやすい目標にする
・Achievable(アチーバブル・達成可能な)……がんばれば達成可能な目標にする
・Relevant(レレヴァント・関連性のある)……なんのための目標なのか
・Time-bound(タイム バウンド・期限がある)……期限を設定した目標
この5つの条件をそろえると具体的な目標になり、目指すべき目標がはっきりします。目標達成に向けての行動も具体的になるので、目標達成の成功率もぐっとアップします。
たとえば「やせる!」という目標ではなく、「夏に向けて8月までに3kgやせる!」という目標なら、上の5つの条件を満たしている目標だといえます。
一方、「1か月で10kgやせる」のような目標は、がんばれば達成可能な目標ではなく、なんのための目標なのかもはっきりしていないので条件をそろえているとは言えません。努力すれば達成できるラインを考えながら目標を立ててみましょう。
大きな目標から小さな目標を考える「ブレイクダウン」
目標を立てて、いざ行動するぞというときに、「いったい何をすれば目標を達成できるんだ?」と悩んでしまうことがあります。
そんなときに役立つのが「ブレイクダウン」という考え方です。大きな目標を小さな目標に分けて考えることです。
たとえば、「サッカークラブのレギュラーになりたい」という目標があったとします。レギュラーになるためには、どんなことが必要でしょうか。「サッカーがうまくなる」や「監督に注目される」などが思いつきますよね。
サッカーがうまくなるには、シュートやパス、リフティングなどの練習が必要です。監督に注目されるには、練習試合でだれよりもボールにさわるといいかもしれません。このように考えていくとどんな行動をすればいいのかが明確になってきます。
ブレイクダウンをするときのコツは、小目標をつくるときは「目標の大切さ」と「できる見込み」を感じられる目標にすることです。
この2つを意識することでやる気が変わります。リフティングが1回もできないのに、来月までに100回できるようになるというのは実現可能性が低いので、まずは10回できるようになるなど実現性がある小目標をつくりましょう。
目標に対してやる気が起きないときはどうすればいい?
目標を立ててみたはいいものの、なんだかやる気が起きなくて手をつけられないときは、あなたが目標に対してやる意味を感じていなかったり、自分にはできないと思っているのかもしれません。
やる気についての考え方のひとつに「期待価値理論」というものがあります。これは、下の計算式のように、「達成によって得られるもの」と「できそうだと思える度合い」をかけ合わせることによってやる気の度合いが変わってくるという理論です。
たとえば、「読書感想文や自由研究、ドリルなどの夏休みの宿題をすべて3日かで終わらせる」という目標を立てたとします。夏休みの宿題をやること自体は「達成によって得られるもの」がある目標ですが、たった3日で宿題を終わらせるのは「できそう」とは思えないのでやる気は起きないでしょう。
同じようにどれだけ達成できそうな目標でも、やる意味を感じられない目標はやる気がわいてきません。
やる意味やできる可能性の感じ方は人によって異なります。他人から見ればやる意味のない目標でも本人にとってやる意味がしっかりある目標ならやる気は保てます。
自分の目標について、その魅力や実現性についてじっくり考えてみましょう。
※ここまでは『こども目標達成教室〜夢をかなえるために何が必要なのかがわかる本』(カンゼン)の一部から引用・再構成しています。
『こども目標達成教室〜夢をかなえるために何が必要なのかがわかる本』(カンゼン)
目標達成力は、将来の自分を想像し、なりたい自分になるために必要不可欠な力です。この記事でご紹介した本書は、目標を達成するための「適切な目標を設計し、計画を立て、状況に応じて修正しながら実行していく力」について、わかりやすい図表やイラストとともに解説しています。
メジャーリーガーの大谷翔平選手は、高校1年生の時に目標達成シート(マンダラチャート)を作り、自己管理をしながら目標に向かっていきました。同書では目標を細分化するその「マンダラチャート」についても具体的に説明しています。
こちらの記事もおすすめ
竹橋洋毅(たけはし・ひろき)
奈良女子大学文学部人間科学科准教授。1978 年愛知県生まれ。名古屋大学文学部卒業。名古屋大学大学院環境学研究科を修了。博士(心理学)。専門は社会心理学と教育心理学で、モチベーション(やる気)の心理について研究・実践している。著書に『モチベーションの社会心理学』(かもがわ出版)、『非認知能力 : 概念・測定と教育の可能性』(北大路書房。分担執筆)などがある。
構成/国松薫