「百ます計算」などの「隂山メソッド」が多くの学校・家庭で成果をあげている隂山英男先生が、子どもの学力を家で伸ばす方法について教えてくださるコーナーです。今回のテーマは、家庭学習についてです。
「15分×学年数」が適当な家庭学習時間
子どもを伸ばすには「正しい生活習慣」がです。そしてもう一つ大切なのは「脳を鍛える効率的な学習方法」を実践することです。
これまで私は、子どもに適当な家庭学習時間は「15分×学年数」であると言ってきました。1年生なら15分、6年生なら90分ということになります。多くの親御さんは、学習時間が長いほうが学力が上がるとお考えかもしれません。しかし以前に実施した子ども達の学習時間と成績のデータを見直していて、私はあることに気付きました。それは学習時間が増えることが、必ずしも子ども達の成績向上につながっていないということです。高学年では2時間程度をピークに3時間、4時間…と学習時間が増えるにつれ、子ども達の成績は逆に落ちていたのです。
私の師匠である*岸本裕史先生も、学習時間の目安を唱える一方で「大切なことは集中すること」ともおっしゃっていました。つまり集中力を最大限に発揮した状態での短時間学習こそが、子どもの脳を鍛えるということに私は気づいたのです。
そのためには「学習を通して集中を身につける」ことを意識する必要があります。例えば、たし算の計算プリントを1枚あたえ、指を使いながら30分以上かけて1枚を解き終える。これは集中した学習とはいえません。たし算の計算方法が身についておらず、集中どころではないからです。
大切なのは、机に向かう長さではなく、勉強に集中する時間
しかしこのような子でも、1枚のプリントを何枚もコピーし、同じプリントを毎日続け、タイムを計り続けると、だんだん時間は短縮されます。同じ問題を何度もするのですから当然です。「昨日より速くできたよ。すごいね!」といった親の励ましに支えられ、1週間も続ければ速く解くことが心地よくなってきます。このとき、ようやく集中が芽生えます。やがて指を使っていると速くできないことに気づき、おのずと脳で解くことを始め、1問10秒、5秒、やがて1問2~3秒というレベルに達します。集中することの心地よさが、さらなる集中を生み、脳が活発に働いた結果です。「同じプリントを何度もくり返す」だけですから、簡単にできます。
高学年まで続けられる勉強の習慣を身に付けるには
学習を通して集中を身につけた子の30分と、そうでない子の2時間。どちらが効率的かは言うまでもありません。何より子どもが集中を身につけると、親が楽です。「宿題は?」「もうやったよ」「明日の時間割…」「合わせた」。このように集中を身につけた子は、勉強だけでなく、生活のあらゆることをてきぱき自分からこなすようになるのです!
高学年になって「勉強しなさい!」と毎日言い続けるのが嫌なら、ぜひ今、学習を通して集中を身につける練習に取り組んでほしいと思います。
*岸本裕史…神戸市の小学校で2000人以上の小学生の担任を務める一方、教師のための研究会「学力研」を主宰し、「百ます計算」をはじめとするさまざまな教材や指導法の研究・普及に努めた。著書に『見える学力、見えない学力』等多数。2006年没
記事監修
1958年兵庫県生まれ。1980年、岡山大学法学部卒業後、教職の道へ。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣の改善に取り組み、子ども達の学力を驚異的に向上させた。その指導法である「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「陰山メソッド」を教材かした『徹底反復シリーズ』は、総計770万部の大ベストセラーとなっている。現在、YouTube『陰山英男公式チャンネル』で授業や講演を公開して注目を集めている。
編集協力/小倉宏一(ブックマーク) 撮影/奥田珠貴 出典/『小学一年生』