申請・振込時期や申請方法に必要書類まで!「出産育児一時金」ガイド

出産にはお金が掛かります。病気やけがの治療と同じく病院でお世話になる人も多いですが、出産は健康保険が適用されませんから、費用の全額を自分で負担しなければいけません。その経済的な負担を軽くするための制度が、出産育児一時金制度になります。

そこで今回は2児の父親であり、妻を通じて出産育児一時金制度を利用した経験のある筆者が、同制度の基本的な情報についてまとめてみました。

 

法律には何て書いてある!? 出産育児一時金とは

出産育児一時金とは、冒頭でも触れたように、出産時の経済的な負担を軽くするための制度になります。生命保険文化センターの計算によれば、出産の費用は全国平均で42万円近くかかっているそうで、物価水準の高い東京都の場合は、正常分べんでも609,189円もの費用が平均して発生しているとのことです。

筆者の場合は富山県に住んでいるため、それほどは掛かりませんでしたが、全国平均と東京都平均の間ぐらいの出産費用が掛かりました。そうした妊産婦と家族にのしかかる経済的な負担を軽くしてくれる制度が、出産育児一時金なのですね。

〇出産育児一時金の支給金額は42万円

出産育児一時金は一体、幾らもらえるのでしょうか? 歴史的に見て、その金額は変わってきています。現状では法律を見ると、

<被保険者が出産したときは、出産育児一時金として、政令で定める金額を支給する>(健康保険法より引用)

と書かれています。引用文には、「政令で定める金額」と書かれていますので、あらためて健康保険法施行令をチェックしてみると、

<金額は、四十万四千円とする>(健康保険法施行令より引用)

とあります。この健康保険施行令は平成29年7月28日から適用されていますから、現状では40万4千円が支給額なのですね。

「あれ、出産育児一時金って42万円じゃなかったっけ?」

と感じる方、鋭いです。確かに一般的な妊産婦が受け取る出産育児一時金は42万円ですよね。「友だちも42万円だと言っていた」という人も居るかもしれませんが、この42万円の中には、万が一の際に備えた保険金(補償金)への掛け金(1万6千円)が含まれています。厳密に言えば、この1万6千円は出産育児一時金とは異なるのですね。

万が一のときとは、分娩べん時に子どもの脳に、重度のまひが起きた場合を想定しています。この補償金を受け取るための掛け金が、出産時に妊産婦に請求されます。その掛け金分も40万4千円に上乗せされて、合計で42万円になっているのですね。

まとめ

出産育児一時金の金額は一般的に42万円。

 

出産育児一時金と出産手当金は違うの!?

出産育児一時金は一般的に、42万円が妊産婦に支給されると言いました。似たような言葉として、「出産手当金」という言葉もありますが、両者は違うのでしょうか? 結論から言えば、違います。

出産育児一時金は、出産費用の負担を軽くする目的で、原則として全ての妊産婦に支払われるお金になります。しかし出産手当金は、全ての妊産婦に支払われるわけではありません。出産を控えて仕事を休職する労働者の女性に対して、本来なら受け取れたはずの給料を補てんする目的で、支払われるお金になります。

まとめ

・出産育児一時金→全ての妊産婦に、出産費用として出産時に支給される。

・出産手当金→仕事のある妊産婦に対して、産前産後の休職で途絶える給料の代わりとして支給される。

 

出産育児一時金は退職してももらえる?

出産育児一時金と出産手当金の違いを述べました。出産手当金に関しては、労働者に支給されるお金ですから、出産を迎えるにあたって女性が退職をしてしまうと(幾つかの条件を満たさない限り)受け取れなくなってしまいます。しかし、出産育児一時金に関しては、原則的に全ての妊産婦が受け取れるお金になります。退職の有無、仕事の有無は無関係なのですね。

そもそも出産育児一時金は、

<被保険者やその被扶養者等が出産した後、加入する保険者に支給申請すること>(厚生労働省「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」等に関するQ&Aより引用)

で、支払われるお金とあります。保険者とは各種の保険を運営している組織で、日本では建前として国民皆保険制度があります。会社を退職しても国民健康保険に切り替えられますし、一定の条件を満たせば、退職後も勤務先で入っていた健康保険に、2年間は継続して加入ができます(任意継続)。基本的には誰でも受け取りはできますので、安心して出産を迎えてください。

まとめ

出産育児一時金は、仕事の有無、退職の有無に関係なくもらえる。

 

出産育児一時金はいつから(いつまで)申請すれば、いつ振り込まれる?

出産育児一時金は、国民皆保険制度のある日本では、原則として全ての妊産婦が受け取れると述べました。では、このお金はいつ申請すれば、受け取れるのでしょうか。

〇出産育児一時金はいつから(いつまで)に申請する?

出産前後は心身に大きな変化が生じる時期。出産前であっても出産準備などで、妊産婦としては大変な毎日が続くと思います。その中で出産育児一時金の申請に面倒な手続きがあるとすれば、大変ですよね……。

しかし、関連記事の

出産育児一時金「直接支払制度」手続きガイド!合意文書や書き方も解説

でも述べているように、出産育児一時金には直接支払制度という便利な制度があります。

<直接支払制度について被保険者等又はその被扶養者に十分に説明>(「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」実施要綱より引用)

する決まりがありますので、出産のために病院などの分べん施設に通い始めると、病院などの側から早い段階で直接支払制度に関する説明があるはずです。制度を利用する場合は、制度の利用に関する合意文書に出産前にサインするだけで手続きは全て完了します。

〇出産一時金直接支払制度を利用しない場合の申請時期と申請期限

直接支払制度を利用しない場合は、本人が保険事業の運営者に申請をする必要があります。申請時期と期限は出産日の翌日から2年以内で、申請書と共に、

・保険証

・印鑑

・通帳など振込口座が分かるもの

・出産を証明する書類

・医療機関など分べん機関と合意した文書の写し(直接支払制度を利用しないと記載されている文書)

・医療機関など分べん機関が交付する出産費用の明細書

を提出する必要があります。

〇出産育児一時金はいつ振り込まれる

出産育児一時金の直接支払制度を利用する場合、妊産婦を飛び越えて、妊産婦の加盟する保険事業の運営主体から、病院などの分べん機関が直接お金が振り込まれます。そのため、妊産婦への振り込みはありませんが、妊産婦本人が退院時に42万円を立て替えて支払う必要はなくなります。

出産費用が支給額の42万円を下回った場合は、その差額分を請求できます。逆に出産費用が支給額を上回る場合は、退院時の生産で不足分を妊産婦が自分で支払う必要があります。

〇直接支払制度を利用しない場合

直接支払制度を利用しない場合は、申請してから1~2か月後に、指定の金融機関の口座に振り込まれます。

まとめ

出産前に直接支払制度の利用に同意すると、出産育児一時金は直接、保険者から分べん機関に支払われる。

 

出産育児一時金支給を自分で申請する方法と申請書の書き方

出産育児一時金を自分で申請し、支給してもらうためには

・出産育児一時金支給申請書

が必要になります。

〇申請の仕方は!? 入手場所は!? 出産育児一時金支給申請書の書き方と記入例

例えば筆者は男性ですが、仮に女性だった場合、ライターとして富山県富山市に暮らし、国民健康保険に加入していますので、自治体が運営する国民健康保険用の出産育児一時金支給申請書を入手し、提出する必要があります。

(富山市のホームページ上に掲載された富山市国民健康保険出産育児一時金支給申請書の画像キャプションから作成)

上に掲載した画像からも分かるように、

・被保険者証記号番号

・申請者の住所、氏名、連絡先

・出産育児一時金の金額

・分べん者の名前

・生まれてきた子どもの名前と生年月日

・分べんの状態

・分べんを行った医師や助産師の名前と住所

・振込指定口座

などを記載する必要があります。これらの情報を記載したら、上述の必要書類を添えて提出します。

〇提出先は会社でいいの!? 出産育児一時金支給申請書の提出場所について

では、自分で「出産一時金」を申請する場合、申請書と必要書類はどこに提出すればいいのでしょうか。どの種類の健康保険によって申請書を受け取る、あるいは提出する場所は変わってきます。

国民健康保険に加入している場合は自治体に、会社の健康保険に加入している(扶養に入っている)場合は、会社の担当者に相談して申請書をもらい、会社の担当者に送付してください。

まとめ

直接支払制度を利用しない場合、自分が加入する保険の種類に合わせて、出産育児一時金支給申請書を入手し、必要書類を添えて、提出する。

 

 

出産育児一時金直接支払制度って何?

 

出産育児一時金の直接支払制度を利用する場合と、利用しない場合についての申請方法を述べてきましたが、やはり直接支払制度は便利です。そこでもう少し直接支払制度について、詳しく見ていきましょう。

〇合意書を出すだけ!? 出産育児一時金直接支払制度の手続きと書き方

関連記事「出産育児一時金「直接支払制度」手続きガイド!合意文書や書き方も解説」で細かく述べている通り、同制度は妊産婦を飛び越えて、医療機関などに保険者が出産育児一時金を直接支払ってくれる仕組みになっています。

その妊産婦を飛び越えたやりとりに関して、「妊産婦本人に代わって医療機関などの分べん機関が代理で行ってもいいか」と確認するための合意文書が存在します。合意文書と言われると、何か難しいフォーマットがあるように思えてしまいますが、極めてシンプルな内容で、

・日付

・保険者名(各種保険事業を運営する運営主体)

・被保険者の氏名

・妊産婦の氏名

を記載するだけ。妊産婦は妊婦健診で病院などに定期的に訪れるようになると、出産前に合意文書について説明を受けます。利用を希望する場合は、フォーマットに従って必要事項を記入してください。

〇受取代理制度用における出産育児一時金支給申請書について

ただ、出産育児一時金の直接支払制度は、妊産婦には便利ですが、分娩機関の側からすると手間が増えるなど負担が大きくなります。そこで、小規模な分べん施設を中心に、制度を導入していないケースもありますので、妊産婦としては要注意です。しかし、仮に直接支払制度を導入していなくても、受取代理制度という類似の制度を導入している可能性が高いです。受取代理制度とは、

<年間の平均分娩取扱件数が100件以下の診療所・助産所や、収入に占める正常分娩にかかる収入割合が50%以上の診療所・助産所を目安>(厚生労働省のホームページより引用)

にして導入される制度で、妊産婦の側からすれば少し手間が増えますが、直接支払制度と同じく、退院時の精算において自分で42万円を一時的に立て替える必要がなくなります。流れとしては、

1. 妊産婦が医療機関などに、受取代理申請書をもらう

2. 妊産婦が自分の加盟する保険の保険者に対して、申請書を提出する

3. 保険者が医療機関などに対して、受取代理申請の受け取り通知書を送る

4. 妊産婦が医療機関などで出産する

5. 医療機関が保険者に対して、出産費用請求書、出産事実証明書などを送付する

6. 保険者が医療機関に対して、出産育児一時金を支払う

7. 出産育児一時金では足りなかった場合、妊産婦が医療機関に対して、不足分を追加で支払う

といった形になります。厚生労働省からは、受取代理制度を導入している機関の一覧表が出ています。「私が出産をお願いしようとしている場所は小規模だけれど、どんな制度を導入しているのかしら」と疑問に感じたら、チェックしてみてください。

まとめ

出産育児一時金の受け取りにおいては、直接支払制度、受取代理制度を使うと、分べん施設に直接お金が渡るようになる。制度を利用しない場合は、出産後に自分で申請して自分で出産育児一時金を受け取る。

 

出産育児一時金付加金って何!?

出産育児一時金は42万円が基本ですが、妊産婦が加入している保険の種類によっては、付加金という追加のお金が支払われるケースがあります。例えば出版業界で働く女性で出版健康保険組合に加入している場合、42万円とは別に給料の半額+6,000円が付加金として支給されます。仮に付加金が175,000円だとしたら、合計で59万5千円が出産を機に受け取れます。

〇出産育児一時金(付加金)請求書の書き方は?

付加金の有無、さらに付加金の金額については妊産婦が加入する保険によって異なります。付加金がある場合、請求方法に関しても、妊産婦が加入する保険によって異なります。

ただ基本的に、出産育児一時金の直接支払制度を利用した場合、付加金の部分だけ保険の運営者に請求書の提出が必要になると考えたいです。各保険者が用意する出産育児一時金(付加金)請求書のフォーマットに沿って、場合によっては勤務先経由で、請求書を保険の運営者に提出してください。

まとめ

加入している保険によって、出産育児一時金に付加金がプラスされるケースがある。

 

以上、ちょっと複雑な出産育児一時金について解説しましたが、いかがでしたでしょうか? 「育休手当」とは違って、基本的に全ての妊産婦が出産時に受け取れるお金だと紹介してきました。誰が何のために妊産婦に支払ってくれるお金なのかを押さえるだけでも、理解は一気に進むはず。出産前に繰り返しチェックしてみてくださいね。

(文・坂本正敬)

 

【参考】

健康保険法 – e-Gov

健康保険法施行令 – e-Gov

※ 出産手当金、出産一時金とは。2つの違いは? – 常陽銀行

出産育児一時金等の受取代理制度について – 厚生労働省

「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」実施要綱 – 厚生労働省

産科医療補償制度について – 厚生労働省

産科医療補償制度について – 日本医療機能評価機構

国民健康保険法 – e-Gov

出産するとき・したとき – 出版健康保険組合

編集部おすすめ

関連記事