出産には当然ですが、お金が掛かります。各都道府県によって物価水準も異なるため金額は変わりますが、ある調査によれば(平成24年度のデータ)、全国平均が416,727円となっています。出産を経験していない未来のパパ、ママからすれば、「えー!40万もするの?」と思ってしまいますよね。
しかし、ご安心を。実はその高額な出産費用を支援してくれる、出産育児一時金制度があります。そこで今回は2児の父親でもある筆者が、出産育児一時金について、さらには出産育児一時金の「直接支払制度」について、厚生労働省などの公的な情報を基に、まとめてみたいと思います。
目次
そもそも出産育児一時金とはどんなお金のこと?
出産にかかる費用負担軽減のための制度
冒頭でも紹介した通り、出産にはお金がかかります。生命保険文化センターの計算によれば、全国平均で約42万円。厚生労働省の平成27年度の情報を見ると、物価水準の高い東京都の場合は、病院、診療所、助産所での出産費用の平均値が、正常分娩であっても609,189円も掛かっているとのことです。
子どもを一人世の中に誕生させるために約61万円も必要となれば、どれだけ子どもが宝物で、何よりも尊い存在だと分かっていても、経済的な不安が頭をよぎりますよね……。そんな未来のパパとママの悩みである
<出産に要する費用の経済的負担の軽減を図るため>(厚生労働省「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」等に関するQ&Aより引用)
に設けられた制度が、出産育児一時金になります。金額については歴史的に変わってきた経緯があり、全国の産科医療機関の出産費用を踏まえた上で調整されているそうですが、執筆時点の2018年現在では、42万円(出産育児一時金40万4千円+分娩で発症リスクを伴う重度脳性まひに対する保険金(補償金)への掛け金1万6千円)
が支給される決まりとなっています。
出産育児一時金は誰でももらえるの?
執筆時点で42万円の出産育児一時金が支払われると言いましたが、このお金は子どもを出産するママであれば、誰でも受け取れるのでしょうか? 結論から言えば、原則的に日本に暮らす日本人ママであれば、誰もが受給できるお金になります。出産育児一時金は、
<被保険者やその被扶養者等が出産した後、加入する保険者に支給申請すること>(厚生労働省「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」等に関するQ&Aより引用)
で、支払われるお金です。引用文の保険者とは、
<健康保険事業の運営主体のこと>(全国健康保険協会のホームページより引用)
を意味しています。保険料を被保険者から徴収する、各種保険事業の運営主体ですね。
国民皆保険制度の日本では、基本的に日本に暮らす日本人ママであれば、出産育児一時金がもらえる
日本人は国民皆保険制度があり、原則的に誰もが国民健康保険など何らかの保険制度に加盟しているか、加盟している人に扶養されているはず。その意味で、出産育児一時金は日本に暮らす日本人ママであれば、誰でも出産の際に受け取れる(建前になっている)お金だと分かります。
一時金はいつもらえるの? 出産育児一時金「直接支払制度」とは
では、その42万円は、子どもを産むとすると、いつもらえるのでしょうか? 先ほどの引用文では、「被保険者やその被扶養者等が出産した後」とありました。出産時には出産費用だけでなく、各種の出費が重なります。出産後に42万円の支給があるのであれば、とりあえず出産時に自分で数十万円の現金をそろえなければいけません。「それは、ちょっと大変……」という人も少なくないのでは?
そうした妊産婦と家族の経済的な負担感を減らそうという目的で設けられている制度が、出産育児一時金の「直接支払制度」になります。長めの引用になりますが、
<医療機関等において被保険者等が申請及び受取について代理契約を締結する手続のみで、窓口で出産費用をできるだけ現金等で支払わなくても済むようになるもの>(厚生労働省「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」等に関するQ&Aより引用)
とあるように、妊産婦が出産後に病院、診療所、助産所などの窓口で支払わなければいけない出産費用の総額から、42万円分があらかじめ差し引かれる制度になります。
出産に50万円かかっても、支払い金額は8万円で済む
出産育児一時金の42万円が妊産婦を飛び越えて、各種の保険事業を運営する運営者から病院、診療所、助産所に直接渡るため、例えば出産費用に総額で50万円が掛かったとしても、妊産婦本人は差額の8万円だけを退院時に窓口で支払えば済むようになります。
50万円を現金で支払って、その後で出産育児一時金を42万円もらうよりも、手出しが8万円で済む方が、経済的な負担が軽く感じませんか?
超簡単!出産育児一時金「直接支払制度」の手続きは用紙1枚で完結
出産育児一時金の直接支払制度を利用する場合、どのような手続きが待っているのでしょうか? 手続き自体が複雑で大変だとなると、心身ともに消耗する出産時に、大きな負担となってしまいますよね。その点に関しては安心で、直接支払制度は手続きが極めて簡単に設計されています。
保険証の提出と、合意書へのサインで手続きは完了
類似の制度として、小規模な医療施設で復活した受取代理制度の場合は、少し手続きが面倒ですが、大きな病院で一般的となっている「直接支払制度」については、被保険者証(保険証)の提出と一緒に、医療機関から手渡される出産育児一時金直接支払制度に関する合意書にサインをするだけで、全てが完了します。
出産育児一時金「直接支払制度」に必要な合意文書とは?
(合意文書のサンプル。厚生労働省「出産育児一時金の直接支払制度に関してよくあるお問い合わせ(Q&A)」のページをキャプチャーして作成)
出産育児一時金の直接支払制度を利用する際には、合意文書にサインが必要だと言いました。では、合意文書とはどういった内容の書類なのでしょうか? 全国で統一した文書があるわけではなく、医療機関などによって書面の文言は変わってくるようですが、サンプルとして掲載した上の文書のように、基本的に書かれている内容は共通しています。
・妊産婦に代わって病院、診療所、助産所などが出産育児一時金を請求する
・代理請求にあたって妊産婦に手数料は発生しない
・出産費用が42万円を超えたときは不足額を病院、診療所、助産所の窓口で支払ってもらう
・出産費用が42万円未満で収まった場合、妊産婦は差額を請求できる
・帝王切開になった場合、出産育児一時金を帝王切開術の費用(3割負担)の支払いにも充当する
こういった内容に同意した上で直接支払制度を利用するか、利用しないかが、妊産婦に問われます。もちろん制度を利用せずに、全額自分で出産費用を立て替え、その後に出産育児一時金の42万円を現金で受け取るといった方法も可能です。
出産育児一時金「直接支払制度」の利用で提出が必要な書類(合意書)の書き方
合意書に記載されている内容に同意の上、制度を利用すると妊産婦が希望した場合、
・日付
・保険者名(各種保険事業を運営する運営主体)
・被保険者の氏名
・妊産婦の氏名
などを合意書に直筆で記入する必要があります。保険者とは、国民健康保険など各種の保険事業を運営する運営者を意味するのでした。被保険者が妊産婦本人と異なる場合は、被保険者(扶養者や世帯主など)に直筆で記入をお願いします。妊産婦の氏名については、出産予定の本人が直筆で記入してください。
被保険者の直筆サインがもらえない場合
ちなみに、夫の扶養に入っているのにもかかわらず、
「里帰り出産だから、夫の直筆のサインがもらえない」
という場合はどうすればいいのでしょうか? 公的な情報には、
<被保険者である夫の署名を貰うことが直ちには困難であるときは、妻が夫を代理して署名を行うことも差し支えありません。>(厚生労働省「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」等に関するQ&Aより引用)
とあります。できれば保険に加入する本人のサインをもらいたいですが、どうしても困難な場合は、妊産婦が代理してサインしても構わないのですね。
出産育児一時金「直接支払制度」の注意点
出産育児一時金の直接支払制度は、日本に住む日本人であれば、原則的に誰でも利用できる制度だと紹介しました。しかし、注意点もあります。先に軽く触れましたが、出産を予定している医療施設が小規模な場合、施設が出産育児一時金の直接支払制度を導入していないケースも考えられます。
大きな医療施設であれば問題ないのですが、小さい医療施設で出産を予定している場合は、あらかじめ制度を利用できるかどうか確認する必要があります。
出産育児一時金の直接支払制度が利用できなくても、類似の制度として、「受取代理制度」が利用できる可能性があります。この制度は手続きの面で妊産婦の負担が少し大きくなりますが、出産費用の支払いのためにまとまった金額をあらかじめ用意する必要がなくなります。直接支払制度が導入されていない場所では、利用を検討したいです。
以上、出産育児一時金直接支払制度についてまとめましたが、いかがでしたか? 2児の父親である筆者の家のケースでは、出産費用が2回とも42万円では収まらず、それぞれ10万円ほど不足額を現金で払う必要がありました。
それでも全額を現金で用意する場合と比べて、負担感は少ないように感じました。利用の制限や、複雑な手続きもありませんので、賢く制度を利用したいですね。
(文・坂本正敬)


【参考】
※ 平成23年4月以降の出産育児一時金制度について – 厚生労働省
※ 出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」等に関するQ&A – 厚生労働省
※ 出産育児一時金の支給額・支払方法について – 厚生労働省
※ 出産にかかる費用はどれくらい? – 生命保険文化センター