『Love Letter』の岩井俊二監督最新作『ラストレター』が、1月17日(金)より公開されました。本作は、ネット時代に敢えて手紙というアナログなツールを使ってのコミュニケーションが描かれるチャレンジングな1作ですが、改めて“岩井俊二クオリティー”にうなる珠玉の純愛映画に仕上がっています。また、宮城県仙台出身の岩井監督が、東日本大震災の被災地である故郷でロケをした映画でもあります。
主人公・岸辺野裕里役を演じるのは、『四月物語』(98)でも主演を務めた松たか子。松さん演じる裕里が、姉・遠野未咲の葬儀会場で、未咲の娘・鮎美から、未咲宛てに届いた同窓会の案内状を受け取ります。
裕里は、姉の死を伝えるためにその同窓会に参加しますが、そこで自分の初恋の相手である乙坂鏡史郎と再会し、姉のふりをして接します。2人はその後、文通をしていきますが、そのやりとりに裕里の娘、颯香や鮎美が絡んでいきます。
現在と過去の回想シーンの恋愛模様がクロスして展開されていく本作。広瀬すずが、鮎美役と過去にさかのぼった高校時代の未咲役を、森七菜が、裕里の娘・颯香役と高校時代の裕里役を、一人二役で好演。また、鏡史郎役は、現代パートを福山雅治が、回想シーンパートを神木隆之介が演じています。
二世代のピュアな初恋が涙腺を刺激する
本作のコピーは「君にまだずっと恋してるって言ったら信じますか?」です。これは、高校時代の初恋の人、未咲に対する鏡史郎の想いであると同時に、裕里が胸の内に秘めていた鏡史郎への恋心を表しているものでもあるのかなと。
初恋というものは、鮮度が第一で、成就せずに散るからこそ、甘酸っぱくもみずみずしい思い出として人生に刻まれる、というのがスタンダードなパターンかと。ところが、鏡史郎にとっての未咲への愛は、いまでも色あせることのないブリザードフラワーのような状態のようです。
この奇跡のような片思いを、絵空事に走ることなく、鮮度を保ったまま映像化できるのが、岩井マジックではないかと。観ると実に切なく、心の奥底をまさぐられるような郷愁に襲われ、いつしか涙腺を刺激されていきます。
「花は咲く」の岩井俊二が本作に込めた想いとは?
2011年に起こった東日本大震災からもうすぐ9年を迎えます。仙台出身の岩井監督が、震災復興チャリティーソング「花は咲く」の作詞を手掛けていることはよく知られていますが、本作からも、同曲と同じような、過去の郷愁からつながる未来への希望が感じられます。
劇中で、未咲の人生における悲劇も語られますが、若い鮎美と颯香のベクトルは、ちゃんとたくましく未来へ向かっていることが描かれていきます。それを言葉ではなく、絶妙な画にして見せられた時、胸がじんわりと熱くなりました。
『Love Letter』の姉妹版的な映画、もしくは“アンサー映画”という位置づけもある本作ですが、間違いなく日本の今を切り取った秀作でもあります。そういう意味では、幅広い世代に響く映画なので、たくさんの方に観ていただきたいです。
監督・脚本・編集:岩井俊二 原作 :岩井俊二「ラストレター」(文春文庫刊)
出演:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介、福山雅治…ほか
公式HP:https://last-letter-movie.jp/
文/山崎伸子