アトピー性皮膚炎の発症を抑えるためにもスキンケアは重要になってきます。アトピー性皮膚炎のスキンケアとは、お肌を清潔することと、保湿することです。アトピーの改善・予防に必要な保湿は、どんなことを気をつければよいのでしょうか。
子育てについての日常の些細な悩みにも、親身に答えてくれると評判の北浜こどもクリニック院長の北浜直先生に、アトピー性皮膚炎のスキンケア、保湿クリームや保湿剤の選び方、アトピーの保湿に有効なワセリンの選び方、使い方についてお話を伺ってきました。
目次
アトピーの改善・予防には保湿が必要
アトピーの改善・予防には保湿が必要です。アトピーの子供は(大人も同様ですが)、皮膚が痒くなって掻いてしまったり、それによって肌が炎症を起こしたりするため、どうしても肌のバリア機能が低下しやすくなります。だからこそ、保湿を含むスキンケアを丁寧に行い、肌を保護する必要があるのです。
一般的にわかりやすく「肌のバリア」と呼ばれているのは、皮膚の表面を覆っている、潤いを蓄えたとても薄い角質層のこと。肌のバリア機能とは、その角質層が乾燥や外部刺激から肌を守ってくれることを指します。
乾燥がひどいと、肌のバリア機能が低下する
肌のバリア機能は、乾燥や外部刺激はもちろん、さまざまなアレルゲンなどからも肌を保護してくれます。しかし、肌の乾燥がひどくなってしまうと、肌バリアが蓄えている潤いが不足してしまい、バリア機能が低下してしまいます。肌バリアの乾燥を防ぎ、潤いを与え続けることが、バリア機能を維持することにもつながるため、保湿を含むスキンケアがとても重要になります。
保湿ばかりでは、湿疹が発生してしまうことも
アトピーの子供のスキンケアとして「保湿はしない方がいい」という考え方もあるようですが、それは一部正解です。正しくは「絶対に保湿しなければならない」という考え方が間違い、ということです。
保湿をすることは、肌を蒸らすことにもつながります。保湿ばかりを熱心に行うと、子供の肌が蒸れしまって、湿疹などが発生してしまう場合もあります。あせもやおむつかぶれなど、蒸れて湿疹ができた肌を保湿すると、さらに蒸れてしまうことになるので逆効果です。
そのように、保湿は、状況によっては必須ではありませんが、最低限は必要なことです。お風呂上りの赤ちゃんの肌は、汚れや分泌物などと一緒に、必要な皮脂や潤いも流れ落ちた状態なので、それらを補うために保湿をした方が良いでしょう。お風呂上がりではなくても、外気に触れる手や顔は乾燥しやすいので、重点的に保湿をしてあげましょう。
ただし、アトピーの症状がある子供でも肌が乾燥していない場合や、皮膚をウェットに保つと悪影響を及ぼす状態のときは、保湿をしないこともあります。パパやママが判断するのは難しいので、保湿の有無はお医者さんの診断に従ってください。
アトピーの入浴
アトピー性皮膚炎の症状がみられる場合でも、入浴しない方がいいということはありません。肌を清潔に保つために、毎日お風呂に入りましょう。
入浴は毎日
できれば毎日入浴して、石鹸で肌をきれいに洗いましょう。お風呂に何度も入りすぎると、必要な皮脂や潤いが落ちすぎてしまうこともあるので、入浴は1日1回でいいでしょう。入る時間などはご家庭の生活スタイルに合わせていただいて問題ありません。
ただし、アトピーの症状がみられる場合、お風呂に長時間浸かると血行がよくなり、痒みが増す場合があります。それが原因で肌を掻いてしまう場合もあるので、注意が必要です。
石鹸やボディソープは使ってもいい?
子供の肌はとても代謝がよく、その分泌物などで汚れやすいです。必ず石鹸で肌を洗いましょう。石鹸の種類は、固形でもボディソープでも、どちらでも構いません。ただし、香りがついているものや、「肌が潤う」とうたっている製品は、それらの成分が異物として肌に残ってしまうので、おすすめできません。汚れを落とす成分以外を使用していないものを選びましょう。
石鹸でもボディソープでも、洗い方は同じです。よく泡立て、ガーゼやスポンジなどは使用せず、手のひらで優しく洗い、よく流してください。
自分で身体が洗えるようになった子供でも、洗い残しがあるかもしれません。洗い残しを教えてあげつつ、パパやママが仕上げ洗いをしてあげるといいでしょう。
シャンプーは普通にしても大丈夫?
シャンプーも、きちんと汚れを落とすように行ってください。特別な製品を用意する必要はありません。よく泡立てて、きれいに洗い、きちんと流してください。
コンディショナーなどを使用しても問題ありませんが、頭皮ではなく髪や毛先につけるといいでしょう。頭皮に湿疹がある場合は使用を控えましょう。
アトピーのスキンケア
アトピーのスキンケアは、保湿剤を塗ることだけではありません。保湿を行う前に、まずはきちんと清潔にすることが大切です。
1日に1回、お風呂のタイミングで保湿を
スキンケアとは、ひと言でいうと「清潔と保湿」です。保湿する前には、肌を清潔にしなければいけません。汚れた肌の上から保湿を行うと、残った汚れと新たな分泌物が肌の上で蒸れるため、肌にダメージを与えかねません。
また、スキンケアの回数は、特に関係ありません。子供の状態に合わせて行うので、1日に1回の場合もあれば、3時間おきに行うように指示する場合もあります。または、保湿の前には肌を清潔にする必要があるため、「肌が汚れている時間を長く作らない」という意味で、朝昼晩、寝る前というように、間隔を指定する場合もあります。
化粧水は必要?
薬には「化粧水」というものはありません。肌の状態がよく、アトピーではない子供が市販の化粧水を使用した場合、肌トラブルは起こらないかもしれません。しかし、アトピー治療中の子供には、使わないように指導することが多いです。
患部だけではなく、肌に触れるものも清潔に
患部はもちろん、肌に触れるものも清潔にしておきましょう。汗をかいたら拭く、スキンケアを行う前に肌を清潔にしておく、タオルは一度使ったら洗って清潔なものを使用する、などを行うことは基本ですが、神経質になりすぎる必要はありません。まずはスキンケアをしっかりしたうえで、それ以外のことをできる範囲で行いましょう。
保湿クリームや保湿剤の選び方
アトピーの治療中は、医師から処方された保湿剤を使用してください。治療が終了していることが前提ですが、市販のものを使用する場合は、肌の状態に合わせて使用してください。アトピーの治療中に、市販の保湿クリームや保湿剤を使用するのは控えたほうがいいでしょう。
医師から処方されたものでも、市販品でも、使っている途中で肌に変化が現れた場合は、すぐに使用を中止し、医師の診断を仰ぎましょう。
保湿剤の種類
アトピーの治療中に処方される保湿剤には、ヒルドイド、ウレパール、パスタロンなど、たくさんの種類が各メーカーから提供されています。保湿剤といっても、アトピー性皮膚炎に特化して作られているものはありません。また、同じ種類の保湿剤でも、合う合わないがあります。医師によっても使う種類は違いますので、医師の診断に従い、正しい用法・用量で使用しましょう。
よく聞く保湿成分・セラミドは医薬部外品
医師から処方された保湿剤であれば、成分を気にしすぎる必要はありません。ただし、市販品はベースになる基材に純度の低いものを使用している場合もあるので、注意が必要です。
保湿剤の成分としてよく耳にする「セラミド」ですが、セラミド含有保湿剤は、医薬品ではなく、医薬部外品となります。ドラッグストアなどで購入できる市販品もあるので、手に入りやすいですが、アトピーの治療中に使用する際は、医師に相談しましょう。
選び方
保湿剤には、スプレータイプ、ローションタイプ、クリームタイプ、軟膏タイプなど、様々な種類があります。それぞれの違いは保湿力です。スプレータイプやローションタイプは保湿力が軽めですが、広範囲に塗布しやすく、さらっとした使用感で夏の保湿におすすめです。乾燥しやすい冬はしっかり保湿のできる軟膏タイプなど、保湿剤も季節ごとに使い分けたり、肌の状態によっても使い分けて処方します。
赤ちゃんのアトピー、保湿にワセリンは有効?
50年以上も前から保湿剤として使われているワセリンは、薬として処方されていますし、市販品としても販売されています。しかし、ワセリンは脂分が多いので、分泌物の多い子供の肌に塗ると、肌が蒸れてしまって湿疹などができてしまう場合も。当院では、アトピーの子供の肌へのワセリンの使用はおすすめしていません。
特に赤ちゃんは分泌物が多いので、ワセリンで肌をコーティングしてしまうとよくありません。大人でも、ニキビの多い肌の人にはおすすめできません。たとえば、肌の分泌物の少ない、お年寄りの乾燥した肌などにワセリンを使うのはいいでしょう。
赤ちゃんに特化したワセリンの市販品もあるので、アトピーの治療中ではないときに使用してみて、肌の調子がいいようであれば結構でしょう。ただし、アトピーの症状がある子供や、アトピーの治療中は、医師に処方された保湿剤を使用してください。
保湿剤は、アトピーのかゆみ止めやかゆみを抑える作用があるの?
保湿剤自体がアトピーのかゆみを抑制するわけではありません。
記事冒頭でお伝えした通り、肌は、潤いを蓄えたとても薄い角質層で表面が覆われています。それは、一般的にわかりやすく「肌バリア」と呼ばれているものです。肌の乾燥がひどくなってしまうと、肌バリアが蓄えている潤いが不足してしまい、バリア機能が低下してしまうため、乾燥や外部刺激はもちろん、さまざまなアレルゲンなどから肌を保護する力が弱まります。すると、肌の痒みが誘発されやすくなったり、掻いて炎症した肌の補修が適切に行われなくなります。
肌バリアの乾燥を防ぎ、潤いを与え続けることが、バリア機能を維持することにもつながります。よって、保湿を含むスキンケアが、結果的にアトピーのかゆみを抑える作用をもたらすのです。
アトピーの痒みの原因・メカニズム
アトピーの痒みの症状は、痒み成分の分泌や、肌を掻いてしまった炎症からくるものです。肌が炎症すると、さらに痒みを伴いますので、痒みのないアトピーはありません。また、アトピーの痒みは、肌から侵入した異物の刺激で発症します。食物アレルギー以外、食べ物がアトピーの症状を引き起こす直接的な原因になることはありません。
アトピーのかゆみを抑える薬は?
アトピーのかゆみを抑える薬として、ステロイド薬や非ステロイド薬、タクロリムスなどがあります。
アトピーのスキンケアには、正しい「清潔と保湿」を
アトピーのスキンケアは、「肌を清潔にすること」と「保湿」が大切です。どちらがより重要か、ではなく、ともに重要です。「肌を清潔にして保湿剤でケアする」は必ずセットで行って、医師の診断のもと正しいスキンケアを行いましょう。
記事監修
神奈川県川崎市・北浜こどもクリニック院長。
1976年生まれ、埼玉県出身。2002年聖マリアンナ医科大学卒業。2006年からは山王病院の新生児科医長務める。2010年に北浜こどもクリニックを開院。2012年医療法人社団ペルセウス設立。The Japan Times誌の「アジアのリーダー100人」に、2015年から3年連続選出されている
文・構成/HugKum編集部