子どもが失敗したときは、親子の絆を深めるチャンスです【子育ての道を照らす佐々木正美さんの教え】

お子さんが失敗したり、問題を起こしたときこそが親の出番です

 

子どもというのは幼児期から学童期を通して、ご近所や地域社会、学校などでさまざまな失敗や不始末をしでかして周囲の人たちに迷惑をかけるものです。

 

子どものころ私自身もそうでした。よくいずらをしたんですよね。たとえば畑からトマトをひとつかふたつ盗んだり、お寺の本堂の前にある池の鯉を釣ったりして、それが見つかって、畑の持ち主やお寺の住職さんに捕まって叱られたものです。

 

家に帰ってそのことをおそるおそる母に言うわけです。すると、母は「そうかい。大変なことをしちゃったね。お父さんに聞こえたら大変だよ、おまえ。内緒にしておいてあげるから、これきりだよ」と言って、それ以上は叱られませんでした。そうして、母はそのあと、迷惑をかけた方々のところへ私を連れてあやまりに行くことが何度もありました。

 

いまから思えば、母はそうすることで、過ちを犯したときにどうすればよいのか、ということを、身をもって私に教えてくれていたのだと思います。そして、そんな母の姿を見るたびに、安易に悪いことをしてはいけないと子ども心に思ったものです。

 

よく考えると、母が本当に父に内緒にしてくれたのかはよくわかりません。でも、父に内緒にしておいてくれているということは、安心感がありましたね。そして、同時に、母がとても私を大切に思ってくれているという気持ちも、その都度感じたものです。子どもを育てるうえで、幼いうちはまずこういう養育者の力が必要だと、私は強く思います。

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 親から守られる経験が、自分を信じることにつながっていきます

 

なぜならそういった親から守られる経験をするたびに、子どもというのは親を通して自分自身を信じることができるようになるからです。自分を信じられる子どもというのは、他者のことも思いやり、幸せに生きていくことができます。そうして育てられたからだと思いますが、私は自分の子どものしでかした失敗や不始末というものに、あまり悲しみや怒りを感じませんでした。

 

たとえば、子どもが学校で失敗したとき、私は「心配しなくていいんだよ。お父さんがいってあげるんだから安心していなさい」と言って、私の母のように子どもを連れて先生方へ謝罪に行ったものです。

 

そして、「二度とこんなことをするんじゃないよ」とか「どうしてこんな馬鹿なことをしたんだ」などとは子どもには決して言いませんでした。「どうして」などと聞かれたとしても、子どもが答えられるものではないからです。それは残酷な質問です。そうした質問をがまんして言わないというのも私は大事だと思います。また、「おまえもあやまらなくちゃだめだ。頭をさげて」などということも言いませんでした。あくまでも親のプライドはかなぐり捨てて、ただただ謝っていました。私はそんなふうに父親としてやってきました。

 

でも、そうしておわびにいった帰り道は、親子であることを強く感じました。子どもがやってしまった不始末というのは、ほとんどが私も子どものころにやってきたようなことが多いんですね。だから、帰り道に、私はしょんぼりしている子どもにそのことをよく伝えていました。

 

「お父さんもおまえのような年ごろのときには、同じようなことをやってしまったことがあるんだよ」と言って、「だんだん大きくなるにつれて、こういったことをしないでいられるようにがまんできるようになれば、それでいいんだよ」と言葉をかけていました。

 

子どもはそんな私の言うことにさほど応答するわけではありませんでしたが、私の言うことにしっかりと耳を傾けてくれていたような気がします。そんなことを語りながら帰った夜道の思い出は、何度もあります。いまでは懐かしい思い出です。

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子どもをの失敗を受け止めて、どう立ち直らせるかが親の役目

子どもが小さいときには、まだ社会や世間のことがわからないのですから、親は子どもの失敗をそうやって受け止めてあげる必要があると私は思います。親が、自分があやまるのはいやだから、子どもに不始末をさせないように、親の思い通りに育てようとしてふだんから抑え込んでしまうのが、子どもをダメにしてしまうのです。子どもが失敗したときこそが親の出番。そう思って、育児をしてみてください。

 

子どもが育つ際に、なにもかもスムーズにとんとん拍子にうまくいく必要なんてありません。むしろ私は、失敗をすることで、その子の人格に厚みが増すと思っているくらいです。子どもをその失敗からどう立ち直らせるかということこそが、親の役目なんです。幼いころに親からそうした教えを受けた子どもは、自律心も自然に育まれていくものです。

 

 

教えてくれたのは

佐々木正美|児童精神科医

1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。

構成/山津京子   写真/繁延あづさ

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