安全のプロが川遊びの「あぶない」を伝授!川特有の危険を知り、安全に楽しもう

立秋を過ぎても暑い日が続いています。川でお子さんと一緒に水遊びをしたり、川辺でバーベキューをして楽しむ方も多いでしょう。今回は、事故による子どもの傷害予防を目的に活動している「NPO法人Safe Kids Japan」が、川特有の「あぶない!」について、長年「子どもの傷害予防」を研究してこられた西田 佳史さんと一緒に考えます。

 

後を絶たない子供の水の事故。どうしたら防げるか?

 

イラスト 久保田 修康

 

子供時代の「あぶない!」経験

西田さんは国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センターの首席研究員で、Safe Kids Japanの理事でもあります。日々「子供の傷害予防」や「高齢者の傷害予防」に関する研究を行っている西田さん。実は子供時代に何度も事故に遭われていたそうです。

西田 佳史さん

 

西田:岐阜の自然豊かなところで育ちました。野山を駆け回って遊ぶ子どもでしたね。カブトムシを100匹捕まえて飼育したり、川で釣りをしたり。今思うと「あぶない!」と隣り合わせの子ども時代でした。

Safe Kids Japan(以下SKJ):池で溺れかけて、それが地元のニュースになった、というお話を聞きました。

西田:そうなんです。あれはまだ幼稚園の頃だったと思うのですが、工事現場に大きな穴が開いていて、そこに雨水が溜まってため池のようになっており、そこに落ちて溺れそうになりました。バタバタと水の中で暴れていたら、たまたま通りかかった人が助けてくれまして。泥水は飲んだと思いますが、意識を失うようなことはありませんでした。そこは公共工事の現場だったようで、あとから町長が病院に謝罪に来たり、新聞に載ったり、と、地元では大事件でしたね。

SKJ:それは大変でしたね。その経験が現在の研究活動につながっているのでしょうか?

西田:いいえ、そういうわけではないです。小学生の頃までは外遊び中心でしたが、中学生くらいになると機械に興味を持つようになり、ラジコンにハマったりしていました。大学も機械工学に進み、ロボットとか、何か「動くものが人の役に立つ」ということに興味を持っていました。

大学では、当時の「ユビキタス」、今でいう「IoT」のプロジェクトをやり始めました。具体的には、ベッドをセンサ化して、「睡眠時無呼吸症候群」の患者さんの呼吸を調べる医療機器の開発をしました。

SKJ:西田さんはひとことでいうと懐が深く、誰とでもフランクに話をされる方、という印象です。

西田:学生の頃から、いわゆる「多職種連携」に慣れているせいかもしれません。指導教官から現場のニーズに対峙する姿勢を叩き込まれました。博士課程の時に「医工連携」を経験したのですが、そういう経験を若い頃にできたことはよかったな、と今でも思っています。

子育てをきっかけに子どもの傷害予防への関心が生まれた

SKJ:さて、そんな西田さんが「子ども」のことに取り組むきっかけになったのはどんなことだったのでしょう?

西田:2002年に子供が生まれまして、初めての子育てが始まったわけですが、これがもう危ないことだらけで。毎日ヒヤヒヤの連続でした。同時に、子育ての分野、特に事故を予防する領域に「工学」がほとんど入っていないことにも気づきました。子どもの事故について研究している人を探しているうちに山中先生(Safe Kids Japan理事長)のホームページに行き当たり、すぐに電話をして、先生のクリニックまで会いに行ったのです。2003年の夏でした。

西田さんの長女 采央さん。2歳のころ。産総研でモーションキャプチャの実験に協力。

 

子供の事故を「工学」の視点から解決する

SKJ:それで子供の傷害予防の研究を始められたのですね?

西田:すぐに具体的な研究活動が始まったわけではないのですが、2004年の春に六本木ヒルズの回転ドア事故が起きて、子どもの事故を防ぐ活動が社会の注目を浴びました。われわれは2005年から、本格的に研究を始めました。まず、遊具の事故を取り上げ、予防とは何かを考える活動を始め、2006年にCIPEC(子どもの傷害予防工学カウンシル)という組織を立ち上げました。キッズデザイン協議会が設立されたのもその頃です。

 

SKJ:今回のテーマは「川の事故」ですが、このことについて調べてみようと思ったのはなぜだったのでしょう?

西田:子どもの頃、木曽川や九頭竜川で釣りをしたり水遊びをしたりしていて、立っているときはそうでもないのに転ぶといきなり流される、場合によっては相当な距離を流されてしまう、一旦流されると元に戻るのが大変だ・・・ということを体験的に知っていました。もしかしたらその体験が潜在的な関心として残っていたかもしれませんが、実際のきっかけは、ある放送局の記者の方の提案です。この記者の方は、前回このHugKumに登場された吉川 優子さんのお子さんの事故の取材をしていて、この方に、「川で一体どういうことが起きるのか知りたい。実験をしてみてもらえませんか?」と言われたのです。私自身も前々からやってみたい実験でしたので、都内の流水プールをお借りして、実験をすることにしました。

 

流水プールや川で人の流され方を実験

SKJ:それで昨年2017年の夏に流水プールで実験を行ったのですね。実験をされ、どのような発見があったのでしょうか?

西田:流水プールを川に見立て、ダミー人形をプールに入れて、人形が立っている状態と座っている状態でどのような違いがあるか、また、水の流れの速さによる変化についても調べました。

人の身体は、足首が細く、腰のあたりからいきなり太くなるという「非線形」な特徴があります。非線形とは、「比例しない」という意味で、人の身体の場合、地面からの高さに比例して足が徐々に太くなるわけではなく、どこかの高さで急に太くなります。転ぶとこの影響が極端に表れるので、立っているときに比べて5倍の推力(水の流れが身体を押す力)が発生するということがわかりました。

プールの底におもりを置いて吊り下げ台を固定
ダミー人形を吊り下げ、その動きを計測
実験の状況

SKJ:川は流れが複雑で川底の深さも一律ではないので、特に子どもは転びやすいですね。転んで尻もちをつくと一気に水の流れを受けることになる、ということでしょうか。

西田:そのとおりです。もちろん大人も同じことなのですが、頭が大きく足元がぐらつきがちな子どもは、より水の流れの影響を受けやすいと言えます。ライフジャケットなどの備えが必須だと思います。

流速と深さによって変化する「押される力」

 

SKJ:お子さん達と一緒に実際の川でも実験をされたそうですね。

西田:ええ、夏休みに家族で御殿場に行ったとき、近くに川があって、そこで実験をしようということになりました。その川は多摩川や江戸川のような大河川ではなく、どこにでもある小さな川です。ネットに簡易な流速計の作り方が載っていました。ピンポン球を浮かべ、流速を調べる方法です。これを使って、川のさまざまな位置でピンポン球の流され方がどのように変化するかを調べたのですが、小さな川であっても、川底や石の状態で、流速が大きく変化するのです。流れそのものも非常に複雑でした。その時天候は晴れで上流でも雨は降っていませんでしたが、その時点でも流速は毎秒約2メートル、尻もちをついたら流される速さでした。

そのうち雨が降ってきて、雨で水量・流速が本当に激変しました。川幅が数メートルの細い川は雨の影響を受けやすいので、かなり危険だと思います。この実験は次女の夏休みの自由研究としてまとめました。

 

 

川で実験をする西田さんのお子さんたち
実験開始から3時間後の川のようす

 

 

川遊びでは自分の身を守るライフジャケットの着用を

大人も子どもも必ず着用してほしい

SKJ:川には予想外の危険が潜んでいるのですね。

西田:大人でも、川の流れを足首で受けるのと腰で受けるのとでは全然違います。繰り返しになりますが、人間の身体は「非線形」です。線形であればある程度予測ができますが、非線形は予測がつきにくいのです。

SKJ:川の事故を予防するためにはどうしたらよいでしょうか。

西田:まずは大人も子どもも、川の近くに行くときはライフジャケットを着用することです。溺れを予防するためにはとにかく鼻と口を水の上に出しておくことですが、川の流れの中でその姿勢を保つためにはライフジャケットが必要です。

個人としてはライフジャケットの着用が現状もっとも妥当な予防策ですが、近い将来、国や地方自治体の施策、もしくは民間のサービスとして、たとえば川の上空にドローンを飛ばし、溺れを早期に発見する、といった対策もあり得ると考えています。

 

効果のない「傷害予防」にしないために

予測不可能な子供の行動。あいまいな「注意」や「見守り」でなく具体的な指示、確認を

SKJ:ここからは「子どもの傷害予防」全般についてお尋ねします。子どもの傷害予防活動は誰もが必要、重要と考えていますが、課題や困難も多いですね。

西田:長年この研究、活動を続けてきて思うのは、子どもの事故の世界には「誤解」や「神話」が多く、それを払拭するのが難しい、ということです。たとえばよく耳にする「見守り」や「保護者が目を離さない」という言葉ですが、これは実際には遂行不可能なことが多いのですね。目を離さなくても、保護者の目の前で子どもは転びますし、川に流されます。

ある時、われわれの研究所に未就学の子どもたち19人に来てもらい、実験をしました。リビングルームに見立てた空間にソファや室内用遊具などを置いて自由に遊んでもらったのですが、子ども達は実によく転びます。何もないところでも転ぶ。各実験は1時間程度でしたが、その間に合計105回転びました。

その転倒までの時間を計測してみたところ、平均で0.5秒。たとえ子どもから1メートルのところにいたとしても0.5秒の間に子どもを支えるのは不可能です。しかし世の中には「見守りましょう」「目を離さないようにしましょう」という言葉が飛び交っています。

産総研内のリビングラボで

 

SKJ:マイナスからのスタートということですね。

西田:そうですね。ガイドラインにしても同じことが言えます。たとえば野外活動のガイドラインには「下見を十分に行いましょう」と書いてある。「十分な下見」とは実に漠然とした表現です。実際の行動に変えるのが難しく、役に立ちません。そうではなく、「1m以上の高低差がある箇所、手で押して倒壊・転倒する物体、蓋や手すりのない側溝の有無を調べて記録する」などといった具体的な指摘が必要です。

子育ての現場を録画・撮影しておくことも重要です。今はどこでもカメラがある時代です。これを使わない手はありません。Safe Kids Japanではベランダからの転落事故予防を目的に、「ベランダ1000プロジェクト」を実施しました。これは子育て中の方にご自宅のベランダの写真を撮って送っていただき、それぞれのベランダにどのような危険があるか、そしてその危険を取り除くためにはどうしたらよいか、をアドバイスする、というプロジェクトでしたが、実際のベランダの写真を見せていただくことで、われわれの知らなかったベランダの実態を知ることができ、非常に有用な機会になりました。

10年後、子供が安全に暮らせる社会にするには

SKJ:最後に、10年後の社会はどうなっていてほしいか、そして10年後の西田さんはどうありたいか、をお聞かせください。

西田:ひとつのキーワードとして、「傷害予防スマートシティ」が挙げられると思います。これはセンサや人工知能も使って町の課題や問題に気づき、それらをコントロール可能な課題へと変化させ、叡智を一段格上げして子孫に残せる町、のことです。たとえば、「予防」にお金をかけると費用対効果が現れることがわかっているのに、縦割り社会の弊害により実施できていないという問題をクリアする、というようなことですね。こういったスマートでイノベーティブ(革新的)な町がひとつでもふたつでもできているといいですね。

私自身は、ひとりの研究者として、「変化する人にやさしい社会」を作りたい。国連が提唱するSDGsにも通じる考え方ですが、「変化する人」、それはたとえば成長する子どもだったり、機能が衰えていく高齢者、そして日常生活にさまざまなチャレンジが必要な人たちですが、そういった人も含め、生活機能が変わっても対応可能な社会、誰ひとり取りこぼさない社会こそが本当にやさしい社会であろうと思います。そういう社会づくりに貢献できていればいいな、と考えています。

SKJ:ありがとうございました。

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