防犯・安全アドバイザーが語る“子供の連れ去り・誘拐犯罪”の意外な落とし穴とは?

「現在の子供への安全教育は、間違った常識がまかり通っていると言わざるを得ません。不審者から子供を守るためには、不審者の心理を読み解くことが大事です」と話すのは、犯罪学が専門で、防犯・安全アドバイザーとして幅広く活動されている小宮信夫先生。

これまでわたしたちが「安全」と思い込んでいたことが、実は危険であることも少なくありません。

子供は「不意」に対応できません。「安全教育」の落とし穴とは?

子供は不審者を見抜けない

「たとえば、『不審者に気をつけよう』と言いますが、実際には見ただけでは不審者とわかりませんから、気をつけようがありません」

 たしかに、子供が巻き込まれた犯罪報道を見ても、いかにも不審者然としたタイプより、まさかあの人が? という外見の人が容疑者ということが多々あります。また、子供にしても、不意に不審者が近づいたきたら、大声を出して、走って逃げなくちゃいけない、と頭ではわかっているのです。しかし、実際には恐怖で声が出ず、足は硬直して、もつれて転んでしまうのだとか。

「そもそも、不審者の大多数は子供をだまして連れて行くのが現状です。ですから、不審者を見たら○○しなさい、という子供への安全教育は、十分とは言えないのです」

不審者は、人通りが多く 明るい道で狙っている

さらに、「明るくて人通りが多く、見通しのよい道は安全」という常識も、実際は逆だとか。

「ハンターである犯罪者は、“獲物”つまり子どもが多い場所に現れます。実際に繁華街近くのバス停が犯行現場だった例もあります。また、犯罪者には“好み”があるので、前から歩いてくるのが“自分にとっての獲物かどうかを識別するためには明るさが必要。ですから、不審者対策を考えるならもっと明るい場所に目を向けるべきです」(小宮先生)

では、いったいどうすれば子どもを不審者から守れるのでしょうか?

思い込みを捨てましょう「こんな場所が実は危険です!」

× 人通りが多いから大丈夫

犯人は通学路や繁華街などで、大勢に紛れながら、人がいなくなるタイミングを狙っているのです。人通りが多いからこそ目立ちにくいことも。

× 街灯があるから安心

不審者は、近づいてくる人が大人か子どもか、男か女か、好みのタイプかどうかを明るい場所で観察しているもの。犯罪は街灯のあるところで起こる確率が高いといわれています。

× 見通しがいいから、不審者はでない

世間を震撼させた宮崎勤による東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件は、歩道橋の上が初の犯行現場。ビルの屋上、田んぼの一本道など、見通しのよい場所でも視線がないので、実は犯行が頻発しています。

 

人を見るのではなく、今いる場所の景色をよく見ること。入りやすく、見えにくい場所は危険です

「道に迷ったんだけど、教えてくれる?」「きみのお母さんが交通事故に遭ったから、病院まで急いで連れて行くよ」「おじさんはカメラマンだから、写真を撮ってあげるね」などと言葉巧みに子供をだまして連れ去るのが多くの不審者の手口。

「だまされないことが一番効果的な対処法です。人を見るのではなく、自分が今いる場所の景色をよく見ること。そして、そこが危険な景色と判断したら、十分注意して歩くこと。何か頼まれても断り、防犯ブザーを使う準備をし、車には近づかないようにします。絶対に気をゆるめてはいけません」(小宮先生)

不審者が多い、危険な場所とは!?

小宮先生のいう危険な景色とは、どんな景色を指すのでしょう?

「たとえば、ガードレールがない道や、ガードレールが途切れた場所では、車に乗った犯罪者は、通りがかりを装って、子どもに声をかけ、そのまま車に連れ込むことができます。また、だますことに失敗したとき、すぐ逃げられるような出入り口の多い公園や、家はあるけれど、歩道側に窓が少ない住宅街も、人に気づかれにくいので危険です。これらの景色は地図を見てもわかりませんから、実際に歩いて確認するしかありません。普段、子供が歩く可能性のある道は、親子で一緒に歩いて、どこが危険なポイントかを、子供と一緒に考えるようにしてください」

不審者は捕まりたくない、騒がれたくない、という気持ちがとても強いので、注意をはらあって歩いている子、警戒心の強い子には近づきにくいといいます。

「動物の世界でもそうですが、十分な警戒こそが、自分の身を守る最大の武器なのです。最近は、歩きながらスマホでゲームをしたり、音楽を聴いている子どもが目につきますが、そういう子は周囲への注意力が下がっているので、犯罪者から目をつけられやすいのです。

(だれもが)入りやすく、(だれからも)見えにくい場所で、五感を閉ざすような行為は避けるべきです」(小宮先生)

 

こんな場面で子どもは狙われます!

× ゲームに夢中の子ども

ゲームに熱中するあまり、周囲がまったく目に入っていません。不審者は、警戒心の弱い子どもを好みます。

× おしゃべりに夢中なママ

子どもが近くにいても、立ち話に夢中になり子どもが見えなくなるママ。不審者から狙われやすい場面です。

対人能力が高い子は不審者が敬遠する傾向が

子供に日ごろから幅広い年齢層の人と話をする機会をつくってあげよう

「知らない大人に話しかけられても、無視しなさい」と子供に教えるのは、人間不信を植え付けるようでさびしいこと。「そう教える必要はない」と小宮先生。

「犯罪者は、子供が周囲に助けを求める行動を取ることも恐れますから、対人能力の高い子は敬遠されます。ですから、子どもを危険から遠ざけようと、閉鎖的な環境を作るより、日ごろから幅広い年齢層の人と話をする機会を作った方が、結果的には安全なのです」

 

小宮信夫(こみや・のぶお)

立正大学文学部教授(社会学博士)。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所などを経て現職。地域安全マップの考案者であり、全国の防犯・安全アドバイザーなどを務める。

 

再構成/HugKum編集部 イラスト/本田亮

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