赤ちゃんが笑ったら笑い返してますか?「ほほ笑み返し」は感情を育てる大切な営みです【子育ての道を照らす佐々木正美さんの教え】

お母さんとほほ笑みを交わし合いながら、赤ちゃんの心は育っていきます。

 

皆さんは人間の子どもの心がどのようにして発達していくと思いますか?

 

じつは、生まれたばかりの赤ちゃんのころから始まるお母さんとのふれあいの中で育まれるのです。

 フランスの精神科医、アンリ・ワロンは、赤ちゃんが発達していくプロセスを詳細に観察し、研究することで、その事実を発見しました。

 赤ちゃんは生後1、2か月のころに、お母さんが赤ちゃんにほほ笑むと、もうほほ笑みを返します。お子さんを育てた経験がある方なら覚えているのではないかと思いますが、生後1、2か月といえば、まだ赤ちゃんの首がすわる前ですよ。

 

そのころの赤ちゃんは自分の顔を鏡で見たこともありませんし、もし見ていたとしても、それが自分の顔だという意識もないですよね。でも、お母さんの笑顔を見ていると、自分も笑顔を返す。とてもふしぎな現象です。

 人と感情を共感する、そんなふしぎな力を人間は生まれながらにもっているんですね。

 

ワロンは、そうした共感的な感情が、親が赤ちゃんに笑顔を与えてあげるだけで最初にめばえてくること。また、そうした親との情緒的なふれあいが赤ちゃんの成長とともに繰り返し続けられることで、子どもの心やコミュニケーションのしかたを発達させていくことを発見したのです。

 

赤ちゃんはお母さんと喜びを分かち合いたいのです

 

ワロンの研究によれば、赤ちゃんの心の発達は次の通りです。

 

お母さんと微笑みを交わし合う赤ちゃんは、生後2,3か月になると、お母さんにできるだけそばにいてほしいという要求をします。たとえばお母さんが掃除や料理をするために離れていくと、泣いたり怒ったりして「そばにいて」と要求をします。

 また、3、4か月になると、赤ちゃんの感情はさらに発達・分化して、お母さんに対してそばにいるだけでなく、自分が望むことや喜ぶことをしてほしいという要求をするようになります。たとえば、「だっこ」や「あやしてほしい」としぐさで求めるようになるんですね。

 

そして、それが生後4、5か月になると、赤ちゃんは自分が望むことをしてくれるだけでなく、お母さんもそのことを喜んでほしいと思い始めるのです。

 

赤ちゃんは自分が喜ぶだけでなく、お母さんもその喜びを分かち合ってほしい。要するにひとりで喜んでいるのはたいした喜びではないんですよね。自分が喜んでいる。そして、それをしてくれているお母さんも喜んでくれている。それを望むようになるのです。

 

そして、そうした経験を繰り返すことで、赤ちゃんの中に喜びを分かち合う感情が生まれて、心が育まれるということに、ワロンは長年にわたる観察と研究の末に気が付いたのです。そして、それは0~2歳の間に起こる出来事だとワロンは説明しています。

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喜びを共有し合う感情を得た子どもは、悲しみも分かち合える。

 

こうして得られた喜び共有しあう感情が育まれた子どもは、やがて他者と悲しみを分かち合う感情が発達すると、ワロンは言います。悲しみだけでなく、苦しみや痛みの分かち合いですね。

 

なぜなら、お母さんの喜んでいる感情がわかる赤ちゃんは、お母さんの悲しい感情もわかるからです。 そして、お母さんの悲しみを共有できた子どもというのは、自分を愛してくれるお母さんが悲しむことをしないようになる。

 

そして、それが「思いやり」という感情につながっていくのです。喜びを分かち合う経験をしないことには、他者を思いやる感情というのは絶対に発達しません。

 

親とのこうした喜びと悲しみを分かち合う経験をした子どもは、やがて成長とともに、先生や友だちとも感情を共有し、「思いやり」の気持ちをもちながら人間関係を築いていくことができます。そして、そうした経験が積み重なることで、その子はやがて人と幸福を共有したいと思うようになると、ワロンは述べています。

 

臨床医として、長年私は子どもの発達を診続けてきましたが、本当にその通りだと思います。

 子どもを喜ばせ、喜んだ子どものことを喜ぶ親でいる

たとえば、いまは子どもたちの間で「いじめ」が問題になっていますが、私が臨床の現場で診てきた経験からすると、いじめをする子というのは、友だちの悲しみを感じとる感情ができない子なんですね。そして、それは乳児期に親がその子を喜ばせ、そのことを喜ぶという育児がなされなかったことが原因であることが多いのです。いじめというのは、いまの人間関係だけを見ているだけでは、本当のところはわからないのです。

 

だから、私は、育児相談や講演会に来るお母さん方には、「お子さんが幼いころは、とにかく、その子のことを喜ばせてあげてください」とお願いしています。できれば、そういうことのできる大人が、子どもの周りにたくさんいるといいと思います。祖父母や、近所のおじさんやおばさんがかわいがってくれるといいですね。

 

私は通りすがりに小さな子どもと目が合うと、自然に笑顔になります。そして、その子がそれに対して笑顔を返してくれたら、とてもうれしくなります。そのような経験は一瞬ですが、誰だってうれしいものではないでしょうか。

 身近に赤ちゃんや子どものいる方は、どうか子どもに笑いかけてあげてください。喜ばせてあげてください。そして、それをあなた自身が楽しんでください。

 

たったそれだけのことで、その子は思いやりの心をもち、人間関係をつくり、その人間関係が自分という存在のもとになる。社会的人格のもとになるのです。それは、人生を健康に幸せに生きていく芽を育むことにつながっていきます。

 

ワロンは研究の結論として、以下のように述べています。

 「お互いに喜び合うことが人間の最大の喜びであり、これが人間的なコミュニケーションの根源である。そして、この力は乳児期後半から育ち始める」

 私も、本当にワロンの考える通りだと思います。

 

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教えてくれたのは

佐々木正美|児童精神科医

1935年、群馬県生まれ。新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学で児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園や東京女子医科大学などで多数の臨床に携わる傍ら、全国の保育園、幼稚園、学校、児童相談所などで勉強会、講演会を40年以上続けた。『子どもへのまなざし』(福音館書店)、『育てたように子は育つ——相田みつをいのちのことば』『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。2017年逝去。半世紀にわたる臨床経験から著したこれら数多くの育児書は、今も多くの母親たちの厚い信頼と支持を得ている。

構成/山津京子   写真/繁延あづさ

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