中学の社会の授業や、中学受験の試験問題をはじめ、日本の地理を学ぶ上で必ず出てくるのが「扇状地」です。当記事では、扇状地の意味やでき方など、扇状地の特徴について整理してみました。また、扇状地と間違いやすい「三角州」との違いや、扇状地に果樹園が多い理由について考えてみました。さらに、日本の有名な扇状地についてもご紹介します。
扇状地の意味
扇状地とは地形を表す言葉で、川が山地から平地へ流れるときに、土砂などが堆積して扇のような半円錐状の形を作った地形を指します。
扇状地のでき方
山の中の川は、川幅が狭く流れが早いため、勾配がきつく流れに勢いがあり、岩や石なども一緒に運んでいきます。しかし、川が山間部を抜けて平地に出てくると、川幅が広がって傾斜が低くなり、流れが緩やかになります。すると、土砂を運ぶ力が小さくなり、山から流れてきた岩や石が平地に堆積していきます。これが長い年月を経て放射状に広がり、独特の扇のような地形ができあがります。これを、扇状地と呼びます。
扇状地ができる条件として、上流の山地が急斜面であること、下流の地域では土砂が堆積して川が自由に流れを広げられるような広大な地域であることなどがあります。
扇状地の特徴
扇状地ができる地域には、さまざまな特徴があります。
地盤が良い
扇状地は、山地から運ばれた砂や小石が堆積しており、砂礫 (されき)が主体でできています。そのため、比較的地盤が良い安定した土地と言えます。ただし、谷の出口に位置するため、大雨や洪水が発生したときは、土石流などが流れてくるリスクは否定できません。
地形図でわかる
地形図とは、等高線で標高を表し、道路や建物も明記した国土地理院が発行する地図のこと。はじめはどう見ればいいのかわからない場合も多いですが、慣れてくると、地形図さえ見ればその地域の地形をイメージできるようになってきます。そして地形図でも、扇状地を読みとくことができるのです。
扇状地がある場所は、等高線を見るとよくわかります。扇状地の一番山に近い側の「扇頂(せんちょう)」が、もっとも標高が高く、扇状地の中央部分「扇央(せんおう)」に向かって標高は低くなり、山から一番遠い「扇端(せんたん)」はもっとも標高が低くなります。すると等高線はほぼ等間隔で弧を描くようになります。地形図を見て、等高線が同心円状に広がる地域があったら、それは扇状地とわかります。
扇状地と三角州の違い
扇状地を習うと、よく「三角州(さんかくす)」と混乱して間違えるケースが多くあります。扇状地も三角州も、どちらも土砂が堆積する地形という共通点があり、形も似ているため、わからなくなってしまうようです。そんなときは、扇状地と三角州の違いをしっかり整理しておくとわかりやすくなります。
できる場所が違う
上述したように、扇状地は山地から平野にかけてできる地形。一方、三角州は土砂が河口付近に堆積してできる地形を言います。つまり三角州は、川が平地から海につながるあたりにできます。このように、扇状地と三角州は、できる場所に大きな違いがあるのです。
水はけの良さが違う
扇状地と三角州では、水はけの良さの違いもあります。扇状地は山地に近い地域にできるため、比較的粒の大きな岩や小石が堆積します。すると水はけがよい土地となります。しかし三角州は川の河口付近に近く、堆積している土砂の粒は、扇状地よりも小さくなります。すると水はけが悪く、水がたまりやすい地質となるのです。
土地の使われ方が違う
扇状地と三角州は、土砂が堆積してできた平らな土地のため、どちらも人が住んで暮らしやすい地域です。しかし土地質が異なるため、土地の利用法が扇状地と三角州では異なります。
扇状地は果物の栽培に適しており、果樹園が多く作られています。しかし三角州は、細かい粒の砂が堆積しており、雨が地中に吸収されにくく水持ちの良い地質なので、水田に最適な地域です。都市部の三角州は住宅地になるケースが多いですが、地方の三角州では水田が多く見られるのです。
ただ、三角州は標高が低く平らな土地であり、台風や大雨による水害のリスクが高い地域であることも覚えておくと良いでしょう。
扇状地に果樹園が多い理由
扇状地には果樹園が多いと上述しました。なぜ扇状地にはブドウやリンゴなどの果樹園が多くあるのでしょうか?
水はけが良い土地だから
扇状地の扇央部分には、果樹園が多く見られます。扇状地の土砂はコロコロと粒が大きめの岩や小石が多く、そのため水はけが良い特徴があります。
果物の栽培には水は必要不可欠なものですが、必要以上に水が多すぎると、腐ったり枯れたり病気になったりすることも考えられます。また水が少ないほうが、果実の甘みが増して美味しくなる品種もあるのです。そのため扇状地には果樹園が多くできているのです。
傾斜地で日当たりが良いから
扇状地は、扇頂から扇端にむかって標高がだんだん低くなります。そのため、扇央部分は適度な傾斜がついた場所が多く、日当たりも良くなります。扇状地では、果物の栽培には欠かせない日光を、効率的に得ることができるというわけです。
扇央は人が暮らしにくい場所だから
扇状地は川によって作られてできた地形ですが、扇央部分では水はけが良い土地質のため、水分が地下に染み込んでしまい、川から水が消えてしまった「水無し川」になることが多くあります。しかしこの水は、実際は地下に浸透しているだけで、扇端では伏流水となってたくさんの湧き水が出てきます。
人が暮らすためには水がある場所が求められるため、扇端部分に人が暮らし、人が生活しにくい扇央部分には果樹園を作った、ということも考えられるでしょう。
日本の有名な扇状地
日本にある代表的な扇状地として、3つを覚えておきましょう。
甲府盆地
山梨県の甲府盆地には、たくさんの扇状地が存在します。この地域はブドウやモモの産地として知られており、扇状地で美味しい果物が栽培されているのです。
胆沢扇状地
岩手県の胆沢川流域に広がる胆沢扇状地(いさわせんじょうち)は、日本最大級の扇状地として有名な場所です。胆沢扇状地は砂礫層が浅いため、昔から水が豊かな地域だったと考えられます。そのため、他の扇状地と違って、果樹園ではなく田園地帯となっていることが特徴です。
山形盆地
山形市の中心部は、扇状地にできた都市として知られています。山形といえばさくらんぼが名産品で、これらは山形盆地の扇状地で栽培されています。
扇状地は、地図を眺めてイメージで覚えよう
扇状地や三角州は、教科書やノートの勉強だけではイメージがつきにくく、間違いやすいものかもしれません。しかし、日本各地の地図を見ていると、どこに扇状地や三角州があるのかわかってきて、どんな地域か想像できるようになってきます。机上の勉強だけでなく、地図をたくさん眺めて慣れていくと、扇状地の特徴や三角州との違いも、明確に把握できるようになりますよ。
文・構成/HugKum編集部