NHKのEテレ「おかあさんといっしょ」「みんなのうた」のアニメーションや、読売新聞の連載小説「おしゃべりな部屋」(原作/川村元気・近藤麻理恵)の挿絵を手がける、アニメーション作家の大桃洋祐さん。11月に刊行された初めての絵本『ぼくらのまちにおいでよ』のこと、二人のお子さんとの日々について、大桃さんのアトリエにうかがってお聞きしました。
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『ぼくらのまちにおいでよ』は、子どもと一緒に「知ってるものさがし」が楽しめる絵本です
--絵本デビュー作『ぼくらのまちにおいでよ』が11/18に発売になりましたね。この絵本が生まれるきっかけを教えてください
現在3歳になる娘が生まれてから、“自分の暮らしは街の一部なんだ”と感じるようになったのがきっかけです。最近はモチーフとして街や人の生活を絵に描いていて、2年前に「ぼくの街においでよ」という個展をやりました。絵本はいつかやりたいと思っていたんです。個展を見てくださった編集者の方に「絵本をやりませんか」とお話をいただいて、念願の絵本を作ることができました。
――「人と動物が一緒に暮らす街」という設定がユニークですね
百獣の王ライオンがお花屋さんで花を売っていたり、トゲトゲのあるはりねずみの保育士さんが人間の子どもたちの世話をしていたり、一見向いていないようでも実はそうではなく、個性の違う動物たちが、それぞれ好きな仕事をしている本になればいいなと。
多様な存在、個性を受け入れるというテーマは最初から自分の中にありました。
――カバが洋服をふみ洗いしてくれるクリーニング屋さん、リスが店番するお菓子屋さんなど、さまざまなお店が登場します。この設定のアイディアはどこから?
お店をやっている人たちに親近感があるんです。個人店の場合、店主が自分のやりたいことを突き詰めてやっているところがありますよね? それはアニメーション作家もイラスレーターも同じ。だから共感しますし、お店を一つ作って続けるのは大変なことなので、お店をやっている方たちには敬意と興味がすごくあります。
――細部まで描き込まれた絵も楽しいですね
それは娘から得た教訓かもしれません。『ぼくらのまちにおいでよ』の構想をはじめた当時は、娘はまだお話を理解できる年齢ではなかった。でも絵の中に知っているものを見つけると、それだけで延々と楽しんでいるみたいなところがありました。「そうか、こういうところを子供は楽しむんだな」とわかり、小さな子でも「これ知ってる、わかる」というものをなるべくあちこちに見つけられるように意識して描きました。
家で仕事をしているので保育園の送り迎えはボクの役割。家族で過ごすコーヒータイムが癒やしの時間です
――二児のパパですよね。お子さんたちとはどんなふうに過ごしていますか?
8月に長男が生まれたばかりで、生活が変化している真っ最中です。今のところ娘の赤ちゃん返りもなく、息子もわりとおとなしい子で助かってますね。うちは妻が外で働いていて、僕は家で仕事をしているので、保育園の送り迎えは基本、僕がやっています。家事の分担も特に決めていないんですが、お互い得意なことをやるうちに、自然と分担ができた感じです。だから娘と二人で過ごすことが多いのですが、今のところ仲良くやっているかなと思います。
近所の公園を歩いてまわったり、散歩はよくしますね。妻と僕はカフェに行くのがささやかな楽しみなのですが、娘も大好き。といっても飲むのは牛乳ですけれど(笑)「コーヒータイムしようよ!」と率先して言いますね。
子どもには、好きなものを好きなように見つけてほしい。親は機会を与えるだけ。何をどう感じるかは子どもの自由ですから
――大桃さんのTwitterで公開されている写真には、ご自身が創作している傍で、絵を描いている娘さんの姿がありました。教えたりされるのでしょうか?
娘は絵を描くのが好きなようです。僕が絵の具で描いていると絵の具で描きたがるし、iPadで描いていても「同じことをやりたい」と。仕事場なので大丈夫かなあと思いつつ、やりたいように任せています。基本、自由に好きなように描けばいいし、誰かに言われて描くものでもないですし。絵に限らず、何事も好きなものを自分で好きなように見つけられればいいなと思っています。
親ができることとは、いろいろなものを見せてあげるくらいだと思うので。僕の両親は旅行が好きで、ずいぶんいろんな場所に連れて行ってもらいました。
でも振り返って思うのは、子どもは感動するものに出会えば、勝手に一人で感動しているということ。車の中から外を眺めているだけで、ああ、これが好きだなと感じていたり。
そういうのは親があれこれ準備するものではないかなと。何を感じるかはあくまでも本人の自由だし、子どもってそういうものだと思うんです。
――絵本の読み聞かせなどもされますか?
しますね。娘は「ミッフィー」から入って、かがくいひろしさんの『だるまさん』や、最近は、どいかやさんの「チリとチリリ」シリーズに夢中になっています。僕自身は仕事を始めてから、アニメーションを作る際、絵柄などのヒントや資料的に絵本をたくさん読むようになり、ハマってしまい、古書店などで買い集めるようになりました。
――今年は新型コロナウィルスの影響で、家にいる時間がこれまで以上に多かったと思いますが、お子さんとの過ごし方に変化はありましたか?
緊急事態宣言中は保育園が1ヶ月休園になり、妻も妊娠中だったので、その1ヶ月間はほぼ仕事ができなかったですね。その間、100均ショップでシールを買って、娘が何か一つできるとシールをはれる絵を描くように妻に頼まれたんです。おもちゃを片付けたら1枚、お手伝いしたら1枚と、シールを貼れることにしたら、喜んでやってましたね。枠からはみ出さずに貼れているのは、几帳面な娘の性格がでています(笑)。これは今も続いていて、もっとシンプルな絵になって、娘もどんどんシールを貼っていてカオスになっています。
子どものころはディズニーに夢中に。様々な海外の作家に影響されて確立した画風
――そもそもアニメーション作家を志したきっかけとは?
ディズニーアニメが小さい頃から大好きだったんです。特にクラシックの作品、ドナルドダックの短編などを見て育ったことと、昔から絵が好きだったので、自然にアニメーションの世界に入りました。
ディズニーの作品はほとんど持っているので、娘ともよく一緒に見ますね。『シンデレラ』の絵本を保育園で読んだというので、映画を見せたら楽しんでいました。僕が好きな「もぐらのクルテク」はチェコの国民的キャラクターですが、1960年代の古い作品なのでどうかなと思ったら、ゲラゲラ笑っていて。古さは関係ないなと思いましたし、この動きはすごいなとか、娘と再見しながら僕も勉強しています。
--『ぼくらのまちにおいでよ』は、海外の絵本を思わせるような色使いです。独特の作品世界はどこから?
自分が海外の作家が好きなので、その影響が大きいと思います。端的に言うと日本は筆の線なのに対し、アメリカやヨーロッパはペン。そのシャープさが個人的に合っている気がします。ただ、そうはいっても自分が生活しているのは日本なので、日本でもこういう場所はあるよね、とぼかしたり、はっきりと国が特定できるものは描かないようにしています。
――読んでいて旅をしている気分になりつつ、親しみを感じる訳がわかりました。これからも絵本の計画がありそうですね
やりたいことはいろいろありますが、一番は自分の作品を作って発表すること。アニメでも絵本でもオリジナルなものをどんどん作っていきたいと思っています。
大桃洋祐(おおもも・ようすけ)
1985年生まれ。千葉県出身。東京藝術大学デザイン科にて学部から大学院まで6年間学び、その間アニメーションの制作に打ち込む。在学中に制作したアニメーション作品「輝きの川」「farm music」などが多数の映画祭で受賞したことをきっかけに、2011年大学院修了後フリーランスのアニメーション作家として、「おかあさんといっしょ」「みんなのうた」「2355」(NHK Eテレ)等のテレビ番組や「ティファニー×ゼクシィ」「ローソン」等のプロモーションムービーのアニメーションを制作。2018年頃から絵画・イラストレーションの制作も始め、11月に初めての絵本『ぼくのまちにおいでよ』(小学館)が出版された。
取材・構成/宇田夏苗 写真/田中麻以