本を読まないわが子…それってそんなに心配なこと? 筑波大学附属小学校の国語の先生に訊いてみた

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このページをクリックしたママやパパは、「子どもが本をまったく読まない…」と悩まれている方かもしれませんね。しかし、そもそも本を読まないことは悪いことなのでしょうか? 反対に本を読む子どもにはどのような恩恵があるのでしょう? そんな疑問に国立筑波大学附属小学校の白坂洋一先生が答えます。

なぜ子どもに本を読ませたいと思うのか

「自分の子どもが、将来、読書を一切しない大人になっている。そんな状況を想像したことはあるでしょうか。」
そんな問いかけからはじまる『子どもを読書好きにするために親ができること』の著者・白坂洋一先生は、国立筑波大学附属小学校(つくふ)で国語科の教師をされています。それ以前は、地元・鹿児島の小学校で14年間教壇に立たれていました。

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さて、そんな白坂先生からの冒頭の問いかけは、先生の持つ危機感から出た発言です。2019年に行われた全国大学生活協同組合連合会の学生生活実態調査によると、1日の読書時間が「ゼロ」と答えた大学生の割合が、全体の48.1%に上ったそうです。でも、こうした傾向は大学生だけに限りませんよね。私たち大人も同様ではないでしょうか? 「忙しい」ということを名目にして、スマホやSNSのアラートに気を奪われて、本棚で静かにしている本のことなどすっかり忘れてしまっていませんか…?

白坂先生は、「小学校卒業までに『本の面白さ』『本の楽しさ』に触れる経験がなかったら、デジタルの面白さしか感じられない大人になってしまうのではないか?」という危機感を持っておられます。小学生の時期は、子どもに読書習慣をつけるための黄金期。この時期を逃すと、読書を一切しない大人になってしまう可能性があるかもしれません。そうであるならば、今の大学生よりもさらに読書時間ゼロの割合が上昇するでしょう。

では、どうやったら、小学生のうちに本好きの子どもになるのでしょうか? 子どもを読書好きにするための白坂先生のアイデアや方法を紹介しながら、一緒に考えていきましょう。

読書が子どもに必要な理由

そもそも読書は必要なのでしょうか? 漠然と「読書は子どもにいい」気はしますが、「なぜ読書が子どものためになるのか?」という問いにしっかりと答えられる人は多くはないかもしれません。

この問いに対して、白坂先生は教師という立場から、明確に「必要だ」と言っています。その理由を、2020年度から本格実施されている小学校の学習指導要領に基づいて説明されていますので、ご紹介しましょう。

まず2020年度からの新しい学習指導要領では、知識・技能のみの教育だけでなく、それらをいかに使いこなせるかという資質・能力に重きが置かれるようになりました。つまり、目の前にある問題をいかに解決していくかという「問題解決力」や、自分で課題を見つけ出し、それに対する解を導き出そうとする「課題設定力」が求められるようになったのです。

その「課題設定力」を身につけるために最適なのが「読書」だと白坂先生は言います。白坂先生がすすめる課題設定力を養う読書法を下記に挙げてみます。

◆課題設定力を養う読書法

・「?(問い)」や「!(願い)」を大切にしながら読み進める(小学校低学年)
・物語を読むときは「このとき本当はどんな気持ちだったんだろう?」「別の人物の立場から見るとどんな物語になるだろう?」と文章を根拠に視点を変えながら読む(小学校中学年・高学年)
・推理ものや科学読み物は、仮説を立てながら読む

こうした読み方をしていくと、「課題設定力」が高まるとのこと。例えば『ファーブル昆虫記』を読んだとき、「フンコロガシと同じような行動をとる虫は存在するのだろうか?」と課題をたて、他の昆虫の生態を調べるといった、実際の行動にも結びつきます。

こうしたことを踏まえると、社会に出てからも役に立つ能力をはぐくむ読書は、子どもに欠かせないと言えるのではないか、と白坂先生は言います。

読書が子どもにもたらすもの

「読書が子どもに必要な理由」で挙げたことの他にも、読書には以下のような数多くのメリットがあります。

・語彙が豊かになる
・知識が得られる
・心が穏やかになる
・表現力が高まる
・読解力がつく
・人間性を高められる
・物語を楽しめる
・集中力がつく
・感受性が高まる

白坂先生はこれらのメリットに加え、「読書には人そのものを変える力がある」とおっしゃいます。その実証として、マサシくんという男の子のエピソードを挙げられました。

小学一年生のマサシくんは元気が有り余っているような活発な子で、友だちと意見がぶつかっては度々ケンカをしていました。白坂先生はマサシくんが一年生の時に担任となり、最初の1週間読み聞かせをしたそうですが、興味も持たずに歩き回ってばかりだったとか。しかし、4日目には様子が変わり、だんだん話を聞くようになっていきました。そのタイミングを逃さず、「マサシ、本好き?」と白坂先生は尋ねます。

マサシくんのご両親は共働きで多忙なため、中々子どものために時間を作ることはできなかったそう。しかし、お父さんはマサシくんが読書に興味を持ち始めたことを感じて、読み聞かせの時間をつくることにしました。お父さんがマサシくんの変化を見逃さず、その変化を後押ししてあげたことで、マサシくんは本を読む機会を増やし、やがて自己中心的な面が消え、相手を理解する気持ちが芽生えていったそうです。そうした結果、マサシくんは高学年になる頃には、クラスのリーダー的存在になっていったそうです。

マサシくんのように、相手を理解する気持ち、共感力を養えることは読書の大きなメリットであり、人生において大切なことを読書は教えてくれると言えるのかもしれませんね。また、変化のタイミングを逃さない親の関わり方も大切だということがわかります。

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これは逆効果! 子どもを本から遠ざけるNGワード

白坂先生の話を聞いて、「うちの子も読書好きになってほしい!」とより強く思うようになったパパ・ママは多いことでしょう。それでは子どもを読書好きにさせるために、親はどうするべきでしょうか? 親が良かれと思ってやったことが、仇になることもありますよね…。

ここでは、「言ってはいけない、NGワード」をご紹介します。つい言ってしまいそうになったら、口をつぐんでくださいね。

「せっかく読んであげてるのに!」

読み聞かせをしているのに、お子さんが全然話を聞いてくれなかったり、他の遊びを始めてしまったらどうしますか? 思わず、この言葉が出かかりますよね。でもそうした場合は、絶対に口チャック!

「読んであげてる」という、恩着せがましい気持ちは、ダイレクトに子どもに伝わります。こういう気持ちが伝わってしまうと、子どもには読み聞かせが楽しいものだとは思えません。読書を習慣化するどころか、読み聞かせを避けるようになってしまうので、注意しましょう。

「いいかげん、本の一冊でも読んだらどうなの!」

例えばゲームばかりしている子どもの姿を見ていたら、こうした小言のひとつくらい言いたくもなりますよね。しかし、このコメントは親が絶対にしてはいけない発言です。「本を読まない自分はダメなんだ…」と、子どもの自己肯定感を低くしてしまう可能性すらあります。

本を読む気配がないのなら、自分の子どもが何に興味を持っているのか、まず親が探りましょう。子どもに読書習慣を身につけさせたいなら、親の努力が必要です。小言を言う前に、面白がって読みそうな本をすすめてみて様子をみましょう。

「こんな本ばっかり読んで!」

自分が面白いと思っている本を読んでいるとき、こんなことを言われたらどう思いますか? 「くだらない」と決めつけられたようで、子どもの自尊心を傷つけるとともに、せっかく芽生えていた興味を摘むことになってしまいますよね…。

親の意に添わないジャンルの本であったとしても、まずは子どもが面白いと思っている気持ちに寄り添ってあげましょう。興味の派生が子どもの成長に結びつくケースは、いくらでもあるんですよ。

「こんな人になりなさいね」

読み聞かせで大切なこと、それは「子どもたちにとって楽しいかどうか」だと白坂先生は言います。

ですが、例えば読み聞かせ後に、いつも「こんな人間になりなさいね」とお説教されたらどうでしょう? 少なくとも楽しいとは思えないですよね。ですから、読書としつけを一緒にするのは厳禁です。「楽しいかどうか」に注意を向けてあげましょう。

「本を読んだらごほうびをあげるよ」

子どもを動かすにはとっても便利な手ですが、これは禁じ手。この発言を受けた子どもの目的は、“ごほうび”をもらうことになり、“読むこと”はそのためのただの手段に成り下がってしまいます。一冊は本を読むかもしれませんが、結局こんなことをしても読書好きにはならないですよね。

時間はかかりますが、子どもの好奇心や探究心をくすぐり、読書好きに導いてあげるのが遠回りのようでいて、一番の近道ですよ。

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子どもが本に親しむための「ちょっとした工夫」

子どもが本に親しむために必要なことは、とてもシンプルですよね。それは「お話を楽しい」と思えるかどうか。「ばあばに読んでもらうのが楽しい」、「友だちと一緒に図書館に行くのが楽しい」、理由はなんでもいいのです。そうした楽しさをきっかけに、本との距離を縮められるかがカギですから。

本に親しむきっかけとなるような3つの提案を白坂先生がしてくださいました。以下にご紹介していきましょう。

親が子どもにしてもらう逆「読み聞かせ」

寝る前の読み聞かせを重ねていくと、子どもたちは思いついた時に「これ読んで」とお願いしてくることがあります。でも、家事をしていたりすると、そんな余裕はなかったりしますよね。

そんなときは、「今忙しいから、あなたが読んでくれる?」と提案するのはどうでしょう? 読み聞かせをするのは、常に親である必要はないんです。本を読んでもらうことで、子どもの理解力が把握できますし、何より家事をしながらでも子どもと一緒に本の世界を楽しむことができますよ。

「時間がない!」は“スキ読”で

今の子どもたちは、習い事に、塾に、宿題に…と大人に負けず劣らず忙しく過ごしていますよね。そうなると削られがちなのが読書の時間だったりしますが、ちょっとした発想の転換で読書の時間を作ることができると白坂先生は言います。

その具体的な方法とは、スキマの時間を利用した読書「スキ読」を導入すること。読書をするにはまとまった時間が必要だと思い込みがちですが、項目ごとに細切れに読むことは可能です。

学校や塾に行くための電車やバスの移動時間や待ち時間、夕食が終わってお風呂に入るまでの時間など、意外とスキマ時間はあるものです。内容を忘れてしまったら、読み返せばいいだけだとおおらかに構えましょう。ぜひ、“スキ読”の存在を教えてあげて、忙しい中でも読書との接点を作ってあげてくださいね。

読書習慣をつける環境づくり

小学校の廊下に学級文庫が置かれているのは、なぜだかご存じですか? それは、子どもたちが教室の出入りをするたびに、本棚が目に入るようにして、自然と本に手が伸びるようにするためです。

こうした環境づくりは、家でも応用できますよね。子どもの目につきやすいところにあえて本を置いてみる。例えば、リビングのサイドテーブルやベッドの脇にある棚などに1、2冊置いてみます。興味のある本であれば、子どもは自然と本に手を伸ばすもの。読書に親しむための環境づくりを工夫してみてください。

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本気で子どもを読書好きにしたいなら、親が今すること

多くの親は、本好きな子どもになってほしいと思うものです。しかし、スマホにゲームにYouTubeと、誘惑の多い現代、子どもを読書好きにするのは至難の業と言えるかもしれません。

白坂先生はそんな中でも、子どもを読書好きにするために親ができることを、あらゆる角度から提案しています。この記事でご紹介した方法はほんの一部に過ぎません。

本気で子どもを読書好きにしたいと考えるなら、まずはパパやママが読書することから始めてみてはいかがでしょうか? 本を読んでいる親の姿を見せることが、読書好きの子どもになるための大きな一歩かもしれませんよ。1日15分だけでもスマホの電源をオフにして、子どもと読書の時間を作るのもいいですね。

著者プロフィール:白坂洋一(しらさか・よういち)
筑波大学附属小学校国語科教諭。1977年鹿児島県生まれ。鹿児島県公立小学校教諭を経て、2016年より現職。学校図書国語教科書編集委員。『例解学習漢字辞典』(小学館)編集委員。全国国語授業研究会理事。「子どもの論理」で創る国語授業研究会会長。著書に『言語活動を充実させるノート指導』(学事出版)、編著に『「子どもの論理」で創る国語の授業−読むこと−』『「子どもの論理」で創る国語の授業−書くこと−』(明治図書)などがある。現在は特に、「書くこと」の指導と読書指導の研究に注力している。

 

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筑附小国語教師が説く「小学生は本で育つ」様々な方法の提案。我が子によい読書習慣を身につけてほしいと願う親にとっては、必読の書です。巻末には特別付録には、ブックガイド「小学生なら読んでおきたい理想の本棚246冊」が収録されています。

文/末原美裕(京都メディアライン)

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