子どもたちの読書活動を支える学校図書館。自由に本を選べ、新しい本との出会いもある…子どもたちの大切な「本棚」でもあります。
ノンフィクションライター・須藤みかさんの好評連載第13回はこの「身近な本棚=学校図書館」の司書さんのお話。
子どもたちと本をつなぐ毎日から見える「家庭でできる読み力(よみぢから)アップの秘ワザ」をお聞きしています。
横山寿美代さんは、東京都内の小中学校での司書歴15年。今年出版された『いこうよ がっこうとしょかん』シリーズ(少年写真新聞社)の監修も担当している。
目次
急増中の「文章を読みこなせない子」は「自分の言葉で書く力」も発育不良…
――学校図書館司書として15年働いてきて、子どもたちの読書活動に変化を感じますか?
子どもたちというよりも、まず社会が大きく変化しましたよね。テレビがあり、ゲームがあり、そこにスマホも加わりました。刺激的でおもしろい情報があふれています。子どもたちが本よりも、おもしろくて、理解しやすいものに流れていくのは当然のことだと思います。ただ、これらのモノの存在が、子どもたちの「想像の余地」を奪ってしまっていることは残念なことです。
文字が読めるようになったからと言って、文章が読めるということではありません。子どもたちには文章を読みこなしていく力を身につけてほしいですが、このところはその力が落ちていると感じています。
読む力は、書く力にも影響します。たとえば、本の紹介文を書こうとする時に、「この本はおもしろい、なぜなら…」と続けるなど、型にはまった書き方しかできない子も少なくありません。自分の思ったことを自分の言葉で書けない子が増えているように思います。
読む力が育つ「うちどく」ってナニ?
――読む力を身につけるために、家庭でできることはなんですか?
よく言われることですが、本を読む暮らしを子どもたちに見せてほしいですね。そして、「もっと○○について知りたいと思った」「本を読んで、考え方が変わった」などと、親が本を読んで感じたことを子どもたちに伝えてほしい。
詳しい内容を言わなくても、「あ〜、おもしろかった」と、例えばお母さんが口にするだけでもいいと思うのです。その情熱は伝わりますから。そうすると、本を読むことっていいことなんだなという空気が家庭のなかに醸成されていきます。
――環境をつくるということですね。ほかにできることは? 小さい頃から絵本の読み聞かせをしていた家庭でも、小学校に上がるとやめてしまう家も多いようです。
家読(うちどく)をオススメします。親子で同じ本を読んで感想を話し合ってはいかがでしょうか。これが家読(うちどく)です。
絵本を読み聞かせした後に話をするというのもいいですし、同じ絵本や児童書をそれぞれ読んで感想を言い合うというのもいいですね。読む力を養うだけでなく、親子のコミュニケーションも増えますよ。
児童書の選び方がわからない? いえ、マンガもOK
――絵本であれば、紹介サイトもあって選びやすいですが、児童書となるとどんな本を選んでよいかわからないという親御さんもいます。
お子さんが読みたい本を一緒に読めばいいですよ。マンガだっていいと思います。マンガにしかできない表現もありますからね。
――お子さんが本好きでなかったら?
サッカーだったり、ゲームだったり、好きなものや興味のあるものがどの子にもありますよね。
まずは本屋さんや図書館に行ってみてください。そこから関連づけて、お子さんが興味を持てる本が見つかりますよ。
図書館の司書に聞いてみるのもいいですね。公共図書館だけでなく、学校図書館の司書にもどうぞお尋ねください。学校図書館は、児童や教諭だけでなく、保護者にも開かれているものですから。喜んで本の相談に乗りますよ。
――保護者も相談できるんですか? ただ、地域によって司書さんの配置状況は違うと聞きます。
私は毎日、同じ小学校の図書館で働いています。しかし東京でも、毎日司書がいるところもあれば、週1日しかいないところもあり、自治体によって違います。司書によっては複数校を受け持ちながら、毎日違う学校に出勤している人もいます。日本のどこへ行っても、学校図書館にはいつも司書がいるという状態になってほしいですね。
学校図書館のことを知りたいなら…
――監修をされた『いこうよ がっこうとしょかん』シリーズについてお聞きします。学校図書館のことがよくわかるシリーズですね。
1冊目の『みんな まってるよ!』は図書館がどんなところでどんなことができるのか、2冊目の『本の声を聞きました』では本の取り扱い方を伝えています。3冊目では、十進分類法を町にたとえてわかりやすく示しています。本の世界は宇宙のような広がりがあります。十進法の10の数字にこめられている意味がわかると、図書館がより使いやすくなります。
学校図書館がその子にとって初めての図書館になることも少なくありません。図書館っていいな、役に立つところだな、知的で気持ちのいいところだなと思ってほしいですね。子どもたちのなかにあるニーズにこたえて、本を手渡していきたいと思っています。
<番外>本のお仕事=司書が実際にハマった Myベスト5
横山さんが小学校のころ好きだったオススメの本を聞きました。
「以下の5冊は、私の子ども時代にとって決定的に重要で、今の私の有り様にも影響しています。古典として遜色なく、もちろん、今の子どもたちにも読んでほしいと考えています。」
『ナルニア国ものがたり』全7巻 C.S.ルイス作 ポーリン・べインズ絵 瀬田貞二訳 岩波書店 1966
(『ハリ―・ポッターと賢者の石』が発売された)1997年以降の子どもたちが「なんで私のところにはホグワーツの入学案内が来ないの?!」と思うのと同じノリで、「なんでアスランが迎えに来てくれないのだろう?!」と本気で思っていました。ハイ・ファンタジーへの目を開かせてくれたかけがえのないシリーズです。
『海底2万海里』ジュール・ヴェルヌ著 清水正和訳 福音館書店 1972
世界地図と首っ引きで読みました。読んでいる間は、私もノーチラス号に乗っていたようです。素晴らしい時を過ごしました。忘れられません。
『この楽しき日々』(「大草原の小さな家」シリーズ)ローラ・インガルス・ワイルダー作 鈴木哲子訳 岩波書店 1974
この巻には、主人公のローラがたった15歳で教師になって、家族とも離れてつらい思いをしながらも仕事を全うするというエピソードがあります。私は苦しくて逃げだしたいような局面に遭遇するたびにこの本を思い出し、“ローラだってがんばったんだ”と思うことで乗り越えてきました。本にはそういう力があるということを確信できた大切な1冊です。
『草枕』夏目漱石著 新潮社 (新潮文庫、1950年版)
はじめは良く読みこなすこともできず、しかしその美しい日本語に酔ったようになりました。今に至るまで、ことあるごとに何度も何度も読み返しています。理想の日本の情景が、永遠にここにあります。
『だれも知らない小さな国』佐藤さとる作 村上勉絵 講談社 1969
物語の構成の妙や魅力的なキャラクターにも夢中になりましたが、おそらくこの本は、私にとって、はじめて心の琴線にふれた“恋物語”であったと思います。
取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。