本に親しむ環境を整えるべく「見えるところに本を置くこと」とはよく聞くところ。違わず家族がこれを実践したら…。
カワイイ図書館(図書箱)を家の前にオープンするほど本好きになった小5の男の子がいます。ノンフィクションライター・須藤みかさんが、全国の本好きキッズのお宅を探る好評連載の8回目です。
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大阪府在住 公立小5のミコト君は、小2の妹と2人兄妹。
このミコト君には本棚は3つある。
1つは勉強机横にあって、主に日本語の本。2つめはリビングにあって、英語の本が並ぶ。そして3つめは、家の前にあるミニライブラリーだ。
ミコト君は、1つめの本棚からお気に入りの本を取り出して待っていてくれた。
その数、10冊。
「ゴキブリって数億年前からいるんだよ。生命力があるんだ」
目次
動物好き。だから動物の本も好き。そして将来の夢につながって
そう言いながら、見せてくれたのは写真集『密怪生命』。怪しく不気味だが、美しい生き物たちの姿が切り取られている。著者の写真展も見に行ったそう。『死を食べる』も写真家によるもの。動物の死を通して命の尊さについて考えさせる。子どもたちに人気の高い「もしも?の図鑑」シリーズの『絶滅危惧種救出裁判ファイル』もあった。
動物に興味があるんだね。
ミコト君には夢がいくつかあって、そのひとつが「動物の写真を撮って写真集を出し、かせいだお金で、絶滅危惧種の大切さを伝えること」だそうだ。
本棚に並ぶ大人っぽいテーマの本…どうして?
ミコト君は、絵を描くのも大好き。
『HOKUSAI北斎』は、展覧会に行った時に買った。「展覧会を見た後はしばらく、毛筆の絵を描いていました。版画に取り組んだ時には富士山をテーマにしていましたね」と、母のユミさん。ほー、と、聞いていたら、北斎のとなりにあるのは…
な、なんと文楽!?
文楽とは、人形浄瑠璃文楽のこと。語りと三味線、人形遣いが三位一体となった伝統芸能で、大阪で生まれた。好奇心旺盛なミコト君のようだが、文楽とはなかなか渋い。
「夏休みの小学生向けの公演を見たのがきっかけです。
公演の合間に人形遣いの足遣いの体験をさせてもらったんですが、ほめていただいて…。もともと舞台芸術にも興味がある子なので、文楽も好きになりました。子ども向けの本が見つからなかったので、マンガなら分かりやすいなと思って買いました。子どもが興味を示したら、片っ端から(その興味の対象の本を)投入しています」
子どもの興味はすぐ消える。だから間髪入れず…
興味を持った時にすかさず、その興味の種を刺激する本を手渡す。これができれば、子どもは探求する楽しさを知る。とはいえ、子どもの興味は移ろってゆくもの。だから、時を逃さない。
『ビッグ・オーとの出会い』も『子ども君主論』も、
タイミングを見ながらユミさんが手渡してきた。
「赤ちゃんのころから、本を読んであげると泣き止む子でした。月齢よりも上の本をどんどん読んでいき、今では基本、なんでも読みますし、どこでも読みます。トイレでも読むし、シーツを替えようしたらバラバラっと出てきます(苦笑)。でも、気が向かなければ手にも取りません。
私は、釣りって言ってるんですけど、エサをまくように、家のあちこちに本を置くんです。ソファやテーブル、階段や床とか。その本を読んでれば、あ、食べたと思うし、本がそのまま置かれていたら、あ、釣れなかったな(笑)と思って、また別の本を置きます」
英語関係の仕事をする母親の影響もあり、英書にも?!
お気に入りの10冊のなかには、英語の絵本もあった。
『Last to Finish』(邦訳は、『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし』)。ミコト君は、英語で書かれた児童書も難なく読めるという。だから、2つめの英語の本棚があるのだ。
ユミさんは、予備校などで英語を教える。
1才の時にアルファベットの絵本が好きな様子を見て、英語育児をやろうと決めた。だが、母国語が大切だという気持ちは揺らがなかった。その時々で微調整をしながら、英語と日本語をバランスよく取り入れてきた。
「小学校に入ると、圧倒的に日本語の世界が多くなっていくので、英語力をキープするのは難しいと聞いていました。
ミコトの場合は、本を読むことが好きだったので、洋書にふれることで英語力をキープしているのではないかと思います」
家の前でミニ図書館をオープン!?
さて、3つめの本棚。
3年生のころ、ミコト君は学校まで行くけれど門をくぐれなくなった。ユミさんは悩み、考えた末に、ホームスクールという方法を選ぶ。
家庭にこもりっきりというわけでない。図書館に行ったり、喫茶店、ファーストフード店などでも勉強する。サポートしてくれるNPO団体から、米国などでは自宅でミニライブラリー活動が行われていることを聞き、ミコト君に話すと「やりたい!」。
英語で書かれた設計図をインターネットで入手し、理解するところからミコト君が自分で始めた。ホームセンターに何度も行っては材料を集め、電動ドリルの使い方を教わった。ハンダごての使用法は、電気街の町に出かけて聞いた。
ユミさんは、失敗しながらも挑戦する姿を見守るだけ。
そうして3年生の3学期、水色の三角屋根の本棚ができあがった。絵本など50冊をならべた。
「1才の子でも(扉を)開けられる高さにしました。
アンパンマンや迷路の本が人気かな。本はおもしろいからみんなにも味わってほしい」とミコト君。
イベントも時々行なう。
みんなで1冊の本も回し読みしたり、簡単なビブリオバトルをしてみたり…。現在、ミコト君はホームスクールを続けながら、学校にも通っている。
「超絶マイペースな子ですが、大好きな本を通して、人と交流することを楽しんでいるようです」(ユミさん)
ミコト君が幼いころ、好きだった本
『だるまさんが』『だるまさんの』『さるまさんと』作/かがくいひろし ブロンズ新社
『れいぞうこ』作/新井洋行 偕成社
『きんぎょがにげた』作/五味太郎 福音館書店
『おつきさまこんばんは』作/林明子 福音館書店
『ねんね』作/さえぐさひろこ アリス館
ミコト君のお気に入り10冊
『密怪生命』著/佐藤岳彦 講談社
『死を食べる アニマルアイズ 動物の目で環境を見る2』 著/宮崎学 偕成社
『絶滅危惧種救出裁判ファイル』著/大渕希郷 実業之日本社
『マンガでわかる文楽 あらすじから見どころ、歌舞伎との違いまで全部わかる』編/マンガでわかる文楽編集部 誠文堂新光社
『火色の文楽』作/北駒生 ノース・スターズ・ピクチャーズ
『ビッグ・オーとの出会い ぼくを探しに 続』 著/シェル・シルヴァスタイン/著 訳/倉橋由美子 講談社
『子ども君主論 きびしい社会を生き抜く人になる(齋藤孝の“こども訳”シリーズ)』監修/齋藤孝 日本図書センター
『Last to Finish A Story about the Smartest Boy in Math Class』著/Barbara Esham 絵/Mike Gordon Little Pickle Pr
『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし 算数障害を知ってますか?』著/バーバラ・エシャム 絵/マイク・ゴードン、カーラ・ゴードン 訳/品川裕香 岩崎書店
『rain forest』著/Thomas Marent Dk Pub
取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。