東京都・公立小学校6年「図鑑好き ユウイチ君」の場合【本好きキッズの本棚、見せて見せて!第5回】

「ウチの子、本の虫で(本が大好きで)・・・」

あ~こんなセリフ言ってみたい。

親にとって「本好きな子」は永遠の憧れ!?そして願いですね。

そこで、JPIC読書アドバイザーで小学生男子の母でもある、ノンフィクションライター・須藤みかさんにいろんな本好きキッズの本棚を報告してもらいます。

魚、さかな、サカナ 大~好き! なので、愛読書は「図鑑」!

イラスト/カラスヤマ ミライ

 

「コノシロは酢でしめて、セイゴは焼いたら美味しいって、教えてもらったから、みんなで作ってるんだ」

ある日の夕方。サエさんが仕事から帰宅すると、キッチンがなにやらにぎやか。息子のユウイチ君(小6)をふくめ男子5人がなんと、近くを流れる江戸川でとれたという魚を料理していた。

厨房に入るオトコの子たちとは、江戸川“釣りコミュ”

コノシロはコハダが成長したもので、セイゴはスズキの幼魚だそうだ。友だちのなかには普段から料理をしている子がいて、皆で協力しながら手を動かしていた。

4年生の夏休みの自由研究

 

ユウイチ君が釣りに目覚めたのは、4年生のとき。家族でハゼ釣りを体験して以降だ。その後は、お父さんに時折連れて行ってもらっていたが、6年生になると友だちとのほうが楽しくなり、毎週友だちと江戸川で釣りざおを握るようになった。毎週釣りに行くようになると、世代を超えた釣り仲間もできた。

「よく顔をあわせるようになったおじさんから、要らなくなったルアーをもらったり、釣り方を教わったり、この日のように釣った魚をもらったりするようになりました」

と、サエさん。お小遣いやお年玉も、釣具関係に消えていく…。

物語ではなく…好きなのは「アクティブ・ラーンニング」?

家族でハゼ釣りに出かけたのは、ユウイチ君がなによりも魚の図鑑が大好きだったからだ。図鑑から外へ飛び出し、体験から学ぶ。また図鑑に戻って確認をすることで、ユウイチ君は知識と経験を蓄えているのだろう。さらには好きなものを通して、人とのつながりも生まれている。

サエさんは、魚だけでなく、植物や動物、宇宙など、図鑑はひととおりそろえてあげたのだが、夢中になったのは魚だった。ユウイチ君が一番好きだという『図鑑NEO 魚』を見せてもらった。めくり過ぎて、本の綴じ部分である「ノド」が割れていた。見かねてサエさんは新版も買ったのだが、ユウイチ君には使い慣れたものに愛着があるようだ。

年季の入った『図鑑NEO 魚』はこの通りちなみにユウイチ君が最初に気になったのは深海魚のページ。 特に、リュウグウノツカイが好きだった。

「息子は図鑑派なので、全く物語は読みません。私とは脳の作りが違うのでしょうね。10才までに本好きの子どもにしたかったのですが、まるで宇宙人のようです。その代わり、魚の図鑑の知識には驚きます。どのページにどの魚が載っているのかもすべて頭の中に入っているみたいです」

魚について語りだしたら、その語りはとても熱く、そして止まらないのだという。

幼稚園児のときは「電車」好き。自分で選ぶのは「迷路」の本

サエさんは生後6か月のころから読み聞かせをしてきた。小さい頃に読み聞かせした絵本を並べて「覚えてる?」と聞いてみたが、ほとんど覚えていなかったと肩を落とす。

「男の子ってプラレール派かトミカ派に分かれるって言うじゃないですか。うちは、プラレール派。幼稚園のころは電車が好きでした。絵本で特に、何度も読んでと言われたのが『かもつれっしゃのワムくん』です。でも、彼にとってはストーリーよりも、それぞれの貨車についている記号が好きだったみたいです」

小さい頃、何度も読んでとせがまれた『かもつれっしゃのワムくん』

 

図書館へ連れて行っても、自分から選んだ本は迷路の本くらいだった。

「この子はいつになったら本を読むようになるのだろう。小学校に上がったら読むようになるかなぁと思っていましたが、読まないんですよね」

小学1年生の図書館で「さかなの本」デビュー!?

「でも、1年生の時、学校の図書館で借りて熱心に読んでいたのが・・・これです」

サエさんが差し出したのは、魚の本だった。『海のさかな』。嬉しくなって、すぐに購入した。

今も読まない「物語」系。でも楽しみに待つか…

ユウイチ君の現在の読書量は、月2冊。毎月2時間、読書の時間がある。だから2冊は本を読むのだ。手に取るのは、伝記や歴史の学習漫画。ユウイチ君の学校では1年に3回、読書週間がある。自分で読んでもいいし、読み聞かせをしてもらってもいいことになっている。この期間はなかば無理やり、サエさんは読み聞かせをするという。

読むのは、かこさとしさんの『地球 その中をさぐろう』『フィボナッチ 自然の中にかくれた数を見つけた人』などの科学絵本だ。

「先日、学校のおたよりのなかで教頭先生が『親は本をそろえてくれていたが、小学生の頃、本は全く読まなかった。ところが中学生になったら本を読むようになった。親に感謝している』といった内容の文章を書いていたんです。だからね、うちの子はいつ本を読むようになるかなと楽しみに待つことにしました」

1年生のころにユウイチ君が書いた魚の絵。サエさんの宝物だ。

 

ユウイチ君の学校では、お母さんたちによる絵本の読み聞かせが月2回、各教室で続けられている。ある1人のお母さんが「我が子のクラスで読み聞かせをしたい」と願い出たことから全校に広がり、20年になる。サエさんも読み聞かせメンバーの1人。ちょっと長めの絵本を選ぶことが多い。

子どもたちが物語の世界を楽しんでいるなと手応えを感じるのは、3年生なら『ジャックと豆の木』。4年生は『王さまと九人のきょうだい』、5年生が『1つぶのおこめ』、6年生は『西遊記』だ。

「メンバーは30人いるので、バラエティに富んだ選書になっています。この前、数えてみたら、子どもたちは6年間でおよそ300冊の絵本を読んでもらっているんです」

絵を見ながら聞いて感じて楽しむ絵本の世界。自分で読むのも楽しいけれど、読んでもらうからこそ楽しめる物語の世界もある。

「お母さんが家で読む練習をしているのも聞いています。僕は物語を読まないけど、読んでもらうのは楽しいかな」と、ユウイチ君。サエさんの思いは届いているようだ。

ユウイチ君が夢中だった本はこちら

【魚関連の本】

『小学館の図鑑NEO 魚』監修・執筆/井田齊 小学館

『海のさかな(絵本の図鑑シリーズ5)』作/渡辺可久 監修/広崎芳次 岩崎書店

 

『川のさかな(絵本の図鑑シリーズ13)』作/渡辺可久 監修/広崎芳次 岩崎書店

【幼稚園の頃好きだった本】

『かもつれっしゃのワムくん』文/関根 栄一 絵/横溝英一 小峰書店

【母が読み聞かせる科学絵本】

『地球 その中をさぐろう-(福音館のかがくのほん)』文・絵/加古里子 福音館書店

 

『フィボナッチ  自然の中にかくれた数を見つけた人』文/ジョセフ・ダグニーズ 絵/ジョン・オブライエン 訳/渋谷弘子 さ・え・ら書房

【小学校の読み聞かせ会で人気の本(3年生~6年生)】

『ジャックと豆の木』再話・絵/ジョン・シェリー 訳/おびかゆうこ 福音館書店

 

『1つぶのおこめ さんすうのむかしばなし』作/デミ 訳/さくまゆみこ 光村教育図書

 

『王さまと九人のきょうだい』訳/君島久子 絵/赤羽末吉 岩波書店

 

『西遊記』原作/呉承恩 文/唐亜明 絵/于大武 偕成社

 

取材・文/須藤みか
ノンフィクションライター。長く暮らした中国上海から大阪に拠点を移し、ライターとして活動中。現在は、「子どもと本」「学童保育」など子どもの育みをテーマにしたものや、「大阪」「在日中国人」「がん患者の就労」について取材中。東洋経済オンラインなどに執筆している。著書に『上海ジャパニーズ』(講談社+α文庫)他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。地元の図書館や小学校で読み聞かせやブックトークも行っている。JPIC読書アドバイザー。小学生男子の母。

※学年は取材時のものです。

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