きょうだいげんか、どのように対処していますか? 親としてなかなか冷静に対処できない場面も多いはずです。今年は家族だけで過ごす時間も長くなりそうですので、子ども同士がけんかをする回数も多くなるかもしれません。
そこで今回は、元富山短大付属みどり野幼稚園の園長にして、現在は富山県幼児教育センターのスーパーバイザーを務めるなど、幼児教育の専門家である青山仁先生に、きょうだいげんかの考え方や対処法を聞きました。
きょうだいげんかができる環境に意味がある
――今日はお忙しい中、ありがとうございます。今回聞かせてもらいたい内容は、きょうだいげんかです。
わが家(インタビュアー/坂本)にも3歳と6歳の娘が居るのですが、下の子が自己主張できるようになってきたせいか、けんかが目立つようになりました。むしろ『すごいな』と感心してしまうくらい、エネルギッシュに全力でけんかをする日もあります。普段、友達と遊んでいる姿とは、別人になるわけです。
ここまで感情をむき出しにできる瞬間は他にないので、いい経験のようにも思えてしまうのですが、そもそもきょうだいげんかには、成長の過程でどういった役割があるのでしょうか?
青山(敬称略・以下同)「幼児にとって、きょうだいげんかは、親以外の一番身近な人との人間関係におけるぶつかり合いだと言えます。1歳半以降から『イヤイヤ』の強情が始まり、自我の芽生えにより、一般的に親に対しても反抗的になります。
この時期あたりから、兄や姉に対しても自己主張を繰り返すようになりますから、当然けんかも多くなります。上の子と年齢があまり離れていない場合は、お互いの自己主張がぶつかり合い、激しいけんかとなるケースもあります」
――まさに、わが家のパターンですね。確かに5歳、6歳ときょうだいで年齢が離れていると、大きなけんかにはならないという話を、他の子育て世代の人たちから聞きます。
青山「3歳までの自己主張は、相手とのやり取りを通じて自分の存在意義を確かめる意味があります。自分を知り、相手の存在を意識し始めるわけです。幼児期の成長過程において、このぶつかり合いはとても大切です。身近だからこそ、兄弟姉妹には自分を主張しやすいので、意味は大きいと思います」
成長に応じての変化を見守って
――わが家の場合は、下の子に自分の考えや意思が出てきて、上の子からすれば思う通りに動かなくなってきたので、けんかに発展するケースが多い気もします。この先、きょうだいげんかにはどのように変化していくのでしょうか?
青山「一般的に子どもは、保育園や幼稚園など集団の場で相手とのぶつかり合いをたくさん経験しながら、相手の考えや思いを理解できるようになります。なので上の子に関しては、間もなく『お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから我慢する』という気持ちの切り替えが上手になり、下の子の面倒を見たり、優しく対応できたりするようになるはずです。
下の子どもに関しては、3歳を過ぎると、相手の思いに少しずつ目を向けられるようになってきます。言葉を使って自分の思いを伝えたり、行動をコントロールしたりできるようになります。
もちろん、引き続き自分の思いを通そうとする行動は、身近な兄弟姉妹に対してだからこそ双方に見られるでしょう。しかし、周りの人の指摘や注意、これまでの自分の経験などから、どうしたらいいか考えて葛藤したり、我慢したり、気持ちを切り替えて対応したりする姿が、きっと見られるようになります」
――壮絶なきょうだいげんかを前にうんざりしている家庭があったとしても、先にはそんな未来が待っているのですね。そうした希望を持てるのなら、確かにもう少し粘り強く対処できるかもしれません。
けんか予防の特効薬はない
――とはいえ、目の前の問題にも目を向けたいと思います。壮絶なきょうだいげんかを前にすると、無用なきょうだいげんかは避けさせたい、予防したいという本音が多くの保護者にあると思います。
そこで伺いたいのですが、日ごろからきょうだいげんかを予防する方法や工夫はあるのでしょうか?
青山「結論から言えば、日ごろの良好な親子関係が、重要になってくると思います。親との良好な関係が保たれていれば、兄弟姉妹双方の関係も、自然に良好になるはずです」
――つまり、兄弟姉妹の仲の良さは、日ごろの親子関係に大きく影響されるという話ですね。
青山「きょうだいげんかは、双方の自己主張がぶつかるために起きます。日ごろから親が子どもの自己主張を受け止め、子どもの考えを大切にしながら対応しているのであれば、その姿勢がお手本になります。子ども自身の自己肯定感も保たれ、安定した気持ちで遊べるようになります」
親の理解が子どもの安心感に
――ちょっと耳の痛い話ですね。
青山「確かに理想論ではありますが、子どものわがまま、好ましくない行動に直面しても、頭ごなしに否定するのではなく、日ごろから子どもの思いや気持ちをまずは受け入れてあげられるといいですね。
受け止めた後は切り替えて、諭すような対応ができるといいと思います。子どもは自分の思いや気持を理解してもらえると、大きな安心感を得られます。
プラスして、兄弟姉妹で仲良く遊んでいるときに褒めてあげたり、親子で話し合って家庭内のルールを決めたりすれば、有効に働く場合は多いはずです。ただ、こうした心掛けも長い時間を必要とします。けんか予防の特効薬はないように思います」
けんかの対処法
――けんか予防の特効薬はない、確かにその通りだと思います。とはいえ、どれだけ親子で良好な関係を心掛け、日ごろから仲良く遊ぶ子どもたちを褒めても、けんかは必ず起きると思います。現実問題としてけんかが目の前で起こったら、親としてどのような態度で臨めばいいのでしょうか?
青山「おっしゃる通り、幼児期における自己主張のぶつかり合いとしてのけんかは、当然起こります。だからこそ、当然起こると思って、大きく構えていればいいのではないでしょうか?
目の前でけんかが起これば、親としては原因を探って、白黒を付けたくなるはずです。けんかしている行為自体を否定したくもなるはずです。もちろん、手を出し合うようなけんかは、ある程度静止も必要かもしれませんが、親としてはお互いの思いや気持ちを聞くだけの冷静さを常に保ちたいです」
小さい子には親が「代弁」してあげる必要も
――お互いの思いや気持ちを聞くとは、具体的にはどうすればいいのでしょうか?
青山「幼い子どもは、言葉での表現が未熟です。親が代弁し、お互いの気持ちを聞き出して、兄弟姉妹の間で相手の気持ちが伝わり合うように間を取り持ちたいです。相手の気持ちや思いにそれぞれが気付くようにした上で、どうすれば良かったのか、一緒に考えるようにします。
ただ、自我の形成期に当たる3歳前後くらいの子どもの場合は、先の行動を予測して言葉で伝える力が十分ではありません。親が選択肢を準備して、自分で好ましい行動を選べるよう導いてあげるといいです」
――選択肢を準備するとは、具体的にどういった声掛けになるのでしょうか?
青山「おもちゃの取り合いでけんかが起きた場合は、『もう少し遊んでから貸してあげる? それとも今すぐ貸してあげる?』などの言葉になります。
逆に上の子が5歳くらいの場合は、下の弟、妹に対して『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』という意識を持てるようになっています。上の子については、少し間を置いたり、我慢できた姿を褒めてあげたりしているうちに、気持ちを切り替えられるはずです」
――確かに3歳前後の子どもに問い詰めても、黙ってしまったり、うまく言えなくて泣いてしまったりというケースが多いです。選択肢を示して、選ばせてあげればいいのですね。ちょっと試してみたくなりました。このスキルが身に付く前に、子どものほうが先に成長してしまいそうですが。
親子がお互いから学び合って成長していく
――ちなみに、青山先生にはお子さんはいらっしゃいますか?
青山「はい。3人の娘がおります。もう大きくなって、それぞれに好きな道を歩んでいますが」
――青山先生が子育ての真っ最中だったころ、今教えてくれた考えや姿勢を実践できていましたか?
青山「それが、できませんでした(笑)園の子どもなら笑って見守っていられる場面でも、自分の子どもとなると話は別です。その意味で、理想ばかり言ってしまったようにも思います。
ただ、子育ても保育も、正解は容易には見えません。その中で、親子がお互いから学び合って、成長していくのだと思っています。年度単位でしか子どもとかかわれない幼稚園教諭や保育士などと違って、親はもっと長い時間を掛けて子どもと生きていきます。
その瞬間、その瞬間では理想と違う言動をとってしまったとしても、長い目で見て理想に近い形で子どもを導いてあげられればいいですね」
――今日はとても分かりやすい話をありがとうございました。
きょうだいげんかの根っこには親子の関係がある
幼児教育の専門家である青山先生でも、自分の子どもとなると理想通りの対処ができなかったという話は、子育ての真っただ中で日々奮闘している多くのパパ・ママにとって、救いになる情報だと思います。
きょうだいげんかの根っこには、良好な親子関係があるかどうかが問われる、この課題には、今日は駄目でも明日、明日は駄目でもあさってと、長い目で見て取り組んでいけるといいですね。
お話を伺ったのは…
青山 仁
元富山短大付属みどり野幼稚園園長。現在は富山福祉短期大学で非常勤講師、富山県幼児教育センターのスーパーバイザーを務める。
構成・文/坂本正敬 写真/繁延あづさ、写真AC