「子どものケンカ」を親の問題にしていませんか?【保育者歴46年・柴田愛子さんの教え】

目の前で子ども同士がケンカをはじめたら、あなたはどうしますか? 止めに入りますか? 見守りますか?

幼稚園や保育園でケンカをして、子どもがケガをして帰ってきたらケガをさせた親に謝ってほしいと思いますか?

そのつど悩む、子どもの「ケンカ」への対応について、ベテラン保育者であり、ロングセラー絵本『けんかのきもち』の作者でもある柴田愛子先生にうかがいました。

子どもはケンカで自分の気持ちの表し方や心を開くことを学びます

子どものケンカを親の問題にしていませんか?

子どもたちがケンカをして、相手の子がケガをしたと報告すると、「やられた側だったらどれだけ気が楽か」というお母さんは多いですね。「ケンカはしたほうがいい」と頭ではわかっていても、ホンネは「ただし、相手のお母さんに謝らなければいけないような状況は起こさないで」という条件つき、ということのようです。お母さん自身がケンカをあまりせず、言いたいことを言わないまま大人になったのではないかな。

「ケンカは大事」と言うものの、結局は人と衝突することがないようにしたい、と周囲を気にしているから、子どものケンカも心配なのでしょう。

子どもたちに「ケンカが好き?」と聞くと「好きなんじゃないよ。ケンカになっちゃうんだ」と言うのです。そして、「よく知っているやつとする。仲がいいとする」とも言います。「知らない人とはこわくてできない」そうです。気持ちをありったけ発散して、泣いたり負けたりしてすっきりするんでしょう。どんなにやり合っても子ども同士は案外ケロッとしていますよ。

「ケンカ」はしたほうがいいと考え、「親の出る幕ではない」と思うときは、相手の親に理解してもらえなくても、自分の気持ちを貫く勇気を持ってほしいです。それが、親の考えや姿勢を子どもに見せることにもなるのですから。親同士の関係ばかりを気にしていると、周囲の価値観にひきずられることになり、いずれ、子どもはホンネの見えない親の言うことを信用しなくなりますよ。

ケンカをして多少のケガをしたとしても「お互い様ね」と、親同士笑い合えたらどんなにいいでしょう。

「治るケガは心の栄養」ケンカが子どもを成長させます

幼児のうちは、ケンカをしても、子どもはそのときの体力に見合うケガしかしないもの。

私は入園時に、お母さんたちに「治るケガは心の栄養」と話します。ケガを喜ぶわけではないけど、心も体も傷なくして子どもが成長することはありません。

園でケンカが起きると、まず一対一か、素手か、近くにケガにつながるものがないかを確認し、両方がやる気があるなら見守ります。片方にやる気がないと見たときは止めます。そして、ケンカが終わったら、すぐに事情を聞いたり、謝らせたりはしません。気持は徐々におさまりますからね。

私が怒るのは人として許せないことをしたとき。たとえば複数でひとりを攻撃しているとき。ウソをついたとか人の物を盗んだことが原因のとき。それらが発覚したときは、理屈ではなく、とにかく怖い顔をして、ガツンと怒ります。価値観や規範意識の基礎は、5~6歳までに身につくのです。この時期に悪いことは悪いとはっきり体にしみこむ体験をするべきだと、私は思っています。さらに言うなら、小学校低学年までの子どもたちは、頭ではなく、心で生きているんです。言葉や理屈でわからなくとも、大人の気迫や涙で表された本当の怒りや愛情は伝わるものだと信じています。

どうして人を殺したらいけないの?

以前、小学校の高学年を対象に、話をした時「どうして人を殺したらいけないの?」と尋ねたら、大半の男の子が「だって、お母さんが泣くもん」と答えたんです。これにはびっくりしました。5~6年生になってもまだ、理屈ではなかったんです。幼い頃、自分が悪さをしたときに見た、お母さんの怒った顔や悲しんだ顔が、子どものストッパーになるのですね。

 子どもが人の気持ちを考えられるようになるには、たくさんのいざこざや体験が必要です。幼いときにケンカのルールや力加減を知ること、心をぶつけあって、修復していくケンカ体験は心身を練る大事な機会。「ケンカができてよかった」。そういう気構えで子育てができる親でいましょうよ!

『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)

教えてくれたのは

柴田愛子|保育者・自主幼稚園りんごの木代表

保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。子供の気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて半世紀。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。親向けの最新刊に『保育歴50年!愛子さんの子育てお悩み相談室』(小学館)がある。


所収/『edu』2012年4月号  写真/繁延あづさ

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