授業だけが学びじゃない。東京都八王子市立弐分方小学校の「特別活動」で、生徒も親も先生も変わった!

子供が毎日通う小学校。できれば楽しい学校生活を送ってもらいたいですよね。ではどうしたら、子供がいきいきと過せる学校を作れるのでしょうか。

学級崩壊、髪を染めた子、給食費の滞納、モンスターペアレント……東京都八王子市立弐分方小学校校長 清水弘美さんは、着任当初、誰もが避けたいと思うそんな問題だらけの学校の現状に愕然とします。

そこから5年をかけて教師・児童・保護者の意識改革を促し、地域からも愛される学校づくりを実践してきました。その方法はいまや日本国内を超え、モンゴル・エジプト・インドといった世界の国々から視察に訪れるほど。清水さんの著書『特別活動でみんなと創る楽しい学校』には、その5年間が記録されています。

授業だけじゃない、学校で過ごす時間「特別活動」を積極的に活用

子供の自主性を伸ばす“特別活動”の取組とは?

1日のうち8時間近くを過ごす小学校では、国語や算数といった授業以外の時間を特別活動(特活)と呼び、子供の自主性を伸ばしたり、他人と協力し、思いやる気持ちなどを学ぶための時間にあてています。

休み時間や給食当番、クラブや委員会活動など、「授業以外の学校生活のすべてが学びの時間であり、特活である」。清水さんはここに目をつけ、教師と児童・保護者の意識を変えてゆきました。

教師・保護者の意識を変えるために発行し続けた自作ペーパー

学級運営の方法は各教師に任されていることが多く、具体的な技術を知らない教師もいるのだそう。そこで清水さんは、教師には“子供を中心とした特活のハウツー”をプリントにし、特活の方法を共有する工夫を始めました。保護者には“問題を示して注意しても意に介さない保護者のエピソード”をフィクション仕立てで切り込んでいく『親ばかのすすめ』というタイトルのプリントを発行し続けます。

校長の人となりが垣間見える、『親ばかのすすめ』は保護者からの評判も上々で、のちにオープンな関係を築くきっかけにもなりました。

教師に特活的意識を根付かせるべく発行を続けたハウツープリント『聴耳』

 

保護者の意識改革を図った『親ばかのすすめ』通信

 

校長であっても上から指示するだけでなく、自ら行動する清水先生。アプローチは児童へも向けられます。

 

休み時間の体育館で突然踊りだす校長。そのムーブメントは学校から地域へ!

清水先生は全校児童を対象に行動を起こします。おりしも54年ぶりに東京で国体が開かれることになり、そのマスコットキャラクター、「ゆりーと」をイメージしたダンスを踊ることにしたのです。

 

休み時間の体育館の舞台で一人、DVDをかけながら踊り始めた先生を見て、「校長先生、なにをやっているのかな?」とのぞきに来た児童に「一緒に踊ろうよ!」と声をかけ続けると、何となく楽しそうな様子に児童が集まってくるようになりました。この「楽しそう」という雰囲気が特活ではとても大切なのだと清水先生は言います。

 

中にはダンス好きな子もいて、「上手だから上がっておいで」と舞台に上げてほめます。練習を認められると嬉しい気持ちになり、参加する児童はどんどん増えました。そうして慣れたところで「秋の運動会でもやりますよ」と発表。授業外の時間で全体練習を開始するという「特活」が動き始めたのです。

 

練習では児童会の子を集め、「子供が中心となって全校で行うので、あなたたちが軸になってやってくれるかな」と自主性を促す一方、町内の老人会や夏祭りで、「運動会で踊りますからぜひ一緒にどうぞ」と子供たちに広報活動をさせ、地域にも学校の教育活動をアピールしてゆきました。さらには地元メディアに通知し、取り上げてもらうことにも成功。国体というチャンスを逃さずに活用できた結果です。

メディアに載ったことで注目を集め、運動会には多くの人が訪れました。この取組をきっかけに八王子市長が挨拶をしたり、国体のマスコット「ゆりーと」も来校して大反響。ダンス披露では頑張った子供たちを思い切り目立たせ、達成感を味わわせることも忘れません。子供たちはこうして主体的に動くことの醍醐味を肌で感じ、楽しんで行動する喜びを学んでゆきました。

 

このようにして始まった校長発信の特活は大成功。教師もその手腕に学ぶことは多かったに違いありません。自主的に勉強会を開いて学び合うようになった教師陣、自ら考え行動するようになった児童たちの様子に、保護者も理解を示し、協力的になるという好循環が生まれます。

この他にも、たてわり班で異年齢交流を続ける意味や、子供が活躍できる授業の工夫など、元気な学校、活気のある学校は教師・児童・保護者、そして地域全体で作り上げていくものだということがわかるこの本。どんなに問題があっても、逃げずに向き合い、自ら動くことで周りを巻き込んで良い結果を生み出す行動力、そして周りを変えた清水さんの熱意は、保護者も大いに学ぶところがあると言えるでしょう。

『特別活動でみんなと創る楽しい学校』清水弘美・著

profile

清水 弘美(しみず ひろみ)/東京都八王子市立弐分方小学校校長

特別活動を柱にした教育活動により、学級崩壊のない学校づくりを実現。2016年には、弐分方小学校にモンゴル、エジプトなど各国の教育者が視察に訪れ、「特別活動」「日本型教育」のモデル校として新聞各紙で大きく紹介され、話題となった。著書 教育技術MOOK『みんなでできる! 心がまとまる! 集団行動の指導法』、教育技術MOOK『台本選びから演技指導・演出法まで 学芸会の指導~成功への道筋~』(小学館)。

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