「人工流れ星を作る!」2児のママが宇宙への夢に挑戦中の物語

夜空に一瞬の輝きを放つ流れ星。その美しい煌めきを、人工流れ星として誰も楽しめるエンターテイメントにするという壮大な計画が今、着々と実現しようとしています。高度約400キロメートルの人工衛星から「流れ星のもと」となる数百発のビー玉大の球を放出。大気圏で燃え尽きた球が流れ星となり、半径約100キロのエリアの夜空を彩らせる『人工流れ星プロジェクト』。2年後の初夏には広島・愛媛を中心に宇宙から降り注ぐ人工流れ星が楽しめそうです。

そんな人工流れ星を開発しているのが『株式会社ALE』代表の岡島礼奈さん(39歳)。東京大学出身で二児のママでもある岡島さんはいったいどんな子ども時代を過ごしたのでしょう? 

独創的なアイディアを夢から実現までの一歩へと近づかせるまでの道のり。そこには、果てなき好奇心と自然とともに生きる喜びがありました。

Q 小さい頃はどんな子どもでしたか? また、どんな遊びをしていましたか?

生き物に夢中な子供時代。豊かな自然に囲まれて毎日泥んこに

庭の土いじりをするのが大好きな子でした。近所に住む祖母の家にある家庭菜園の隅っこでオジギソウを植えさせてもらったり。
自然に恵まれた環境に育ったため、春夏秋冬、季節ごとにいろんな遊びを見つけては楽しんでいましたね。休みの日になると両親が海や山へと連れて行ってくれました。普段の日は田んぼや畑、山や川が遊び場。小学生の頃は虫が大好きで、昆虫採集をするのが日課でした。男の子に交じってよく虫やザリガニなどを採ったものです。
そうそう、河原に白鳥が巣を作っていたことがあって・・・。「いま、白鳥が卵を温めているから観に行こう!」ってみんなで行ったんですが、親鳥が怒っちゃって全然見れなかったなんてこともありました。
生き物が好きだったので、テレビでは毎週、『生きもの地球紀行』(NHK総合)を欠かさず観ていましたね。当時は本気で「ムツゴロウさんになりたい!」って思っていたほど。ムツゴロウさんのようにいろんな動物と一緒に暮らすのが夢でした。

Q 得意だった科目、苦手だった科目は?

理科と算数は好きだったけど、体育は大嫌い!

得意なのは理科と算数。大好きでした。反対に苦手だったのは体育。私、小学校低学年までは足が速かったんですけど、高学年になってからどんどん周りに抜かされていくようになっちゃったんです。それで嫌いになりました。

あとは球技が絶望的にダメで・・・。球をうまく投げられないわ、取れないわ。しかも、ぶつかるのも痛い。先日、子供が通う小学校のPTAで大人のドッチボール大会があったんですけど、苦痛でしかありませんでした(笑)。しかも、ぼーっとしていたら頭にボールが当たっちゃって、もうイヤ~って(笑)。

Q 苦手な体育を克服しようとは思わなかった?

苦手なことを無理に頑張らず、好きなことにはとことん没頭しました

体育って無理して克服できるもんじゃないなと思ったんです。頑張っても100メートル走を何秒台とかで走れないやって。私には体育の才能はないんだなって早々に諦めちゃったんです。でも、逆にそれが良かったのかなと。両親からもとくに何か言われたりすることもなく。「パパとママの子供だから運動神経が無いのはしょうがないな」っていう感じでしたね。

ちなみに私、小学校の頃は決して優等生ではなかったんですよ。成績は良いんだけれど、鼻水は垂れてるし、洋服の裾は出てるし。忘れ物も多い子でした。学校にランドセルを忘れて家に帰って来ちゃったこともありましたね。
ですから自分がなんでもできるっていう自信に満ち溢れていた子でもなかったんです。でも、好奇心は旺盛。「なんで? どうして?」と思うことは親に聞いたり、本で調べたり。好きなことにはとことん没頭するタイプではありました。

Q 宇宙に興味をもったきっかけは何だったのでしょう?

アインシュタインにはなれなくても、研究に携わることならできる

中学生の時、アインシュタインの『相対性理論』のマンガを読んでからですね。小学生の頃にも本は持っていたのですが、当時はあまりよくわからなかったんです。それが中学生になってわかるようになってきたら面白くって。「宇宙って想像を超えたところにあるものなんだ」と興味を持ちはじめました。同じ時期にホーキング博士やニュートンの本も読んで、ますます宇宙への関心が高まりました。

中学時代、なりたかったのは理論物理学者。アインシュタインやホーキング博士に憧れていました。ただ、アインシュタインは「特殊相対性理論」を14才の時に出しているんですね。同じ年でも私は全然、理解できない。でも、研究に携わることなら何かしら出来るんじゃないかなと思ったんです。それで「東大なら研究がいっぱいできる」と東大進学を目指し、運良く天文学科を専攻できました。

Q 人工流れ星を作るまでの経緯を教えてください。

みんなで見上げたあの流星群を人の手で再び…

中学生時代には自分が流れ星を流すなんて思ってもみませんでした。そういえば、小学生の頃も自由研究では植物を課題にしたことはありますが、星に関することは研究材料にしたことがなかったですね。星ってそこらへんにあるって思っていたので。ただ、本を読んで宇宙のことがわかるようになるにつれ、「ああ、あれってこのことなんだ」と星に繋がって、それからは空を見上げるのが好きになりましたね。
なんとなく、「流れ星を作れるんじゃないか」と思うようになったのは、大学に入ってから。天文学部の仲間たちと一緒に「しし座流星群」を観たんですが、その時、雑談で「流れ星って実は塵なんだよね」(※流れ星とは/宇宙空間にある塵が地球の大気に衝突すると光を放つ現象)という話になったんです。「塵なら人工的に作ることもできるんじゃないか」と。この経験を何かに活かすことができたらいいなと思いました。

リーマンショックを期に、金融から宇宙ビジネスへ

その後、投資会社に就職しましたが、09年にリーマンショックを期に退職。会社も辞めたし、ゆとりもできたので本格的にプロジェクトを起ち上げ、事業化することになりました。ちょうど第一子を妊娠していた頃。「やりたいこと」を産後も続けていくためには復帰後も子育てをしながら伸び伸びと無理なく働ける場所を作っておくことも大切かなと思って。
もちろん、流星群の美しさや楽しさに魅了されたことがなによりもの原動力です。実は大学時代に「しし座流星群」を観るまで、流星群をちゃんと見たことがなかったんですよ。流星群を観ることの楽しさを知って、翌年は地元・鳥取で「ペルセウス座流星群」を観ました。その時は姉と高校時代の友達たちと砂丘に寝っ転がりながら見たんですけど、「まだかな?」「もうすぐ流れてくるよ」「いまの見えた?」ってみんなでワイワイしながら。楽しかったですね。そんな風に同じものをみんなで見て会話をする空間が流れ星プロジェクトでも実現できたらいいなと考えています。

Q 流れ星プロジェクトは、どんな楽しみかたができますか?

あたりまえにあるモノやコトに発想の種を撒いていく

楽しみ方はたくさんあります。例えば、音楽フェスティバルや船上、バーベキューをしながらキャンプ場で。お祭りや花火などはありますが、夜のエンターテイメントでは子供と一緒に楽しめるものってまだまだ少ない。科学館と連携して宇宙の話を聴いている間に何回か流れ星を流すなんてことも、機会があればやってみたいですね。ナイトミュージアムだったりナイトサファリなど、親子で楽しめるものも実現するといいなと思っています。
天然の流れ星は3つ数える間もなく、あっという間に見えなくなってしまいますが、人工流れ星はゆっくりと長めに流れるので一緒にお願い事をすることもできますよ(笑)。親子で観てもらって、宇宙について関心を深めるきっかけになれば嬉しいですね。
とくに子供たちには「きれいだな」ってことも感じてもらいたいのですが、「なんでこれができるんだろう?」という好奇心や探求心をもってもらえたら。宇宙に限らず、身近なものでもいいんです。人工流れ星を通じて、固定概念にとらわれずにいろんな発想を展開させられるようになったら楽しいなと思いますね。

Q お子さんと宇宙について話をすることはありますか?

自宅には宇宙に関する絵本や図鑑を置いて・・・。子供たちが興味を持つまでじっと待ちます(笑)

小さい頃から宇宙関連の絵本や図鑑をたくさん買って家に置いているんです。意図的に(笑)。けれど、やっぱり子供たちはゲームとかYouTubeの方に興味があるみたいですね。
ただ、宇宙のことを嫌いになられたら嫌なので、あえて無理強いはしないようにしています。
長男は私が流れ星を作ろうとしていることは知っています。それで気を遣ってかどうかはわかりませんが(笑)、「月ってこうなんだよね」とか、本で読んだ知識を私に教えてくれますね。私は月のあたりだとあまり知らないことも多いので、長男に教えてもらって「へ~っ! そうなんだ」ってこともちょいちょいあるんですよ。
次男はいまのところ動物のほうが好きなようです(笑)。ようやく、ここ最近かな? 次男も飛行機あたりまで興味がちょっと宇宙の方に近づいてきたから、もうちょとだーって(笑)。

Q 小さいお子さんに科学の話をしたいけれど、ちょっと難しい。どんなところから始めればいいのでしょう?

「なんでだと思う?」一緒に考えながら科学への興味を膨らませる

私もちゃんと説明できないんですよ。「花火ってなんでこんな色になるの?」って聞かれても、「炎色反応だよ」って答えちゃったり・・・(笑)。
でも、お手本に学ばせてもらいたいなっていう方がいらっしゃって。昆虫ガイドツアーの先生なんですけれど、その先生の導き方がとてもうまいんですね。例えば、子供たちが虫をみつけてくるとしますよね。「これ、なに?」って。それがカブトムシだった場合でも、「この虫はこの花のここを食べてるんだね」とか、その虫の特徴や生態についてヒントを与えることはするけれど、「カブトムシ」という答えをすぐに言わない。「どう思う?」って子供たちと対話をしながら最後に虫の名前を教えるんです。

科学って「どうしてだろう?」「なんでだろう?」っていうところがスタートするので、その先生のように、まずは「なんでこうなってるんだろうね?」って一緒に考えながら観察したりするのがいいかもしれませんね。

Q 今後、やってみたいことは?

抜けた歯を流れ星に詰めたり。流れ星が身近な夢になるように

小学生になると乳歯から永久歯に生え変わるじゃないですか。その乳歯を流れ星に詰めて流してみたいなっていうのも1つありますね。昔からの迷信に「上の歯は縁の下、上の歯は屋根より上に投げると丈夫な歯が育つ」といわれていますけど、しっかりした歯が生えるように(笑)。人工流れ星では粒子の成分を変えることで色を変えることができるんですけど、歯はカルシウムなので、橙赤色になるかなとは思うんですが。
宇宙にも行ってみたいですね。月とか火星よりももっともっと遠く、太陽系じゃない惑星の不思議な生態を見てみたい。地球上では絶対にいないような生き物や植物ってどんなものなんだろう? って、そんなところは子供の時から変わっていないかもしれませんね。

岡島礼奈さん 『株式会社ALE』代表
‛79年生まれ。鳥取県鳥取市出身。東京大学理学部天文学科卒業。同大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号を取得。ゴールドマン・サックス証券戦略投資部に入社。‛11年、人工流れ星による宇宙エンターテイメント会社『株式会社ALE』設立。‛18年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型ロケットを使っての人工衛星初号機打ち上げを予定。19年、広島にて人工流れ星の光を楽しめるイベントを開催予定。

岡島さんの流れ星プロジェクト企画は発売中の『小学8年生』にも掲載中です!お子さんが宇宙について考えるきっかけになるページになっています。そちらもぜひご覧ください!

 

取材・文/加藤みのり

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