「じゅず」は、なぜ「数珠」という漢字を書くの?【知って得する日本語ウンチク塾】

「数珠(じゅず)」は高校以上で学ぶ、常用漢字の「特別な読みの言葉」の一つ

実は「じゅず」という語が定着したのは。近世になってからなのです。

それまでは、「ずず」「じゅじゅ」などとも呼ばれていました。そのため漢字表記も、「数珠」の他に、「誦珠」「念珠」「頌数」などがありました。

あの一休さん(一休宗純)は、『一休仮名法語』という禅の立場から仏道修行の心構えを説いた書物の中で、「珠数」と書いています。一休さんには、こう書いた方が自然に感じられたのでしょうか。

明治の文豪も「珠数」と書いていた

近世以降、「数珠」という表記は次第に定着していきますが、「珠数」という表記がすたれたわけではありません。明治以降も、読みは「じゅず」ですが、「珠数」の表記は残りました。森鴎外、幸田露伴、泉鏡花、谷崎潤一郎などといった作家たちも、そう書いています。

昔の人もこのように混乱していたのですから、われわれが迷っても許してもらえそうな気がしますが、残念ながら現在は「珠数」は認められていません。「常用漢字表」の「付表」に、「数珠」の表記が示されているからです。

「付表」には、「友達」「二十歳」など、2字以上の漢字が結び付いて特別な読み方をする言葉が示されており、「数珠」は、高校以上で習う言葉として扱われているのです。

 

記事執筆

神永 暁|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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