子どもの心を強くする「レジリエンス」の育て方。困難を乗り越える力をつけるために親ができることは

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長引くコロナ禍で先の見通しのたたない今、大人だけでなく、子どもたちもストレスにさらされています。実際に子どもたちの精神疾患は、世界各国で増加傾向にあるといわれています。そこで注目されているのが、ポジティブ心理学をベースにした「レジリエンス教育」です。そもそもレジリエンスとは、どういう意味でしょうか。またレジリエンスを高める方法とは。レジリエンス教育にくわしい、一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事の足立啓美さんにお聞きしました。

日々の親の声かけが、子どもに回復する力「レジリエンス」を育みます

「なるべく子どもには、困難のない幸せな道を歩んでほしい」、親なら誰もが願うことですが、現実の人生は、失敗やピンチ、ストレスなど山ほど困難があって、それを避けることはできません。今もまさに、そのような事態に直面しているといえます。

そんな中にあって必要なのは、困難を避けるのではなく、困難にあっても、それを乗り越えて、そこから回復する力。その力こそが「レジリエンス」です。

レジリエンスは、親が与えるものというより、子どもが自分の中で育てていく子ども自身に備わる力です。イギリスや日本で行われたレジリエンスを育てる教育プログラムの実践研究では、レジリエンス教育を実施することにより、レジリエンスが向上することに加えて、自尊感情や、「自分ならやればできる」という自己効力感が向上するという結果が得られました。また、よい人間関係が築けるようになる、など対人関係においても、良い影響があることがわかっています。

子どもにレジリエンスを育てる声かけとは?

では、子どもたちは、どうやってレジリエンスを育てていけばよいのでしょうか。そのカギを握るのは、親の日々の「声かけ」です。親の適切な声かけは、子どものレジリエンスを育てる力をサポートし、親子のコミュケーションの質を高めます。事例にそって、声かけのポイントをご紹介しましょう。

【事例1】友達から、イヤなことを言われて泣いて帰宅

子どもが友だちから「いやなことを言われた」と泣きながら帰宅したとき、親がこんなふうに声をかけました。〇か×、どちらでしょうか。

「気にしない、気にしない、そんなの友だちじゃないよ」

この声かけは「×」です。

まず、子どもの気持ちに寄り添う言葉を

まず、子どもが「いやなことを言われた」ことに対しては、「気にしない」と気持ちをスルーせず、「いやだったね。それは辛いよね」と子どもの気持ちに寄り添うことが大切です。相手がどんな気持ちになっているのか、感じることによって理解することは「共感」と呼ばれ、「共感」されることで、相手は「理解された安心感」を得ることができます。子どもが安心感を得られたところで、具体的な解決策や、今後の対策について話し合うとよいでしょう。ただ、話をするかどうかは、子どもの考えや思いを尊重しましょう。子どもがすぐに話したくない場合は、「いつでも話を聞くよ」と伝えておくことが大切です。

正解の声かけはこちら。

「そっか、それはいやな思いをしたね…。そのことについていま、話したい?」(しっかりと子どもの様子を見て感じる)

 

【事例2】子どもが自信を失っているとき

自分にはいいところがない、何もうまくいかない、と子どもが自信を失っているときに、親がこんな声かけをしました。〇か×、どちらでしょうか。

「そんなことないよ。あなたは英語のテストでいつも1番だし、自信をなくさなくても大丈夫」

最初から否定しない。人と比べない。

これも「×」です。

最初から「そんなことないよ」と否定するのはNG。まず「うまくいかなくて自信なくしちゃったんだね」と受けとめてあげましょう。また「英語のテストでいつも1番」と「英語」という結果を「1番」と他人と比べている点もNGです

私たち親は、子どもに対して、どうしても達成した結果や能力に注目しがちですが、子どもの心を強くするうえでは、そこに至る過程や、性格的な強みを褒めていくことが大切です。

正解はこちら。

「自信を失っているのね。そういう時もあるよね。でも(お父さん、お母さんは)あなたがどんな時も一生懸命頑に努力する姿が素敵だと思うよ。」

この二つの事例に共通する、いちばんのNGポイントは、子どもの気持ちを無視していることです。

気持ちというのは、一生付き合っていく「友だち」みたいなものです。無視したり、無下にしてしまったら、友だちは傷ついて、よい関係を築けません。

親の声かけで子どもは自己肯定ができるように

親の声かけによって、子ども自身が自分の気持ちと仲良くなれば、子どもは他者の感情を理解できるようになります。そうすると、良い人間関係を築くことにつながり、幸福度の高い、豊かな人生を送ることにつながります。

ちなみに幼児期は、いやな気持ちを「ムカムカする」「おなかがチクチクする」などと体で感じ、言葉で表現することが難しいことがよくあります。小さい子どもには「悲しいさんが来たかな?」「イライラさんがいるかな?」と気持ちを外在化し、名前をつける手伝い(ラベリング)をすることで、気持ちと仲良くなる練習をすることができます。

ネガティブな感情は否定しないで。乗り越えることで成長できます

子どもがネガティブな感情を感じていることは、親にとっても辛いことですから、つい、子どもの気持ちをなんとかポジティブな方向に持っていこうとしがちです。

しかしながら、それはネガティブ感情に耐える力を養っていくことにはなりません。レジリエンス感情に耐える力を養っていくことにはなりません。レジリエンスを育てていく上で、人生には欠かせないネガティブ感情は避けるのではなく、耐えうる力を養うことが大切です。

多くの方がご存知のとおり、ネガティブな感情は私たちの身を守ってくれる役割があり、生存本能とも言えます。「こわいから準備する」「怒りがわいたから戦う」「落ち込むから休む」というと、納得していただけるでしょうか。

ある研究では、子どもたちに難しい問題を解かせたときに、簡単に解ける子どもと、苦戦してイライラしながら解いた子どもを比べると、後者の子どものほうが成績の伸びがよかったというデータもありました。ネガティブ感情は悪者ではなく、成長につながることもあるのです。

ですから、子どもがネガティブな感情を出したときは、まず大人がそれを受け取り、子どもにも「ネガティブな感情を感じてもいいんだよ」というメッセージを伝えましょう。その上で、ネガティブ感情の対処方法を身につけていきましょう。

子どもが、どんどんいやな気持ちになる「ネガティブ沼」にはまったときは、親がこんな手助けを

ただ、生存本能であるネガティブな感情には、気を付けなければいけない点があります。それは、頭にこびりついてはなれないという特徴があるということです。

例えば、いやなことがあると、「ああすればよかったのかな」「自分が悪かったのかな」と、頭でぐるぐる考えて、どんどんいやな気持ちの沼に沈んでいきます。気持ちも考えも、どんどんネガティブになってしまいます。

これを「ネガティブ沼」と呼びますが、このネガティブ沼にはまったときは、そこから抜け出す必要があります。子どもがネガティブ沼にはまってしまったときは、大人は子どもがそこから脱出できるように手助けをしましょう。

 

NASAでも活用されている!ネガティブ沼から脱出する5つの方法

1深呼吸・タッピング

息を大きく吐いて自然に吸う深呼吸は、最も手っ取り早い方法。シャボン玉でもOK。イライラする部位をトントンと指先で叩くタッピングも有効です。

2音楽を聴く

音楽を聴いたり、楽器を弾いたりすると、気持ちがリフレッシュされます。子どもが好きな音楽を日頃からチェックしておくといいでしょう。

3体を動かす

跳んだり、走ったり、体を動かして汗をかくと、ネガティブな気持ちから脱出できます。

4書き出す・絵を描く

自分が感じている気持ちを日記のように書き出すのは効果的。小さい子どもなら、絵をなぐり描きするとよいでしょう。心が落ち着きます。

5夢中になれることをする

ネガティブな気持ちを忘れるほど夢中になれる遊びや作業に取り組みます。自分のレベルより少しむずかしい、でも楽しめる活動は、やったあとに自然な高揚感を感じることができます。

 

このネガティブ沼からの脱出法は、人によって何が合うかは変化します。そのため、元気な時に、試してみた脱出法をリストアップしておくのがおすすめです。

NASAの宇宙飛行士の方のメンタルトレーニングの一環として、ストレスを感じるときの解消法をリストアップすることが推奨されているようです。日常生活の中で、ぜひ親子でいろいろと試してみてください。

 

子どもの心を育てることは、いつもプロセスで、終わりがありません。しかしながら、親の日々の声かけで、子どもの心の根は強くなっていく、そのことを心にとめておいてほしいと思います。

記事監修

一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事

足立啓美(あだち・ひろみ)

認定ポジティブ心理学コーチ。メルボルン大学大学院ポジティブ教育専門コース修了。国内外の教育機関で10年間の学校運営と生徒指導を経て現職。現在は、ポジティブ心理学をベースとした教育プログラムの開発、さまざまな教育現場でレジリエンス教育の講師として活躍中。著書に、『見つけてのばそう!自分の「強み」』(小学館)、『子どもの心を強くする すごい声かけ』(主婦の友社)がある。

子ども達に様々な好影響を与えることが実証されている「レジリエンス・トレーニング」がよくわかる1冊

取材・構成/池田純子 写真/繁延あづさ

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