専門家に聞く、日本のSTEAM教育の現在地は?家庭でできる身近なアクションも!

STEAM教育についてもっと知りたい!STEAM JAPAN編集長である井上祐巳梨さんにHugKum編集部がSTEAM教育についてお話を伺いました。前編では、井上さんの活動についてなどお伺いしてきましたが、後編ではSTEAM教育の今後やイギリスでの事例、家庭での教育法について紹介していきます!

インタビュー前編では、「STEAM教育」の起源などについてもお伺いしてきました。海外では浸透しているSTEAM教育ですが、日本での進み具合や海外の事例について教えていただきます!

STEAM教育とは?未来を生き抜く子どもたちになぜ必要なのか、STEAM JAPAN編集長 井上祐巳梨さんに直撃!
「STEAM教育」はいつ、どこで生まれた? 村上:「STEAM教育」という言葉がここ数年、日本でも聞き慣れた言葉として定着しま...

現時点の日本のSTEAM教育について

村上:前編でのお話にもありましたけれど、日本は世界と比べてSTEAM教育がかなり遅れているのでしょうか。他の国でどのくらい進んでいるかなどの事例は、ありますか?

井上さん:世界各国が「創り出す学び」というものに移行しており、日本だけではなく、さまざまな国が過渡期と言えると思います。
国の中でも学校によって差があったりするのですが、イギリスの公立小学校の事例をお伝えしますね。

【イギリスの公立小学校の授業の例】6歳

イギリスの小学校では「トピック学習」として、1つのトピックに関して各教科を超えて多面的に考える授業があります。

宇宙飛行士のニール・アームストロングと大陸を発見したコロンブス、2人の人物についてのトピック学習で、宇宙の冒険、船での冒険、どんなリスクがあるのか考えます。可能性がある危険性について、折り紙で船を作って水で浮かべてみたりしながら、想像だけではなくて実際に手を動かして考えていきます。
そして、歴史にも触れて実際のことを知る。学ぶだけではなく、「自分で考えて創り出す」というのがセットになっています。

伝えるだけでは終わらせない。聞いたことだけではなく、手を動かして創ってみるということを幼少期からなじませているのです。

村上:手を動かすことで、学習した内容が子どもたちの頭にすごく入りそうですよね。一生の記憶に残るというか。

井上さん:試行錯誤しながら失敗したことから学ぶということが人生で一番大切だったりしますよね。学校の授業の中で、教科横断しながらそれを体験できるのは豊かなことです。


自分で創り出して上手くいったときのその自信が、クリエイティブ・コンフィデンスというようなかたちで小さな積み重ねになる。やがてそれが「社会を変えられる」という意識につながっていくじゃないかなと思っています。

村上:大人は一方的に教えるのではなくて、子どもにひたすら寄り添って、その子のやりたい方法を聞き出して導いてあげることが大事になってきますね。

井上さん:イギリスでは小さい頃から「何が好きか?」と言うのを何度も聞かれる機会があるそうです。自分は何が好きで何が好きでないのか、意識をすることで自然に「自分とは何か」と考えさせられるのです。

映画を観ながら、6歳からチームビルディング!

6歳くらいからチームビルディングもやっているのですよ!例えばみんなで映画『トイストーリー』の新しいおもちゃが来たシーンを観て、自分が所属しているチーム(習い事や学校)でどんな役割の人がいるかなということを考えます。
自分が新しいチームを作るとしたら、どのような役割の人を集めるか考えて、戦略やそのチームや人材を集める動画を制作するところまで行うんです。

子どものうちから、実社会との結びつきが非常に重要ですよね。

村上:すごいです!国によって教育の差があることには焦りを感じますね。日本では「好きなことを伸ばす」というより、「平均を育てる」という教育ですが、それも変わっていくのでしょうか?

井上さん:少しずつですが、変わってきたという実感はあります。ただし、学校現場や先生だけではなく社会全体で変わらなくてはいけないですよね。保護者も教師も教育関係者も企業も含めてみんなが変わっていかなくてはいけない。

保護者の中には、受験に関係ないことやらせないでほしいという意見もあります。そもそも受験という制度も変わる可能性がありますよ、というところからゆっくりお伝えしていく必要があると思っています。全てにおいて推進が必要です。

村上:社会全体で意識の底上げをしていかないといけないということですよね。STEAMJAPANに掲載されている実例などは、国を問わず調査されているのですか?

井上さん:STEAM事業部統括である松下(イギリス在住)を中心に、STEAM JAPAN編集部で調査をしています。いまはコロナで現地に視察行くことは難しいですが、他国にもいるSTEAM JAPAN編集サポーターからも情報が入ります。

STEAM教育を家庭で始めるなら、どんなことができる?

村上:日本の教育は現段階ではあまり変わっていない状況ですが、「プログラミング」とか「STEAM教育」とか、言葉だけはいろいろ更新されています。子どもたちは学校の宿題だけでも忙しいのに、プラスオンで何かやらなきゃいけないとなると困ってしまう親御さんもたくさんいると思います。
とはいえ、家庭でなにかやってあげられるアクションはあるのでしょうか?

井上さん:STEAMJAPANのサイト内に実践STEAMというコーナーがあって、そちらもぜひ試して欲しいですね。
あとは、その子の好きなこと、夢中になってやっていることを親が見守ることが大切です。私たちはよく、「STEAMしてる」という表現を使っているのですが、子どもたちが夢中になって行動している時に、部屋が散らかったり汚くなったり時間が掛かったりしても、「これは子どもが自主的な学びをしている大切な時間だ」というマインドを親が持つことが大事だと思います。

子どもが自発的に学んでいることを尊重してあげてください。
環境も大切ですよね。幼児期は、トイレットペーパーの芯などの廃材を設置して、子どもたちが好きなものを自由に作れる「クリエイティブコーナー」的な場所をつくるのもおすすめです。

ご家庭での学習教材としては「図鑑」もいいですね。図鑑には自分の未知なる世界が沢山つまっているので、読むだけではなく、実際に見に行く「体験」と繋げるといいと思います。

STEAM教育は今後ますます存在感を増していく

村上:今後どのように日本の教育はどのように変わっていくのでしょうか。

井上さん:これからSTEAM教育というのはこれから着実に普及し、存在感を増していくと思っています。
受験という制度の在り方自体も変わってくるかもしれないですよね。日本が変わらなかったとしても世界的には変わってきているので、まずそれに対して意識をもっておいたほうがいい。アウトリーチの活動に対する評価も大きくなることは確実です。

村上:保護者としては、どういう意識でいたらいいのでしょうか。

井上さん:保護者の意見はとても重要です。教育のスタンダードが変わってきている中で、自分の学校ではどうなっているんだろうと意識してみることも大切です。


教育現場でとても感じているのが、自治体やトップの意識で差がすごく出るということ。例えば、大分県ではSTEAM教育の推進をしています。知事が実際にシリコンバレーに視察に行ったり、教員研修も熱心に行っています。結局、トップの意識が変わらないと、現場だけでは動けない。そして、そのはざまで子どもたちの教育格差が生まれてしまうのは、問題です。

村上:差をなくすためには、やっぱり国全体で動いていかないといけない。企業も含めてみんなで社会を変えていけるといいですよね。

「知の創造性」を育むSTEAM教育

井上さんにお話を伺って日本の教育課題が見えてきました。STEAM教育とはワクワクの先に子どもたちの未来に繋がる学習法。HugKumでは、これからも子どもたちに寄り添った情報発信をしていきます。

STEAM JAPAN AWARD2021開催決定!

STEAMJAPANでは、教育関係者向けのSTEAM教育冊子「STEAM JAPAN MAGAZINE(スティーム・ジャパン・マガジン)」の発行なども手掛けています。

そして、今年もSTEAM JAPAN AWARD2021の開催が決定!
「自分たちの未来は、自分でつくる!」審査員として、落合陽⼀⽒ (メディアアーティスト)、文部科学省、経済産業省の参加も決まっています。昨年の受賞作品はこちらからご覧いただけます。

【実施概要】

中⾼⽣を対象とした、STEAM ⼈材を表彰する取り組みです。 社会課題を抽出・設定し、⾃分たちの具体的なスキルで解決・実装した事例を募集し、それ をもとに審査し、優秀者を表彰致します。

【スケジュール】

■応募期間:7 ⽉ 13 ⽇開始〜9 ⽉ 30 ⽇
■審査期間:9 ⽉中旬開始〜11 ⽉末⽇予定
■表彰:12 ⽉ 18 ⽇(⼟)※オンライン実施予定
※応募・社会状況等によって、スケジュールは変更の可能性がございます。

詳細情報は>こちら

STEAN JAPAN サイトは>こちら

文/やまさきけいこ

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