STEAM教育とは?未来を生き抜く子どもたちになぜ必要なのか、STEAM JAPAN編集長 井上祐巳梨さんに直撃!

小学校でプログラミングが必修化されてから、注目されるようになってきたSTEAM教育について、まだまだ知らないことがたくさん!そこで今回は、STEAM JAPAN編集長である井上祐巳梨さんにHugKum編集部の村上奈穂がSTEAM教育や専門サイトについてお話を伺いました。前編・後編に分けてインタビューの内容をお伝えします!

「STEAM教育」はいつ、どこで生まれた?

村上:「STEAM教育」という言葉がここ数年、日本でも聞き慣れた言葉として定着しました。そもそもいつ、どこで生まれた言葉なのでしょうか?

井上さん:2006年、ブッシュ政権下で「STEM教育強化 10の指針」が発表されています。S=Science(科学)、T=Technology(技術)、E=Engineering(工学)、M=Mathematics(数学)の頭文字を組み合わせた教育理念です。

その後、STEM教育⽀援を選挙公約に掲げたオバマ氏が大統領に就任。2011年には⼀般教書演説においてSTEM 教育を優先課題に位置付けるとして、2013年に5カ年計画、2015年にはSTEM教育法というかたちで、アメリカでは国家戦略としてSTEM教育を進めていきました。
そもそもの起源として知られているのは諸説ありますが、ブッシュ政権下と同じ2006年頃にジョーゼット・ヤックマンさんがSTEAMを提唱されています。その時のAというのは、美術だけではなくリベラル・アーツを含んでいます。推進に関しては、ジョン・マエダ氏がイノベーションを生むためには、アートやデザインが必要であるという観点からSTEAM教育法を通しました。

村上:初めは、STEAMの“A”はなかったのですが、Aを足したほうが良いというのは以前から言われていたことなのですね。

世界的に教育がガラリと変わる過渡期。STEAM教育に本気で取り組みたい

村上:井上さんがSTEAM教育の専門サイトであるSTEAM JAPANをはじめることになったきっかけはあるのですか?

井上さん:理由は2つあって、1つ目は、私は3姉妹の末っ子なのですが、長女がシリコンバレー、次女がイギリスにいます。長女が6年前に子どもを産んだ時くらいから、教育が世界的に大きく変わってきているというのを姉が現地で感じていて、各国の教育の最先端について情報交換をしていました。そのうちに日本の教育の遅れが気になり、危機感を持って日本に伝えていかなくてはならないと思うようになりました。

2つ目の理由は、Barbara Poolという自分の会社が地方創生事業を行っていて、メンバーが実際に移住して地域活性をしたり、地道な地方創生事業をずっとやってきました。地域の再生には人材がカギになるので地元のクリエイターなどの人材育成をするのですが、これはクリエイターだけの話ではなく子どもの頃から地元の課題を考えてもいいのではと思うようになりました。

STEAM教育の普及は日本全体で推進していくべきこと

村上:日本でのSTEAMの普及と地方と都心の教育格差の解決というところも含まれているのでしょうか?

井上さん:教育格差だけではなく日本全体の課題としてとらえたいです。このままだと地方が衰退するとか、さまざまな問題をみんなが当事者意識をもって解決できるような国になっていくために、世界でスタンダードな教育を日本でもやっていきたいという想いが大きいですね。

村上:STEAM JAPANというサイト名から、日本のSTEAM教育を引っ張っていくぞというような意気込みが感じられますよね。

井上さん:海外の先端事例を学ぶだけではなくて、日本の教育で培ってきた素晴らしいものを混ぜ合わせた時に、日本から発信できることもあるのではないかと思っています。覚悟というか逆に日本オリジナルのものを創り出していくぞ!という気持ちでつけました。

STEAM JAPANでは教員への研修事業も

村上:メディア運営のほかに、どのような活動をされているのですか?

井上さん:メディアの運営自体は会社でやっているのですが、一般社団法人STEAM JAPANでは、組織としていろいろな先生と一緒にSTEAM教育研修というのをやっています。STEAM教育を取り入れるにあたり、先生方にマインドも含めて伝えていかなくてはいけない、と思っています。

STEAM JAPAN AWARDは、現在募集中!今年の審査委員長は落合陽一氏。

社会課題解決を募集する「STEAM JAPAN AWARD」もハイクオリティ!

また、中高生の社会課題解決を表彰する「STEAM JAPAN AWARD」を開催しています。海外では、STEAM AWARDというのはすでに浸透していて、STEAMと言う言葉は世界共通の言葉になっています。2020年の開催時にゴールドを受賞した子はハーバード大学に進学が決まったという嬉しい報告があったのですが、海外ではアウトリーチ活動の評価が高まってきているということがわかります。
日本ではまだそういった評価をされる機会は少ないですが、これから子どもたちが海外や大学進学など自分の道に進んでいくうえで、ぜひ活用して欲しいですね。

村上:サイトで受賞者のインタビューなどをみることができますが、すごくレベルが高い作品が多く、面白そうなアワードですね。

井上さん:優秀な層だけを取り上げるということではなくて、みんなに可能性があるということで多くの中高生に参加してもらいたいです。

環境の違いもありますが、親御さんの意識は大切ですよね。子どもの疑問にきちんと向き合う親と、あいまいにする親とではやはり違ってきますよね。
現代では、インターネットなどで何でも調べられるので、調べて分からないことがあれば実際に体験してみたり、専門家に聞くなどもできますよね。楽しみながら、子どもの興味関心にサポートしてあげられるといいんじゃないかなと思います。

村上:親のサポートは本当に大事なのですね。一方で家庭によって集める情報に差があったり、毎日の生活の中で家庭でできることは限られてしまうので、公教育もキーになると思います。教員の方々の研修で、ぜひ日本の教育も変えていって欲しいですね。

STEAM教育は、なぜ子どもたちに必要なのか

村上:プログラミングの授業が必修化されましたが、なぜいま日本の子どもたちにSTEAM教育が必要なのでしょうか。

井上さん:これは、ぜひお伝えしたいのですが、日本財団が令和元年11月30日に発表した「18歳意識調査 – 国や社会に対する意識」9か国調査で日本がマインドの部分ですごく数値が低い結果になっていて、とてもショックを受けました。

まず、「自分の国の将来についてどう思っていますか?」という質問で日本は9.6%しか良くなると思っていない。良くならないと思うならばそれを改善しないといけないのですが、
「自分で国や社会を変えられると思う」という質問では、18.3%と、良くなるとも思ってないし、良くしようとも思っていないのですよ。

出典:日本財団「18歳意識調査」第20回テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)より
出典:日本財団「18歳意識調査」第20回テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)より

これってもはや、どの産業関係なくどうにかしなくてはいけないという現状。このグラフをみただけでも皆さんわかるはずで、そもそも自分で国や社会、地域課題を解決できるというふうに思っていただかないとなんにも始まらないっていうのがありますよね。

子どものころから当事者意識が、自分の国の将来に向き合うきっかけになればいい

なによりも子どものころから当事者意識をつけてもらうということですよね。STEAM教育ってすごくワクワクして、やりたいことをやっていく延長線上にこういった課題解決の意識をもっていくことが大切。
誰かがやってくれるではなくて、自分自身がやる!というマインドに変えてもらうという意味でもSTEAM教育は本当に浸透させていきたいと思っています。

STEAM JAPAN AWARDを立ち上げたきっかけも、コロナでこれもだめ、あれもだめと世間で文句が増えていた時に、2人の青年が手作りのフェイスシールドをコールセンターに届けたという話を聞いて心を打たれたことでした。こういう高校生にこそスポットライトをあてたいと思って立ち上げたという経緯があります。

村上:井上さんの話を聞いていると私たちメディアとしても、もっとやれることをやっていかなくてはいけないと思いますよね。

井上さん:当事者意識もそうなのですけれど、そもそもの時代の変化についても私たちは伝えていかなくてはならない。正解を教わるという時代から、自分自身が作っていかなくてはいけない時代へ。失敗したっていい、失敗から学ぶことがあるとか…こういう新たな教育マインドを伝えていきたいですね。

村上:STEAMのSがサイエンスで…とかそういった知識だけが先行しがちな気がしていて、算数や科学などが長けていたらいいと思っていたけれど、それを社会課題につなげる想いこそが大切なのですね。

井上さん:そうですね。例えばAIにできることを考えたときに、AIだったらゴールに向かう道筋までは早いけれど、そもそもの課題抽出は人間がしないといけないですからね。

ワクワクの先に未来をつくるヒントがある!

STEAM教育という言葉だけで考えると難しそうなイメージがありますが、ワクワクしながら探究・創造していく学びのことだったのですね。
前半では、井上さんの活動などについてお伺いしてきました。STEAM教育の今後について、家庭での学習法などインタビューは続きます。ぜひ!後半もご覧ください。

STEAM JAPANとは


STEAM JAPAN』WEBサイトは、次世代教育「STEAM教育」について発信するメディア 。知を創り出す学びであるSTEAM教育に関する各国の最新情報やSTEAM人材インタビューをメインとしながら情報発信しています。2019年のSTEAM JAPANサイトリニューアルに伴い、編集長に株式会社Barbara Pool 代表取締役 / クリエイティブプロデューサーでもある井上祐巳梨さんが就任されました。

井上祐巳梨(いのうえ ゆみり)さんプロフィール
豊島区出身。日本大学芸術学部卒業。学生時代から地域の町おこしイベントや、2,000人超を動員する学生最大級アートイベントの立ち上げを代表として行う。大手広告代理店勤務を経て、2013年株式会社Barbara Pool 設立、代表取締役に就任。企業・地域の課題を解決するクリエイティブ事業を主体に、多数のプロジェクトに携わる。2019年、STEAM事業部を立ち上げ、WEBメディア「STEAM JAPAN」の編集長に就任。同時期に、経済産業省『「未来の教室」実証事業』に採択。2020年文部科学省ICT活用教育アドバイザー事務局。同年、一般社団法人STEAM JAPAN設立、代表理事に就任。

文/やまさきけいこ

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