【非認知能力を伸ばす方法】子どもの「生きる力」について井桁容子先生が解説

子どもの「生きる力」~非認知能力~はゆっくり伸ばしたい

乳幼児期に身に着けた「非認知的能力」が、大人になってからの生活に大きな差を生じさせるとする研究成果が、国際的に注目されています。 保育所保育指針の改定を方向づけたその考えや具体的な事例を、長く保育の現場を見ていらっしゃった井桁容子先生と一緒に考えていきましょう。

過程を見守り、気持ちを受けとめることが生きる力を伸ばす

計算ができる、文字が読める、といった学力や知識を「認知能力」といいます。「非認知能力」とは、認知能力以外のさまざまな力のこと。ものごとに取り組む意欲、自分に対する信頼感、やさしさや思いやり……。数値で測ることはできませんが、人とかかわりながら生きていくためには欠かせない、「心の成長」につながる力です。

私は、非認知能力は乳幼児期からすべての人に備わっている力だと考えています。認知能力のように、「できる」「できない」という形で見えるものではないので、その育ちの様子をとらえることは難しいのですが、保護者や保育者は子どもが本来持っている力を信頼しながら、一緒に感じて考えていく存在であることが重要です。

そのために心がけたいのが、子どもを育て急がないことです。育ちのゴールは「やがて」。「今」ではありません。

友達に「貸して」といわれれば大好きなおもちゃでも「いいよ」と譲れる子が、「やさしいよい子」なのでしょうか? 大人だって、お気に入りのものは簡単に貸したくないはず。子どもだったらなおさらです。それでも気持ちを抑え込んで「いいよ」といってしまうのは、さまざまな形で大人にそう教えられてきたからです。

でも行動に心が伴っていなければ、協調性もコミュニケーション能力も育ちません。幼いころに大切なのは、自分の思いを素直に表現したり、自分とは違う思いを持つ友達とかかわったりすること。いやなことはいや! といえてこそ、子どもの心は育つのです。

子ども同士の「貸して」「いや!」は、けんかに発展することもあるでしょう。でも保育者の役割は、けんかを防いだり、けんかはよくないと教えたりすることではありません。なぜけんかが起こったのか、子どもたちは何を感じ、どうしたかったのかを考えることです。

子どもとかかわるときに注目するべきなのは、「結果」ではなく「過程」です。結果だけを見て、できた・できない、よい・悪いなどと評価するのではなく、「なぜそうしたのか」「何を感じたのか」を大切にしてください。身近な大人が自分の思いを理解し、受け入れてくれた……。こうした経験の積み重ねが他人への信頼や自分への自信を育て、人の一生を支える「生きる力」の土台をしっかりとさせていくのです。

 

「生きる力」を伸ばす6つの能力とは?

生活の中のさまざまなできごとが、子どもの心を育てます。
保育者が適切なかかわり方をすることができれば、
ちょっとした経験も意味のあるものに変わっていきます。

*夢中になる経験をする

子どもが夢中になっていることは、とことんさせましょう。好きなことなら、「もっと知りたい」「もっとしたい」と思うもの。楽しみながら、自分で考える、想像する、工夫する、といった経験を重ねることができます。

*自分の思いを表現する

思いを素直に表現するためには、「この人ならどんなことでも受け入れてくれる」という信頼感が必要。「いい子だから好き」ではなく、「〇〇ちゃんだから大好き!」と、いつでも子どもを丸ごと受け入れる姿勢を示しましょう。

*過程を大切にする

生きる力を育てるのは、何かをする「過程」。結果ではなく、そこにたどり着くまでに子どもが感じた葛藤こそ、保育者が共感したいポイントです。

*自分で考え、工夫する

大人はあれこれ先回りせず、「本当に困ったときだけ手助けする」というスタンスにします。迷ったり失敗したりすることは、子どもが自分で考えて行動するきっかけになります。

*友達とかかわる

友達とのかかわりは、「自分とは違う人」がいることを子どもに教えてくれます。ときにはぶつかり合いながら、お互いを認め、尊重し合う協調性や社会性を身につけていきます。

*生活リズムを安定させる

乳幼児期は、それぞれの子に合ったリズムで生活させることを大切にします。生理的に満たされてこそ、子どもは好奇心や意欲を感じられるようになります。

「生きる力」って、どんな力?

「非認知能力」は特定の能力をさすものではありません。社会の中で心地よく生きていくために役立つさまざまな力の総称で、乳幼児のころから伸ばしていくことができます。

*協調性・社会性

お互いに認め合いながら、他人と一緒にものごとに取り組める力。我慢してまわりに合わせるのではなく、一人ひとりの違いを楽しめるのが本来のあり方です。

*自分に対する自信

生きる力のベースとなるのは、愛された経験です。「~だから」という条件つきではなく、自分をそのまま受け入れてもらえることは大きな自信になり、他人を受け入れる能力にもつながっていきます。

*人を尊重する気持ち

自分の思いを表現し、それを受け入れられてきた経験から生まれます。自分と同様、他人にも大切な思いがあることを理解すれば、自然に相手を尊重する気持ちが生まれます。

*共感する力

表面的に同意するのが「同感」、相手の身になって考え、気持ちを思いやるのが「共感」。やさしさや思いやりは、他人に共感できる力から生まれます。

*コミュニケーション力

自分を抑えてトラブルを起こさないことではなく、トラブルが起きたときに自分と相手の思いを調整できる力のこと。人として生きていくうえで自分と他者を大切にする力です。

*柔軟な心の持ち方

自分への信頼感があれば、失敗しても簡単に心が折れることはありません。「まあ、いいか」と失敗を受け入れ、状況に応じて対処していくことができます。

 

 

お話/井桁容子先生
保育の根っこを考える会主宰。福島県いわき市生まれ。東京家政大学短期大学部保育科を卒業後、同大学ナースリールームに2017年3月まで勤務。おもな著書に『ありのまま子育てーやわらか母さんでいるために』(赤ちゃんとママ社)、『保育でつむぐ 子どもと親のいい関係』(小学館)など。

 

 

出典/『0.1.2歳児の保育』2018年冬号 文/野口久美子 イラスト/すみもと ななみ

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