地球のルール “自然の循環” をバナナペーパーの取り組みで実践
私たちは、食料からエネルギーまで、地球が育む自然の恵みによって生かされています。けれども、産業が発達した日本を含む経済大国は、大量生産、大量消費、大量廃棄を続けていて、もし、全世界の人々が今の日本と同じような生活をした場合、地球2・8 個分*の自然資源が必要になると考えられています。そんな現状を危惧し、「地球1個分へ」という思いを込め、ワンプラネット・カフェを設立したエクベリ聡子さんとペオ・エクベリさん(以下、エクベリ)に、お話を伺いました。
*グローバル・フットプリント・ネットワークNFA2018
──サーキュラーエコノミーとは、どのようなことなのですか?
エクベリ 直訳すると「循環型経済」ですが、まずこの考え方の基本となっている「環境循環」についてお話しします。環境循環とは、自然界の循環のことを指します。太陽エネルギーを受けて植物が育ち、それを草食動物が食べる。草食動物から肉食動物の食物連鎖から出る排泄物や死骸などは、ミミズや微生物が土の栄養に変える。そしてまたその栄養で植物が育つ。このように自然界には完璧なリサイクルシステムが確立されています。ゴミは存在しません。しかし、人間社会はどうでしょう?
有限な化石燃料を掘り起こし、モノを作り、最後はゴミになる一方通行。しかも、ゴミのほとんどは自然に還りません。これを循環に変え、さらに、環境循環と融合させた経済活動の仕組みが「サーキュラーエコノミー」です。
──よく言われている循環型社会とは違うのですか?
エクベリ いわゆる3R のリデュース(減らす)、リユース(繰り返して利用)、リサイクル(再生して利用)を指す循環型社会は、人が技術を使って回すサイクルです。ここでは環境循環が忘れられがちですが、本来はこの2つのサイクルがあることを理解し、自然の循環から学び、リンクしていくことが、持続可能な社会へとつながります。
自然界の完璧な循環から学ぶ 人間社会の循環システム
サーキュラーエコノミーとは循環型の経済システムのことで、新しいビジネススタイルとして注目を集めています。自然界の再生の仕組みから学び、通常は破棄される原材料から製品を作りゴミを出さずに循環。バナナペーパーは、破棄しても土で分解され自然に戻るので、サーキュラーエコノミーを実現させています。
──ワンプラネット・カフェが取り組んでいる「バナナペーパー」は、どんなものなのですか?
エクベリ アフリカのザンビアで育ったオーガニックバナナの茎から作った紙です。バナナの木(茎)は1年で5mもの大きさに育ち、1本の茎からバナナは1度しか収穫できません。茎を切ると1年後にはまた茎が育ちバナナが実ります。通常は捨てられてしまう茎から繊維を取り、日本の和紙工場で紙に仕上げたものがバナナペーパー。捨てられてしまうものを再生させている点、紙は約2週間で土に分解する点など、すべての過程がサーキュラーエコノミーに基づいています。
野生動物と森林と人々を守るバナナの茎から作る紙
ワンプラネット・カフェが取り組むバナナペーパーは、アフリカのザンビアにあるオーガニックバナナ畑から生まれます。通常は捨てられてしまうバナナの茎の繊維と日本の和紙の技術が融合。サーキュラーエコノミーに基づくソーシャルビジネスとして展開中。
「ワンプラネット・ペーパー®」でさまざまな商品をリリース
ザンビアで繊維にしたバナナの茎は、日本に運ばれパルプになり古紙を加えて、バナナペーパーとして生まれ変わります。そして、スケッチブック、ラッピングペーパー、ペン、マスキングテープ、ペーパークラフトなどさまざまな商品として、私たちの暮らしに届けられています。
── SDGs の17の目標すべてにつながっていると聞きました。
エクベリ ザンビアは、野生動物が暮らす美しい地域。しかし、人々は最貧困に苦しんでいて、現金収入を得るために、木を伐採したり密猟をしたりしています。私たちは、この問題をなんとか解決したいとバナナペーパーの事業を始めました。雇用を生み出しフェアトレードの活動を通して、食事や水、福祉、教育、やりがいなどの面で、1000人以上の暮らしを支えています。その結果、森林や野生動物が暮らす環境を守る一助にもなっています。
アフリカの南部にあるザンビアには、「サウスルアングア国立公園」があり、ゾウやシマウマ、ライオンなど野生動物が生息する自然豊かで美しいエリア。しかし、一方で村の貧困問題が深刻で、それが原因となる密猟や森林伐採が後を絶ちません。
──サーキュラーエコノミーを暮らしに取り入れる方法は?
エクベリ まずは、前述した環境循環の考え方をベースに暮らしを見直してみましょう。そして、自分の好きなことから少しずつ始めるのが継続のコツ。スポーツが好きなら、ウエアをオーガニックやフェアトレードのものにするとか、おもちゃなら自然に還る素材を選ぶとか。最初に「本当に必要か?」を検討し、必要であれば、環境循環に沿ったものを選択するようにしてみてください。
親子で体験! 土に還るってどういうこと?
サーキュラーエコノミーの原理原則である「自然の循環(環境循環)」の一部を体験する方法を、エクベリさんに教えてもらいました。
実験! 自然のサイクルシステム
エクベリさんたちの活動拠点の一つスウェーデンは、環境教育が充実していることでも知られています。体験を通して環境循環が理解できるプログラムがあり、保育園では次のような実験が行われていたそうです。一枚のパネルに、りんご、牛乳パック、バナナ、プラ容器、紙、ガラス、缶のふた、ペットボトル、松ぼっくり、ガムなどを釘で打ちつけ、園庭の土に埋め、6ヶ月後に掘り起こして、それぞれがどのように変化しているかを観察するというもの。自然の土が分解するものとそうでないものが、一目瞭然の結果になりそうですね。
リンゴや牛乳パック、プラスチック、缶のふたなどを打ち付けたパネルを土に埋めて……。6ヶ月後に掘り起こしてみよう。さて、どうなっているかな?
記事監修
エクベリ聡子
サステナブル経営・事業開発・人材育成支援において多くの実績を持つ。環境省環境人材育成コンソーシアムの企画、東北大学大学院の環境関連修士課程の開発などを経て現職。共著に『うちエコ入門 温暖化をふせぐために私たちができること』(宝島社)など。
スウェーデン出身。NGO環境団体のリーダー、ジャーナリストを経て、1997年にOne World国際環境ビジネスネットワークを設立。2011年に会社統合し、現職。環境問題の解決やサステナビリティの基礎(原理原則)について講演、コラム執筆など多数。
『小学一年生』2021年11月号 別冊『HugKum』 構成・文/神﨑典子 写真/ワンプラネット・カフェ
1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載しています。