人気絵本作家の鈴木のりたけさん。アイディア&ユーモア満載な作品は、子どもだけでなく大人も遊び心をくすぐられます。今回の新著『カ どこいった?』も、またまた斬新! さっそく、この本の楽しみ方をお聞きしました。
「参加型アクション絵本」の魅力は?人気絵本作家・鈴木のりたけさんに聞いた!
ぷぅ~~~ん。いつ耳にしてもイヤぁな気分にさせられる蚊の音。ふと見れば、しめしめ、敵は手の上にとまっているぞ・・・。
せーのっ、パーン!
あちゃ~、逃げられた! 蚊、どこいった? あっ、次は積木の上で休んでる。よーし、今度こそ。せーの、ガッチャーン! 残念! 今度も逃げられた。 おい、まてまて・・・。
蚊、どこ行った?
厚くてかたい紙のページをバチン!と、勢いよくめくりながら楽しめる新しいタイプの絵本をご存知ですか? 遊び心たっぷりの絵本作品で子どもから大人まで人気の絵本作家・鈴木のりたけさんの新作『カ どこいった?』(小学館)。
ひとよんで、「アクション絵本」。うっとうしい蚊をバチンと思いっきり叩くようにしてページをめくれば、ストレスも発散。声に出して読み進めれば、盛り上がること間違いなし! 最後には摩訶不思議な世界観へと展開します。さらに、綿密でありながらユーモアに溢れたのりたけさんのサービス精神がこの1冊には満載です。
そんな「アクション絵本」の誕生秘話や楽しみかたは? 3人のお子さんのパパでもある作者の鈴木のりたけさんが語ってくれました。
なぜ、「アクション絵本」は生まれたの?鈴木のりたけさん一問一答
――今年は猛暑で蚊があまり活動できなかったようですが(笑)。どうして蚊をテーマにしようと思われたのでしょうか?
「そもそも蚊をテーマにするつもりはなかったんです。それよりも、(蚊を叩く)パチンっていう音からスタートしているんですよね。電車の中でボードブックをみているとき、本を閉じたときのスパン!っていう音が、‟おっ、面白いな”と感じて。ボードブックでいかに気持ちいい音を出すかを競う本が出来たら子供たちも喜ぶんじゃかいかなって思ったんです。
そこで、ふと頭をよぎったのが、蚊だった。蚊を叩いた時の音と本を組み合わせれば、何か新しいものが生まれるんじゃないかと思いました。そこには、本そのものの面白さをもっと発見してみたいという探求心がありました。本は読むだけではなく、めくってみたり、叩いてみたりするという行為がまだまだ開拓できるような気がしたんです。次のページには一体、なにがあるんだろうとワクワクドキドキしたり、スピード感をまじえてみたり、いろんな楽しみ方があるんじゃないかなと。まずは、その第一弾という感じですね」
――この本を様々な手法で子どもたちが楽しむ動画も面白かったですね。
「動画は、本が出来上がってから急いで作ったんです。時間もなくてアニメーションを作る人にも無理をいって作ってもらいました。実はこの動画の子どもたち、全員、うちの子なんです。10才の長女に7才の長男、5才の次男が各々、パンッ! と、やっています。すべてハンドメイドです(笑)。ホントはNGシーンもいっぱいあるんですよ。本を力いっぱい叩いたら勢い余って画面からはみ出しちゃったりとか・・・。でも、それぐらいパンッ! と、思いっきり叩いてもらっていいんです。リズムにのせて叩いてもいいですし、とにかく楽しんでもらいたいですね」
――ご本は乱暴にしちゃダメよじゃなく・・・
「もっと思いっきり叩きなさい!(笑)。そうそう、その辺の概念を覆すみたいな本になってもらえればいいなぁと思いますね。それと現実には叩きつぶしちゃいけないショートケーキだって本の中では、ベチャ! っとしたり。ストレス発散にも活かしてください(笑)」
――実際にお子さんはこの本を最初に手に取ったとき、どんな反応でしたか?
「小1の息子は、パーンとやったあとに、まじまじと自分の手を見つめていたんですよ。なんだかチンパンジーの実験をしているみたいで面白かったです」
――のりたけさんの作品はダジャレ作品も多いですが、子育ての中でアイディアを育まれたり、そこから生まれたりする作品もありますか?
「あります。『す~べりだい』と『ぶららんこ』(ともにPHP研究所)という本があるんですが、これは娘が小さい時に公園に連れて行ったときの出来事がヒントとなりました。公園にプラタナスの木が生えていて、娘から‟この木はなぁに?“と聞かれた際、‟プラタナスだよ”って言おうとしたんですが、‟ぷ、ぷ、ぷぷらたなすだよ“って噛んじゃったんです。そしたら、その日ずっと娘が‟ぷぷらたなす! ぷぷらたなす!”って盛り上がっていたんですね。
子供って、シンプルな言葉の組み換えだけでも1日中、こんなに楽しめるんだ。‟プラタナス“っていうと綺麗なイメージがするけれど、‟ププラタナス”っていうと、なんだかおならが臭そうなイメージがするじゃないですか(笑)。‟ナス“っていうのもよくよく字を見てみると、なんだかマヌケな感じで面白い。いつも聞きなれている言葉は記憶されているモノのイメージに勝手に変換されてしまうけれど、ちょっとつっかえたりするだけで普段の規制概念から解放されるんだなと感じたんです。すべり台も‟す~~べりだい”など、想像を広げていくと面白い。絵本を作るきっかけはそんなところにあります」
――今はPCやスマホの普及で言葉を頭で想像する以前に文字変換も正しく表示されますから、ユニークな発想に欠けてしまうかもしれません。
「そうですね。うちの5才の息子が‟カがいる!“っていうのを、‟カががいる!”ってずっと言ってた時期があります。なんでだろうと思っていたら、大人たちが蚊を見つけたときに‟蚊が! 蚊が!“っていうからなんですよね(笑)。加賀百万石みたいなね・・・(笑)。
うちはね、蚊が家にいるとみんなで捕まえようとするんだけど、手の風圧です~っと逃げられちゃうんですね。でも、網だとすぐに捕まえられるんです。だから、うちには各部屋に
網があるんですよ」
――蚊を描かれるときの資料にも役立たせたりしましたか?
「もちろん、いっぱい捕まえましたよ。虫観察キットみたいなものに入れて観察しながら描きました。この本に登場するのは『ヒトスジシマカ』です。『アカイエカ』ではありません」
――固定概念に縛られず、さまざまな側面から‟楽しむ種”を発見していくのりたけさん。小さい時はどんな本を読まれていましたか?
「よく本を読むほうでもなかったんだけど、小学校の図書館でかこさとしさんの『海』『地球』『宇宙』『人間』という科学の本シリーズを食い入るように見ていたのは記憶に残っています。
あとは、母親が自作の絵本を作って読み聞かせをしてくれました。ストーリーは、お姫様が悪者にさらわれて王子様が助けにくるというものだった気がします。母は保育士をやっていましたから、そういう手作りの絵本や読み聞かせも得意だったんだと思います」
――お子さんに手作りの本を見せることはありますか?
「アイディアの段階で‟こんなのどう?“といって、意見をもらうことはたまにあります。でも、あまり子どものウケばかりを狙って作るのも面白くない。そこに捉われてしまうと、自分がやりたいことをどんどん見失っていきそうな気がするんです。ですから、基本的には自分自身が楽しめるものを作っていきたいと思っています」
――ひとつひとつを面白がれる大人になりたいですよね。
「本当にそう! 面白がる力は必要だと思いますね。ちょっと視点を変えてみるとか。ワクワクする探求心は常に大事にしていきたいです。大人になるとそうした視点を保つことが難しくもなってきますから、思考をうまく切り替えるように意識づけはしています。でないと、大人はなかなか子供に近づけないですよ」
――4才の子は1日に400回笑うけど、大人になると1日10回以下になるそうです。この本を読んでゲラゲラと笑う声が聞こえてきそうですね。
「子どもは大人が気づかない面白いモノをどんどん見つけますからね。この本の中にも実はいろんな遊びが隠れています。例えば、前のページに登場した人やモノが次のページでどう変化したかなど、1度だけでなく、何度もページをめくって楽しめる工夫が凝らしてあります。蚊も1匹だけじゃないんですよ。是非、探してみてください」
――これからどういう本を作っていきたいですか?
「子どもがアクションを起こす‟アクション絵本“をもっともっといっぱい広げていきたいですね。読んで終わりだけじゃなく、その本の世界に参加していくのが面白いと思うんです。それではじめて世界観が完成する。読む人によって絵本の世界観もどんどん変わる。『はくぶつかん』や『けっこんしき』(ともにブロンズ新社)は、おでこをはめ込むことによって完成する本です。そんなふうに自分からどんどん体験をして面白いことを発見していくような本を作っていきたいですね」
――最後に、パパやママたちにはどんなふうに楽しんでもらいたいですか?
「ワークショップで様子を見ていると、お母さんたちは子どもが楽しんでいる後ろ姿を微笑みながら見ているケースが多いんです。でも、お父さんたちは結構、一緒に楽しんでいますね。お母さんも子どもと一緒になって思いきっり楽しんでもらえたら嬉しいです。
親が本気になって自分たちと同じことを楽しんでいる姿を見る。それは、子どもにとっても良い影響があると思います。親子の間にこの『カ どこいった?』があるのは嬉しいですしね。‟私がやったらもっとすごい音が出るわよ~“ぐらい、童心にもどって楽しんじゃってください!」
すずき・のりたけ
1975年静岡県浜松市生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本賞読者賞、『しごとば 東京スカイツリー』(ブロンズ新社)で第62回小学館児童出版文化賞を受賞。他に『おしりをしりたい』、『おならをならしたい』(ともに小学館)、『そだてば』(朝日新聞出版)、『はくぶつかん』、『けっこんしき』(ともにブロンズ新社)など多数。
取材・文/加藤みのり