「松竹梅」は、おめでたさの印。どれが「上」でどれが「下」はありません
通常は、「松」「竹」「梅」の順で、「松」が一番値段が高く設定されていることが多いかもしれません。でもひょっとすると、「梅」が一番高いというお店もあるかもしれません。
というのも、「松竹梅」は、実は順序や等級の優劣を表すことばではないからです。
もともとは、冬の寒さに耐えて、松と竹は緑を保ち、梅は花を咲かせるところから、「歳寒(さいかん)の三友(さんゆう)」といって、めでたいもののしるしとされていたのです。「歳寒」とは冬の時節のことで、「歳寒の三友」は東洋画の画題や、祝い事の飾り、いけばなの様式である「立花」などに用いられます。
かつて、俳優の石原裕次郎さんと渡哲也さんがCMに出て話題になった、まさにその名が付けられた清酒もありますが、これもめでたいものであるところからの命名でしょう。
「松竹梅」を、順序や等級の優劣を表す語として使われるようになったのは最近のことで、どれが上でどれが下ということはないのです。お店でお品書きに「松竹梅」が使われていたら、どのような順か注意してみてください。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。