14歳でで作家デビューした鈴木るりかさんの現在地
中学2年生で作家デビューした鈴木るりかさんが、このたび発表した『落花流水』は、現役受験生作家によるリアルな受験生の青春小説です。
主人公の水咲は、鈴木さんと同じ高校3年生。
〝ある朝、水咲の住む近所にある昔から憬れの的だった先生の家の前に何台ものパトカーが集まって……〟というように物語はサスペンスタッチで始まりますが、通読すると良い意味で裏切られてしまいます。
鈴木さんは無事受験を終え、この春から大学に進学予定です。
受験生として勉強と並行しながら執筆した初の長編小説について、またご自身の高校生活について聞いてみました。
コロナ禍での学校生活を送って
高校時代や受験生生活を振り返った感想は?
※以下「 」内、鈴木さん談話
「私の学年は修学旅行も合唱コンクールも中止になりました。文化祭や体育祭は小規模で開催されましたが、高校に入ってからちゃんとした行事ができたのは1年生のときだけでした。
コロナウイルスが広まる前は、高3まで行事ができて卒業していたので、何か損をしたような気持ちになって、そういうことができた人が羨ましく感じたりもします。
生徒みんなが感染予防のマスクをつけているので、もし数年後などに自分の高校時代を思い出すとき、浮かぶ顔がマスクをつけた顔なのかもしれないと思うと、ちょっと悲しいですね……。
この2年間はできなかったことのほうが圧倒的に多く、できたことはほとんどないのですが、しいて言うなら家で読書をしたくらい。やっぱり本があってよかったな、とあらためて感じました。平均すると月に4~5冊は読んでいました」
受験対策はどのようにされましたか?
「早い時期から推薦入試でいこうと考えていたので、学校生活はきちんとしようと思っていました。でも、どの大学・学部に行くかはギリギリまで悩みました。
学校によって推薦入試の形式が変わってくるので、そのための対策も必要です。そんなとき息抜きになったのは読書や執筆で、執筆は夏休みまで続け、秋以降は試験対策に専念しました。
私が受けたのは自己推薦入試でした。指定校推薦と比べると競争率も高く、もしダメだったときのために一般受験の準備もしないといけないのがちょっと大変でしたね」
受験勉強と並行した執筆活動
高3の間に、今回の『落花流水』を書き上げたそうですね。
「書き始めたのは高3の4月からです。
高3になった当初は、受験もあるから今年は小説を書くのは難しいかもしれないので、エッセイみたいなものを書き溜めていくのはどうかという話もありました。
そこでいくつかエッセイ風のものを書いてみましたが、途中でやっぱり『小説にしたほうが面白くなるんじゃないか?』と思い、小説に変更しました。
書き上げたのは夏休みの終わりくらいです。秋に試験が終わってからは推敲などの仕上げ作業に入りました。」
初挑戦の長編小説、お話を作るうえで気を配った点は?
「私はこれまで同年代の人のことは書いたことがなかったので、私自身の等身大の思いなどが入っていると思います。主人公が感じている受験の孤独感や将来への不安は、私自身が実際に感じたこともあり、そこは工夫した点だと思っています。
孤独感や不安だけでなく楽しい場面も多いので、そこを書くときは私も明るくすっきりした気持ちになれました。
受験生が主人公であっても、受験のことだけに重点をおいたわけではなく、具体的に役立つ勉強法が書いてあるわけでもないのですが……。失敗したり、取り返しのつかないことをしてしまったときにも人生は続いているから、その先をどう生きていくのか、ということをテーマにしています。」
忙しいなかで執筆と勉強を両立するため、時間の使い方のコツはありますか?
「書くことは自分の家で、学校に関することは学校でやるというように、自分の生活スタイルに合わせて時間の使い方を決めています。学校の勉強は授業中にしっかり集中して聞くようにしていました。
しかし一度気を緩めてしまうとどんどんサボっていってしまうので、自己管理をすることは難しいけれど大切だと思っています。
やるべきことをちゃんとやった後の爽快感は、学校の勉強でも執筆でも似ているところがあるので、いつもそこを目指しています。
平日はあまり執筆の時間が取れないので、日曜日や夏休みなど長期の休みに集中してまとめて書きました。
もともと小さい頃から朝はなかなか起きられず、夜は眠れなかったほうなので、夜型で夜に書くことが多いですね」
同世代の人たちに向けてのメッセージ
学業と部活や社会活動などの両立に悩む若い人たちへのメッセージがあればお願いします。
「私は好きなことをやらせてもらっている状態なので、すごく苦労しているという感覚はあまりないのですが、それでも、いろいろなことの両立は大変だと思うことはあります。
でも、やるべきことがあるのはいいことだと思っていて、それをやり終わったときの達成感が大切だと思うのです。
私の場合、小説を書き終えたときにエンドマークをつけて、それを編集者さんに送った瞬間が、すごい達成感や満足感を得られるときです。頑張ったぶんだけ見返りがあると思っていて、これは執筆だけでなく勉強や部活、趣味やバイトや社会活動など、何にでも言えることだと思っています」
こういうところに注目してほしい、新作のおすすめポイントは?
「主人公とその友達が廃部寸前の文芸部に所属しているという設定なのですが、会話に文学がからんでいたり文豪や作品の名前が出てきたりします。どれも有名なものが多いので、たぶん元ネタはわかるんじゃないかな?と思っています。これをきっかけに原作の本にも興味を持ってくれたらいいですね。
先程も触れましたが、大きな失敗や何か取り返しのつかないことをしてしまったとき、時間を戻してやり直すことはできなくても、それを償ってまた生き直していくことはできるんじゃないか、ということを書いています。
受験生が主人公なので、受験生の人にはもちろんですが、受験ばかりの話でなないので、大人の方にも楽しんでもらえるのではと思っています」
春から大学生になりますね。
「大学の社会科学部に進学します。政治経済や法律、商学などを幅広く勉強できるのですが、小説を書くうえでも多くのさまざまな知識をインプットしていきたいと社会科学部に決めたのです。
大学生になったら人との関わりも増えると思うので、大学生を主人公にした小説を書いてみたいですね。例えば今ならコロナウイルスが流行っているので、そのなかで生活していく大学生たちを描いてみたいなと思っています」
リアルな受験生の青春小説
初の長編、書き下ろしとなった今作で「とにかくやってみました。持っている力は出し尽くしました」という鈴木さん。
シリアスさとユーモアが共存するストーリー、文学などの知識をサラッと披露する主人公たちの、リズムある会話には小気味よさを感じます。初恋あり友情ありのさわやかな青春物語、『落花流水』をぜひ楽しんでみてください。
そしていずれ、大学生になった鈴木さんからの次回作が届くことを、首を長くして待っていましょう!
撮影/黒石あみ 構成・文/村重真紀
舞台は、とある地方都市。高校3年生で受験生の水咲。ある朝、町中の尊敬を集める「先生一家」の門前にパトカーが集まり大ニュースに。そこは昔から憧れの的だった、現在通う高校の生物教師の家でもある。水咲といつも一緒の幼なじみたちも心配で駆けつけるが、手錠をかけられ警察に連行されて出てきたのはなんと憧れの生物教師だった! その先生は幼い頃から水咲にとって特別な存在。先生をひたすら信じたい一心から水咲はまた別の事件にも巻き込まれてしまい……。地方都市在住受験生の青春を描いた初恋小説。読後爽快、リアルな青春を鮮やかに描く。