アドラー心理学は実は、子どものための心理学【アドラー式子育て術「パセージ」】とは?

オーストリア生まれの精神科医、アルフレッド・アドラーをご存知ですか。昨今ブームとなった「アドラー心理学」と言えば、聞いたことがある方も多いことでしょう。アドラー心理学は、実は、子どものための心理学なのです。そこで今回は、日本アドラー心理学会カウンセラーの清野雅子さんと岡山恵実さんに、アドラー心理学の考え方に基づいた育児プログラム「パセージ」とは何か、子どもの発達段階(3歳まで、3歳から、5歳から小学1年生、10歳から)に応じた「勇気づけ」について、レクチャーしていただきました。

「パセージ」とは?│ほめない・叱らない子育てメソッド、アドラー式子育て術

家族
「家族はみんな自分の仲間、自分の居場所はここ!」と子どもが思えるように

アドラー心理学の考え方に基づいた3歳からの育児プログラム「パセージ」

「パセージ」とは、日本にアドラー心理学をはじめて紹介し、広めた野田俊作氏が開発した育児プログラムです。パセージ育児は、自立し、社会と調和して生きていく大人に育てることを目指しています。それは同時に、新しい未来を自分たちで担い、課題に立ち向かっていく力をもった大人を育てることでもあります。子どもを支配する親ではなく、子どもにへつらう親でもない。子どもを対等の仲間として、親としての「態度」や「心構え」などの関わり方を学ぶ。親と子が理解し合える、合理的で筋が通った育児法がパセージです。

「パセージ」は言葉が出るようになってからの子どもを対象に設計されています。目安としては、二語文を使えるようになった3歳くらいからの実践をおすすめしています。内容はとてもシンプルですが、毎日続けることが大切です。キーワードは、“勇気づけ”です。パセージを学ぶことは、“勇気づけ”の考え方や方法を学ぶことなのです。

アドラー心理学とは?

子どもの笑顔
アドラー心理学とは?│褒めない・叱らない子育てメソッド、アドラー式子育て術「パセージ」

アドラー心理学は「勇気づけの心理学」

それでは、「パセージ」のベースとなっている「アドラー心理学」がどのようなものなのかを説明します。

「アドラー心理学」とは、オーストリア生まれの精神科医・アルフレッド・アドラー(1870-1937)の考えをもとに発展した心理学です。アドラーは、軍医として第一次世界大戦を経験し、戦争の悲惨さに大変ショックを受けました。

「世界によい未来をもたらす子どもを育てること」を考え続け、育児と学校教育こそが、暴力を使わない問題解決方法や良好な人間関係、ひいては良好な社会環境を形成すると結論づけ、そのための理論や療法を始めたのです。

まず、人間はすべて平等で、人間としての価値に上下はないと考えることから始めましょう。大人も子どもも対等、つまり親子も対等なので、アドラー心理学では、子どもに「ほめる」という評価はしません。また、子どもが言うことを聞かないときに、感情的に叱ったり、罰したりもしません。対等な人間関係を築き、課題を解決するために学ぶのは、“勇気づけ”の方法です。そのことからアドラー心理学は、「勇気づけの心理学」とも言われています。

「勇気づけ」とは、原因ではなく目的を考える

「アドラー心理学」の特徴“目的論”とは?

「アドラー心理学」の大きな特徴のひとつに、“目的論”という理論があります。これは「人の行動には目的がある」という考え方のことです。多くの場合、行動には原因があるというふうに考えますが、目的論は、何か目的があって、その目的を達成するために行動を起こすと考えます。感情にも目的があって、その「目的を実現するため」に感情を作り出し、行動している、という理論です。原因で考えるよりも目的で考えるほうが、人を援助する手立てを引き出しやすいのです。それは子育てでも同じです。

たとえば、あなたが忙しくてイライラしているときに子どもが泣いたとします。「どうして泣いたの?」と、“原因”を子どもに聞くと、「お母さんの顔が怖いから」「自分でできないから」などと言うかもしれません。

一方、「どうしたいの?」と、“目的”を尋ねると、「お母さんとお話ししたい」「お母さんと一緒にやりたい」という答えが出てくるでしょう。すると、「じゃあ、どうしようか?」などと、この場面でのより適切な解決方法を一緒に考えることができます。

“目的”をたずねることで、多くの場合は解決策につながります。また、「泣く」以外のお母さんとつながる行動を学んでもらうこともできるのです。

「家族はみんな自分の仲間、自分の居場所はここ!」と子どもが思えるように

さらに、人間の行動の一番の“目的”をアドラー心理学では、“所属”と考えています。私たちは社会の一員として生きています。「周りの人たちと、いつでも仲間でいる、大切に扱ってもらっている」という感じをもつこと、つまり所属しているという感じをもつことが、人間のあらゆる行動の一番の目的だと考えているのです。

子どもにとって第一の社会は「家族」です。まず、子どもに「自分がもっている力を、自分や家族のために活かすことができるんだ」と感じてもらうことが、自分の能力を信じ、社会に貢献できる大人に育っていくために必要です。ですから、子どもには、「自分はたくさんの生きる力をもっているんだ」「家族はみんな仲間なんだ」「ここには自分の居場所があるんだ」と思ってもらいたいのです。

たとえば、自分のしたことで親が感謝したり喜んだら、子どもは自分が役に立ててうれしいでしょう。また、親は自分の仲間だと感じるでしょう。これは、「パセージ」が掲げる育児の「心理面の目標」につながっていきます。

子育ての2つの目標、「心理面」「行動面」

「パセージ」では、「心理面」「行動面」の2つの目標があります。

✔心理面の目標

「心理面の目標」は、

1. 私は能力がある
2. 人々は私の仲間だ

です。この2つを適切な信念であると考え、育てることを目標にしています。「こういう関わりをしていると、子どもは『私は能力がある』と感じるだろうか。『家族は私の仲間だ』と思うだろうか」と日々、自己点検をしていくことが大切です。それが積み重なっていくことで、子どもは自分は能力があると思うことができ、家族だけでなく、自分と関わる社会の人々についても仲間だという意識が根づいていきます。

✔行動面の目標

「行動面の目標」は、

1. 自立する
2. 社会と調和して暮らせる

です。「パセージ」では、「自立」したうえで「社会と調和して生きる」行動ができる人を目指します。あたり前のことのように思われるかもしれませんが、日々の子育ての中では忘れてしまいがちです。この「行動面の目標」を支えるのが、「心理面の目標」です。アドラー心理学では、行動は信念から出てくると考えます。

自立し、社会と調和して暮らせるという「適切な行動」をするためには、それを支える「適切な信念」が育っていなければなりません。子ども自身に「私は能力がある」「人々は私の仲間だ」という心が育っていれば、たとえ誰も見ていなくても、たとえ誰からも褒めてもらえなくても、「適切な行動」ができるでしょう。そのような行動が「自立して」「社会と調和して生きる」ことにつながっていきます。

大切なのは心理面の「自己管理能力」と「貢献する能力」

「パセージ」では、「心理面の目標」の1にある“能力”は、2種類あると考えています。

✔自己管理の能力

ひとつめは、「自己管理の能力」です。
多くの親が願っている、「子どもが、自分のことを自分でできるようになる」ことは、言い換えれば自立するということです。これを“身体的な能力”といいます。また、筋の通った考え方ができるとか、冷静な話し合いをするというような、“心理的な能力”もあります。この“身体的な能力”と“心理的な能力”を合わせたのが「自己管理の能力」です。

✔貢献する能力

2つめは、「貢献する能力」のことです。
子どもはみんな能力をもっています。お子さんが家族や周囲のために行動をしたら、感謝して、声をかけてあげてください。その積み重ねで「貢献する能力がある自分」が育っていきます。

心理面の目標「私は能力がある」「人々は私の仲間だ」が達成できてはじめて、行動面の目標「自立する」「社会と調和して暮らせる」が達成できます。「仲間と分かち合って暮らすってステキなことだ、自分もみんなと分かち合って暮らしていこう」と決心してくれるように子どもを育てていくために、いつもこの「行動面」「心理面」の目標を頭の中に入れておきましょう。

参考書籍『ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』

書影
ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」

 

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『ほめない、しからない、勇気づける 3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』について

『嫌われる勇気』の大ヒットで空前の大ブームとなったアドラー心理学は、元来「教育と子育て」に根ざしたものです。本書は、30年以上支持されてきた、アドラーの考え方に基づいた子育て学習プログラム「パセージ」を紹介する初めての書籍。「パセージ」を学ぶお母さんのいる家庭をモデルにして、日々の子育てのお悩みエピソードをマンガで提示し、アドラーの思想に則った解決策を学びます。自立し、社会と調和して生きていく大人に育てるための、21世紀型「問題解決能力」を育む子育てメソッドです。

著者・清野雅子、岡山恵実プロフィール

清野雅子(せいの・まさこ)

日本アドラー心理学会カウンセラー。野田俊作氏による育児勉強会を経て、草創期から『パセージ』を学ぶ。家族コンサルタントとして「パセージ」のリーダーを務める。2女の母。

岡山恵実(おかやま・えみ)

日本アドラー心理学会カウンセラー。家族コンサルタントとして「パセージ」のリーダーを務める。自助的学習グループ「アドラー銀杏の会」主宰。1女の母。

アドラー銀杏の会

文・構成/HugKum編集部

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