こども成育デザインって?
日本こども成育協会では、子どもを取り巻く「成育環境」にあるモノやコトをデザインすることを「こども成育デザイン」と定義しています。このこども成育デザインを、企業・行政・アカデミア・子育て支援の専門家らがともに研究し考える「こども成育デザインプロジェクト」の発足を記念し、本フォーラムが開催されました。
第1回目となる今回は「メディア・こども・成育デザイン」と題し、メディアを通したバーチャル体験が増えた子どもの成育環境について、メディアの専門家とこども成育デザインに取り組む企業が語りました。
映像・VRは子どもにどんな影響を与える?
近年、自宅での動画視聴以外にも、バーチャルでの体験機会が増えている子どもたち。映像やVRは子どもにどんな影響を与えるのでしょうか。
フォーラム前半では、テレビ番組・映画プロデューサーの大西隼さん、映画監督の熊坂出さん、VRコンテンツプロデューサーの水野拓宏さんが、映像やVRが子どもに与える影響について語ってくれました。
モデレーターは発達心理学の観点から子ども向け教育コンテンツなどの監修を多数手掛ける、協会理事の沢井佳子さんです。
コロナ禍にVR。映像メディアの影響力が増している
コロナ禍で子ども同士の遊びが大きく変化し、映像やゲームなどのメディアに触れる時間が大幅に増えている昨今。映像メディアの重要性がますます増している状況を受けて、沢井さんは「子どもは多くのことを効率よく学ぶ、発達初期の段階です。子どもたちがどんな成育環境にいたかによって、将来が決まります」と、子どもの成育環境の重要性を説明しました。
「VRコンテンツは従来の映像コンテンツに比べて人への影響力が大きい」という水野さん。具体事例をあげながら、VRはデジタル技術を駆使し「現実同然」と感じさせることができると解説。VRの中で経験したことは現実世界にも影響をおよぼすそうで、今後教育分野での活用の広がりも予感させられます。
「映像を楽しむ際は大人と一緒に」の大切さ
大西さんは、映像やVRは没入力が強く子どもにダイレクトに影響する、そのことに対して大人は注意を払わねばならないと言います。
沢井さんも、特に小さい子には注意が必要で、映像を視聴する際には必ず親が側にいてほしいと話しました。
デジタルネイティブ世代のメディアとの付き合い方
生まれたときからインターネットが身近にある「デジタルネイティブ」世代の子どもたちは、大人世代とはずいぶん異なる、というのは熊坂さんです。コミュニケーション能力や感性、読解力の高さに驚かされたと実体験を語りました。
一方でシリコンバレーの有名人たちは、子どもにデジタル端末を持たせることに非常に慎重だとも指摘。映像メディアの良い部分だけでなく悪い部分にも目を向けて使うことが重要だといいます。
これに対し大西さんは、「子どもたちが接するコンテンツの内容はもちろん、ツールとどのように付き合うかも重要。使い方を早く学ばせるという意味では、小さい頃からデジタル端末に触れさせるのも悪くないのでは」という見方を示しました。
映像・VRには効き目と副作用の両方があるので、それを考えつつ子ども向けコンテンツを発信していく必要があることを確認し、前半は終了しました。
マクドナルドのハッピーセット「子どもの発達を支援する」おもちゃへ
フォーラム後半では、こども成育デザインを実践する企業として、日本マクドナルド株式会社とカゴメ株式会社の事例が紹介されました。
子どもの発達を考え、ハッピーセットを新開発
マクドナルドでは、食事におもちゃなどがついた子ども用の「ハッピーセット」を年間1億食販売しています。そんなハッピーセットのおもちゃが、2022年1月からアップデートされました。
これまでおもちゃのリサイクルなど、ハッピーセットの周辺サービスを充実させてきた同社。おもちゃ自体ももっと魅力的なものにするべく「子どもの発達を支援するものを」との思いで、沢井さん監修のもと新たに開発を始めたそうです。
マクドナルドが考えるこども成育デザインとは、家族の幸せと、未来を担う子どもたちの健全な成長・発達をサポートしていくことです。栄養バランスが楽しく選べること、そして子どもたちの「知りたい」「やってみたい」という好奇心を刺激し、夢中になれるおもちゃや本など。ハッピーセットは子どもたちを支える取り組みでありたいと考えています(日本マクドナルド マーケティング本部 佐賀貴さん)
ハッピーセットの開発方針を新たに策定するにあたって、大切にしたのは「大人が子どもに学ばせようとするのではなく、遊びの結果として学びにつながる」こと。学習指導要領や専門書、子どもの権利条約など、さまざまな視点から情報を収集したそうです。
実際の開発においては、プロジェクトにかかわる全員の目線や知識レベルを統一すべく、関係者全員が子どもの認知・発達心理学の講義を受けたうえで参加しているそう。新しいハッピーセットにかける熱意がうかがえます!
コロナの影響もあり、現在は子どもたちにとって非常に制約が多い状況です。ハッピーセットのおもちゃを通した遊び、その体験や価値を高めたいです。またマクドナルドの取り組みを通じて、世の中に子どもの遊びの重要性を認識してもらえたらと思います」(日本マクドナルド マーケティング本部 小嶌伸吾さん)
毎日野菜に触れるカゴメの保育園
続いての企業事例はカゴメ。「野菜が保育にもたらす新しい可能性」としてカゴメが運営する保育園と野菜栽培キットを紹介しました。
野菜を好きになる保育園ベジ・キッズは、登壇者・飛石さんの「子どもの食に対する責任を、親だけでなく保育園も担ってくれたら」という思いから誕生しました。
ベジ・キッズでは施設・カリキュラム・献立に食育を取り入れており、さらにその3つすべてを連動させているとのこと。例えば、フロアの中央にオープンキッチンを配し、子どもの目線の高さから調理中の手元が見えるようにしたほか、野菜に毎日触れられるカリキュラムに、その日遊んだ野菜を昼食にたっぷり食べられるような献立など、随所に工夫を凝らしています。
園の子達は、じっくり野菜と向き合う日々を過ごしています。そうすることで、認知発達の芽生えを促す時間にもなっているようです。語彙力、数学的関心、指先の発達にもつながることが分かりました(カゴメ 経営企画室 飛石希さん)
また2022年2月からは沢井さん監修のもと、体験型の野菜栽培キットをオンライン販売しています。トライ&エラーの多い野菜栽培を通じて子どもたちの心身・思考の発達を促すのがねらいだそう。
ベジ・キッズも野菜栽培キットも、結果としてこども成育デザインにつながりました。子どもをよく観察して変化に意味を見出し、どうしてそうなったのかを深く追求することが重要です。その深く追求したことを、企業が自分達の強みでデザインしていく。そうすることで子どもの多様な成長と発達があり、大人たちにも学びがもたらされると思います(飛石さん)
成育デザインプロジェクトの今後に注目
子どもの成育環境をどうデザインするのか。映像メディアの視点、企業の視点、発達心理学の専門家の視点から多角的に考えた取り組みは、子育て中のママ・パパにも気づきがたくさんありました。こども成育デザインプロジェクトでは、多方面からの参加者とともに定期的に研究会を開催していく予定とのこと。これからどのような成果があがってくるのか、楽しみです。
文・構成/竹島千遥